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タンパク質の摂取は「筋トレの前と後」のどちらが効果的?


 筋トレによる筋肥大の効果を最大化するためには、筋トレの前と後のどちらのタイミングでタンパク質を摂取したほうが効果的なのでしょうか?

 このテーマについては多くの検証がなされており、筋トレ前の摂取でも、後の摂取でも筋肥大の効果が高まることが報告され、10年以上も議論が続いていました。

 この議論のひとつの答えとなるメタアナリシスが2013年に報告され、「タンパク質の摂取は筋トレ前後のどちらでも同等の筋肥大の効果が得られる」という見解が示されていました。

 そして2020年、この議論の終止符となる最新のメタアナリシスの結果が報告されたのです。

 今回は、筋トレ前後のタンパク質のタイミングについて、近年のメタアナリシスの結果をご紹介しましょう。




◆ 筋トレの前vs後:20年にわたり行われた議論


 筋トレ後の1〜3時間はタンパク質摂取の「ゴールデンタイム」といわれています。その理由は、この時間帯は筋肉のもととなる筋タンパク質の合成感度がもっとも高まり、タンパク質を摂取することで筋タンパク質の合成量をもっとも増やせるからです。

 マクマスター大学の研究によれば、筋トレ後の3時間内で筋タンパク質が最も効率よく作られ、その後24時間、48時間と効率は下がると報告されています(Phillips SM, 1997)。

 ウェスタン大学の研究では、筋トレ後すぐから30分以内に筋タンパク質の生成が始まり、1〜2時間でピークに達するとも指摘されています(Lemon PW, 2002)。

Lemon PW, 2002より筆者作成

 しかし、テキサス大学の研究では、筋トレ前に糖質と必須アミノ酸を摂ると、筋トレ後よりも効果が高いと示されています。

Tipton KD, 2001より筆者作成

 このような研究結果にもとづいて、タンパク質を筋トレの前に摂るか後に摂るかで、どちらが筋肥大に効果的かという議論が続いていました。この問題にひとつの答えを出したのが、2013年のニューヨーク市立大学の研究です。

 筋トレ前と後でタンパク質を摂った場合の効果を23の研究を基に解析され、結論としては、筋トレの前でも後でも、しっかりとタンパク質を摂れば筋肉増加の効果に違いはないとされています(Schoenfeld BJ, 2013)。

 さらに、2017年にもニューヨーク市立大学が検証を行い、筋トレ前後でタンパク質を摂った場合の筋肉増加の差はないと再確認されています(Schoenfeld BJ, 2017)。

 そして、この議論の終止符となる最新のメタアナリシスが2020年に報告されました。


◆ 議論に終止符をうつ最新エビデンスとは?


 2020年、ユニバーシティ・カレッジ・ダブリンのWirthらは、筋トレ前または後のタンパク質の摂取による筋肥大の効果への検証を行った65の研究報告をもとにメタアナリシスを行いました。

 被験者は筋トレ経験者も含む2907名(男性1514名、女性1380名、性別不明13名)で