新聞歌壇の話をします


こんにちは。永汐れいと申します。

新聞歌壇への投稿歴が2年を超え、昨年個人的にかなり思い入れのあった東京歌壇で年間賞を受賞することもできたので、ひとつの区切りとして、かつ新聞歌壇関連のことで悩んでおられる方々のお役に立てることを願って、新聞歌壇Q&Aというものを作成してみました。「Q」はすべてわたしが投稿をはじめたころに知りたかったこと・誰かに訊きたかったことを思い出しながら書いたものです。目次は以下の通りです(かなり長いので、必要な部分のみ読みたい方は、目次下部「すべて表示」を押下して一度すべての見出しを確認されることをお勧めします)。



ここで一応免責事項のようなことを書いておきます。

①わたしは新聞歌壇関係者でもプロの歌人でもありません。あくまでも一投稿歌人の書いた記事である、という点をあらかじめご了承ください。

【重要】わたしが投稿及び採用経験を持っているのは東京歌壇(東直子選)・毎日歌壇(加藤治郎・水原紫苑・米川千嘉子選)・読売歌壇(俵万智選)のみであるため(各選者敬称略)、以下の記述は他の新聞歌壇・他の選者には当てはまらない可能性があります。この点もご了承ください。

前置きが長くなりました。それでは以下、経験談を交えつつ詳しく書いていきます。


Q そもそも新聞歌壇とは何ですか?

A 全国紙から地方紙まで、新聞各紙に設けられている短歌の投稿コーナーです。新聞によって掲載曜日が異なります(掲載予定日が休刊日にあたる場合は翌日が掲載日になります)。だれでも投稿できます。

Q どうやって応募するのですか?

A 新聞によって異なります。サイトから投稿できる新聞もありますし、葉書やメールで投稿する決まりになっている新聞もあります。

※ちなみにわたしが東京・毎日・読売に投稿している(していた)のは、サイトから手軽に投稿できるから、という理由もあります。各紙の投稿フォームのリンクを張っておくので、よかったら覗いてみてください。
・東京歌壇
https://form.tokyo-np.co.jp/entry/index.php?form_id=xEXXaBzxbVC2ENCGTMkTTw%3D%3D
・毎日歌壇
https://form.run/@mainichi-kadan/
・読売歌壇
https://form.qooker.jp/Q/ja/utahai/toukou/

(ここで「あれ?読売歌壇の投稿フォームには筆名を書く場所がない!本名で投稿しないといけないの?」と思われた方は、次項の【関連】をご覧ください)

※2024.4.21追記
朝日歌壇にもweb投稿フォームができました。

Q 新聞に本名を載せたくないので、筆名で投稿したいです。筆名で投稿すると不利になる点などはありますか?

A まったくありません。わたしはずっと筆名で投稿していますが、そのことで何らかの不利益を被ったことは一度もないです。

【関連】郵便物は筆名で届くのか

読売歌壇のweb投稿フォームには「氏名」を打ち込む欄しかなく、他紙のように本名と筆名を分けて書くことはできません。そのため筆名で載せたい場合、投稿者は氏名の欄に筆名のみを書くことになります。するとここで「郵便物は筆名で届くのか?」という問題が生じます。というのも読売歌壇の場合、掲載されるだけで(特選ではなくても)賞金として図書カードを送付していただけるからです。届かないと新聞社も我々も困るわけですが、結論から書けば、筆名でも届きます。わたしは転居届を利用しましたが、どうやらこれは郵便局ではグレーという扱いをされているらしく(かなり前に手続きをお願いしたときの郵便局の担当の方が転居届で問題ないと仰っており、実際それで郵便物が筆名で届くようになったのですが、今年確認に伺ったところ正式な方法ではないとのことでした)、局によっては受け付けてもらえない可能性があります。他には①住所のあとに「〇〇(本名の名字)方」と付け加えた上で筆名で届けてもらう、②(住所と宛名が郵便局で把握しているものと一致しない郵便物が届いた場合に届く)居住確認の書類に宛名が筆名である旨を記入・返送する→以降特に手続きがなくても筆名で届くようになる、という方法があるようですが、詳細については一度、お近くのなるべく大きな郵便局で相談されることをお勧めします。

※2024.3.15追記 転入届→転居届に訂正しました。さらに、配達員の方の口頭質問にお答えする、という方法もあるようです。繰り返しになりますが、やはり詳細は必ずお近くの専門の方に伺ってください

Q 新聞歌壇に短歌を投稿することのメリットは何ですか?

A 個人的には以下のようなメリットがあると考えています。

①遠くまで届きます。
特に全国紙であれば、全国数百万の新聞購読者に自分の短歌を読んでもらえますし、頻繁に掲載されていれば名前を覚えてもらえるかもしれません(なお東京新聞は全国紙ではありませんが、歌壇への応募は全国からある=販売地域以外の短歌愛好者にも広く読んでもらえるという特色があります)。それにどんな利益があるの?と思われた方もいらっしゃるかもしれませんが、率直に書けば、名前をぼんやりとでも覚えてもらうことで、いつか歌集を出版したときに「あ、どこかでこの名前聞いたことあるかも……」という理由で手に取ってもらえる可能性があるのです。

②長く残ります。
各地の図書館等に所蔵されるほか、特に国会図書館ではほぼ永久に保存される、と言ってもよいのではないでしょうか(調べてみたところ現在はデータベースの検索サービスなどもあるようです)。

③強度の高い・一首で光る短歌を書く練習になります。
でも自分は一首単位ではなくて連作単位で勝負したいから……と思われた方もいらっしゃるかもしれませんが、連作をつくる場合でも一首一首の強度が高いことは大前提になります。

※一首の強度の高さを前提として、ストーリーや抑揚、テンポ、一貫性の問題など、連作には連作特有の難しさがあります。連作単位で評価される新人賞は、新聞歌壇に載るような歌をずらりと並べたからといって受賞できるほど単純なものではありません。わたしも色々模索しているところなので連作について有益なことは書けませんが(受賞してから書きます)、一首単位で評価されることと連作単位で評価されることはまったくの別物、とまでは断言できないにしろ、ほとんど別物です。各人の適性にもよるので一概には言えませんが、後者は格段に難しいということを、これを読んでくださっている短歌をはじめたばかりの方に向けて一応書いておきます。わたしはこのことを早めに知っておきたかったです。

年間賞(新聞によって名称が異なります)という制度があります。
投稿歌人にとって年間賞の受賞はひとつの目標になりますし、受賞できれば実績ができてさらに頑張ろう!という気持ちになれます。尚、受賞者で書いておられる方を見かけなかったので、東京歌壇の年間賞関連のことについては【参考】としてQ&Aの終わりに詳しく書きました。

投稿先によっては賞金がもらえる場合があります。
金銭的な利益を得ることのみを動機として投稿する方はそれほど多くない気もしますが、欲しい歌集代を稼ぐために!という動機で投稿するのもありだと思います。但し、というより言うまでもなく、大金は稼げません。

Q 投稿してから掲載されるまでどのくらい時間がかかりますか?

A 新聞、というより選者によってかなり異なります。また、同じ選者でも投稿時期によって異なることがあるため、一概にこのくらいとは言えません。一番良いのはTwitterで「〇〇歌壇 〇〇選」と検索し、掲載日と投稿日を併記している投稿者の最新のツイートを見て判断することですが、最短でも3週間~、長くて2か月以上かかります(没作を他の選者に提出するとき、わたしの場合は前回の投稿日から最短でも3か月以上は間隔を空けることにしていますが、投稿先によってかなり事情が異なるようですので、間隔は可能なかぎり長めにとる、あるいは投稿先の事情を完全に把握するまで、没作の他所への投稿は控えておくのがよいかもしれません。このあたりは適当にやると二重投稿で失格となるリスクがあるため、必ず投稿先の投稿〜掲載にかかる時間や、没作の扱い等をよく調査した上で決めてください)。

※2024.4.6追記 没作を後日紙面で取り上げる新聞歌壇もあるようです(朝日歌壇では年に一度そのようなコーナが設けられているとのことですが、他にもそのような新聞歌壇がある可能性もあります)やはり上述の通り事前によく投稿先の事情を確認し、くれぐれも二重投稿にならないようご注意ください。

Q 毎週掲載されたいのですが、「何曜日までの分がこの週に載る」等の決まりはありますか?

A 長く投稿していても全くわからないので、毎週掲載されたい場合は毎週決まった曜日に提出するのがおすすめです。

Q 何首まで提出できますか?/何首くらい提出すればいいですか?

A 提出数の制限は新聞によって異なるので応募規定をご覧ください。大抵制限はないように思いますが、制限がない場合の参考になれば、ということで書いておくと、わたしの場合、投稿をはじめたばかりのころは選者1人につき毎週3~5首くらいずつ送っていました。このうちどれが採用されるかによって、採用の方向性や自分の短歌の強みもそれなりにわかってきます。現在は(ちょっと投稿を休んでいるのですが、送るときは)週に1~2首くらいです。

Q 複数の新聞歌壇あるいは選者に投稿してみたいのですが、多作ができません/なんとなく勇気が出ません。

A わたしはこの両方の理由で(完全に昔のわたしのための質問です)、はじめは一人の選者にしか投稿していませんでした。それでも全く構わないと思いますが、わたしのように短歌の発表場所を新聞歌壇に絞っていたりする場合、数回連続で不採用が続くと(特にはじめたてのころは)かなり心にきます。複数選者に投稿していると、「今週は〇〇先生に採っていただけなかったけど、〇〇先生には採っていただけたな」となり、ちょっと心が楽になります。極端な話、没になったからといって死ぬわけでもないので、気軽に(もちろん作品はしっかり吟味して)提出してみるのがおすすめです。なお寡作・多作に関しては各人の作歌スタイルや気質にかなり依存する部分があり、何とも言い難いですが、多作は圧力がかかると突如できるようになったりします。わたしはわりと最近、短歌関連の締め切りが3つ重なって一時的にたくさん作れるようになりました(以来、寡作の時期と多作の時期が交互にやってきます)。本当に人によりますが、意外と気分の問題なのかもしれません。

Q 新聞を購読していません。掲載の有無を新聞を買わずにインターネットで確かめる方法はありますか?

A 確かめられる新聞と確かめられない新聞があります。基本後者だと思っておくのが無難です。確かめられるのは毎日歌壇のみではないでしょうか(あくまでもわたしが知っている限りですので、他にもあればご教示ください)。毎日歌壇の場合、検索窓に「毎日歌壇 〇〇〇〇(筆名)site:mainichi.jp」と入れて検索をかけると、一応掲載の有無はわかります。なぜ「一応」なのかというと、わたしはこの方法でなぜか一度検索漏れがあり、新聞を買い逃したことがあるからです。目安として検索はかけるとしても、載っている可能性のある週はコンビニなどで買っておけば安心かもしれません。また、東京歌壇は特選の場合のみウェブサイトで閲覧できます(評までは閲覧できません)。

どうしても無料で閲覧したい場合や買い逃してしまった場合は、過去の新聞を所蔵している図書館に行く/新聞を購入している知り合いに見せてもらう/バックナンバーを注文する、などの方法で対処するしかないです。

【関連】地方在住で東京歌壇に投稿したい場合

「東京新聞の販売地域外に住んでいるけれど、東京歌壇に投稿したいから東京新聞の電子版を購読したいな。とはいえ購読料は高くて払えないし、掲載を知らせてくれるような友人もいないから諦めるしかないか……」と思っておられる方もいらっしゃるのではないでしょうか(以前のわたしです)。大丈夫です。ちゃんと方法があります。

①払込取扱票を利用して日曜朝刊のみ取り寄せる
この場合、払込取扱票を郵便局でもらうことと、新聞社に在庫確認の電話をして取り寄せ可能か確かめることが必要になります。利点は公式サイト(下記②の方法です)よりも前の日付(1か月前まで)の新聞もまとめて取り寄せられることです。また、送料分②よりも費用が数百円浮きます。
(参考:https://www.tokyo-np.co.jp/koudoku/backnumber

②公式サイトで朝刊のバックナンバーを検索し、日曜の分のみ購入する

払込取扱票よりもはるかに手軽ですが(わたしは吝嗇家のくせに怠惰なので①の方法が続かず、この方法で取り寄せていました)、取扱は7日前の分まで=2週間分しかまとめて購入できないことにご注意ください。油断すると忘れるので、カレンダーのリマインド機能などを利用するのがおすすめです。
(参考:https://tokyo-np.hanbai.jp/products/list.php?category_id=215

Q 投稿しているのですが、なかなか掲載されません。なぜ掲載されないのでしょうか。

A これは正直選者にしかわかりません。しかし、沢山投稿しているとなんとなく推測はできるようになります。以下、なぜ載らないのか?についておそらく普遍的であろう原因を挙げ、わたしなりの対処法をいくつかご紹介します。

①単純に一首の強度が足りない
技術面に関しては本当に努力あるのみで、ひたすら試行錯誤していくしかないです。良い短歌(ここで良い短歌の定義について詳細な議論はしませんが、あえて言うならあなたの心を強烈に揺さぶり、読むだけで「自分も書きたい、書かなくてはならない」という抑えがたい衝動が湧き上がってくるような短歌のことです)に沢山触れたり、プロの歌人が書いた入門書などを読んだりして技法を習得するのが一番だと思います。自らの内部にある強い感情を核にして書くことも強度を上げる方法のひとつではありますが、書き手(作風)によってかなり向き不向きがあります。わたしは7~8割この方法に拠っていますが、感情を抜いた・あえて希薄にした言葉を使って面白い短歌を書いておられる方も沢山見かけます(最近のSNSではむしろこちらが流行している印象があります)。

②何らかの要素が非常に惜しい
没になった短歌でも、たとえば韻律などに気を配り、たった1文字変える・1語入れ替えるだけで劇的によくなることがあります。初めのころはわからなかったのですが、だんだん自分でそのことに気づけるようになりました。わたしはこの場合、推敲して別の選者に提出しています。

③選者の方針と書き手の方針が合っていない
この手の言説を単なる実力不足の言い訳として使うのがもっとも良くないのですが、実際にこのパターンはあります。ある選者に提出して没になったものの納得がいかず、別の選者に提出したところ掲載された・特選をもらった、といったことは、投稿歌人をやっているとよくあります。選者と作風との相性はある程度あるので、(これが難しいところなのですが、ある程度自作を客観視できるのであれば)自分で良いと確信している歌は没になっても未発表のままキープしておき、しばらく経ってから別の選者に提出してみてもいいかもしれません。

④他の書き手がうますぎた
これはあります。としか書けないですが、あります。思い入れの強い短歌だった(※1)のに載らなかった、どうしてだろう、と落胆しながら紙面を見たときに「素晴らしい短歌ばかりだ……これは載らなくても仕方ないな」と思うことはよくあります。非常によくあることですので、凹まなくても大丈夫です(アマチュアの天才も沢山いますが、新聞歌壇にはプロ(※2)が応募してはならないという規定がないため、新人賞の受賞歴や、商業出版歴のあるような方のお名前を見かけることもあります。そのなかで掲載されることは決して当たり前ではありません)。物書きは生きている限りのびしろがあるので、努力を重ねていけばいいだけです。

※1 「思い入れの強い短歌」によくあること(多分)ですが、思い入れが強すぎると駄作になってしまう(作者だけが良い短歌だと思っている・作者にしかわからない短歌になっている)場合があります。思い入れの強い短歌ほど、すぐに提出するのではなく作ってから時間を置き、客観視できるようになってから推敲して提出する、というのを意識するのがいいかもしれません。
※2 短歌におけるプロとアマチュアの定義については諸説あります(そもそも区別はないという説もあります)。おそらく定説はないだろうと思います。ここではあくまでも便宜上、各種新人賞の受賞歴や商業出版歴などのある方を指してプロと呼んでいますが、異論はかなりあるであろうことも重々承知しています。本稿の趣旨から逸れるため、そして流石に荷が重すぎるため(多くの方に納得していただける結論を出すのは相当骨が折れる、というより、まず無理でしょう)、この議論に深入りはしません。

⑤たまたま
たまたまです。このようなことを書くのは毎週真剣に選んでくださっている選者の先生方への非礼にあたるかもしれませんが、場合によっては「たまたま選ばれなかった」と考えておいたほうが精神衛生上良い、ということがあります。掲載作品と掲載されなかった自作を比較しても遜色がない、としか思えないような場合、もっといえば特に次項で記述するような、とにかく負の感情が膨れ上がってしまって苦しい方の場合です。

Q 投稿歌人は他人と比較してつらい/悔しい/腹立たしい気持ちとどう向き合っているのでしょうか。あの人の作品が評価(掲載)されるのに、自分の作品がなぜ評価されないんだ、と思ってしまって苦しいです。

A これはおそらく本気でプロを目指している投稿歌人、ひいてはアマチュア歌人の9割以上が心の内で絶対に思っていることです(わたし調べ)。向上心の裏返し、当たり前の感情です。かっこ悪くて情けないから大抵誰も口に出さないし、書かないし、「そんな感情はありません」という顔をしているだけです。わたしも時々そのようなことを思う一方で、現在の自分には評価されるに値する実力がないということも、誰よりもよく理解しています。わたしは新人賞を歌歴ほんの数年で獲ってしまえるような天才ではありませんし、だからこそ、上述したような負の感情は全部向上心に転化することにしています。悔しいからもっとうまくなってやる、自分より歌歴が短いのに軽やかにプロデビューしていく天才たちの何倍でも時間をかけて何倍でも努力して、いつか絶対に追いついて追い抜いてやる、そして憧れの出版社から絶対に歌集を出すんだ、と思っています。今までここまではっきり書いたことはもちろん口に出したこともなかったのですが(この記事には「何でも話して誰かに役立ててもらう」という目的があるので馬鹿正直に書きました)、わたしは心の底からそう思っているし、未来の自分を信頼してもいます。だから、いや、だからではないのですが、あなたもきっと大丈夫です。負の感情は強ければ強いほど強力なエネルギーに変換できるので、味方につければ無敵です。


【参考1】東京歌壇の年間賞受賞後の流れ

最後に、この情報が必要になる方もいらっしゃると思うので、東京歌壇では年間賞をもらうとどうなるのか?というのを書いておきます。はじめに説明しておくと、週ごとの特選作品から選ばれるのが月間賞であり、月間賞から選ばれるのが年間賞です。※受賞したときのことは受賞してから知りたい!という方は、この項をこれ以上読まないでください。


もしあなたが年間賞に選ばれた場合、その年の12月の終わりごろに東京新聞から封筒が届きます。そして、受賞コメント・顔写真等の送付を求められます。受賞コメントは何を書いても大丈夫ですが、問題なのは顔写真です。いや、大抵の人は顔写真など問題にならないのでしょうが、わたしの場合は顔写真が問題でした。というのも、わたしには「詩歌をやる人間はむやみに顔を出すべきではない」という、おそらく傍から見れば謎の信念があるため(あくまでも個人の信念です。この時代に顔出しをしない主義の詩歌人は少数派でしょうから、顔出しをする他人については何とも思いません)、どうしても顔写真を載せたくなかったのです。しかしTwitterで「東京歌壇 年間賞」と検索すると出てくる記事を見るかぎり、顔写真を載せていない人などいませんでした。それでおそるおそる担当の方にメールで問い合わせてみたところ、顔写真は載せなくても問題ないとのことでした。というわけで顔写真を載せたくない方、心配しなくても大丈夫です、とお伝えしておきます。紙面での受賞発表日はあらかじめ伝えていただけませんが、ほぼ毎年翌年1月最終週の金曜夕刊のようです。ただ、受賞者はいつものように新聞を購入せずとも、盾・賞状とともに3枚ほど受賞発表号を送付していただけるので、いつの夕刊を買えばいいの?などと気にされなくても大丈夫です。ちなみにわたしは岩手県在住ですが、受賞発表の翌日には盾・賞状・新聞を送付していただきました。早すぎてびっくりしました。

【参考2】東京歌壇の年間賞はどうすれば受賞できるのか

はじめに書いておくと、わたしはこの賞を〈冷凍庫に詰める生ごみ生きててって言われたあとの深夜の散歩〉という歌で受賞しました。しかし、とくに短歌をはじめたての方などの中には、おそらく疑問に思われた方もいらっしゃると思います。「どうしてこんな内容の(孤独感や希死念慮の)インパクトだけで攻めているような歌が受賞したの?」「前年までの受賞作とは雰囲気が違うじゃないか」と。ちなみに過去3年分の受賞作を振り返ってみると、2022年度は薄暑なつ氏の〈輪になって踊ってたころわたしたちちいさな約束で生きていた〉、2021年度は長井めも氏の〈手のひらを空にかざして傘の無いひとほど空を見上げているね〉、2020年度は柳本々々氏の〈全員マスクのこのでんしゃで降ってくるひかりのほうへ運ばれてゆく〉です。
こうして並べてみると、たしかにわたしの受賞作は、少なくともここ数年ではそれなりに異色だと思います(あくまでも歌の雰囲気という表面的な印象のみで言えば、の話です)。正直わたしもこの歌が受賞するとは全く思っていませんでした。しかしこの歌は細部にかなり気を遣った歌で、決して孤独感や希死念慮のインパクトだけで攻めたわけではありません。韻律に関して、i音を意識的に配置しているのもそうですが、3句目に「生きててと」ではなく「生きててって」とわざわざ促音を入れて書き、字余りにしたことにも意味があり(この言葉が主体に切実に響いたことを強調・読者に印象付けるためです)、一首のなかで「生」という字を2度使っていることにも意味があります(1度目の「生(ごみ)」は死を連想させるものとして、2度目の「生(きててって)」との対比になるように置いています)。つまり、書くまでもないことかもしれませんが、インパクトだけで受賞はできません。年間賞が欲しい、どういう短歌を書けば受賞できるのか?ということに関して、選考基準を語れるのは選者1人ですが、少なくとも「三十一文字すべてに必然性を持たせること」をつねに明確に意識しておくことが最も大切なのではないか、と個人的には思います(当然のことのようでありつつ難しいです)。 自歌自解は余程必要に迫られなければしないので、書いていてだいぶ気恥ずかしいですが、そしてある程度歌歴のある方にとっては全体的に蛇足のような記述だろうとも思ったのですが、最近短歌をはじめたばかりの方の役には立つかもしれない、と思ったので書いてみました。

新聞歌壇の話はこれで以上です。長い文章をお読みいただきありがとうございました。特に後半は新聞歌壇の話というよりただただ短歌の話をしていた気もしますが、この記事が一部でもあなたのお役に立てば本当にうれしいです。


※誤情報が含まれていた場合、お手数ですが可能な限りメールで(hollowme2020@gmail.com宛)お知らせください。また、ご意見等もメールでお寄せください。TwitterのFFの方はDMでも一応大丈夫ですが、Twitterだとたまに通知が来なくてまったく気づかないことがあります……。


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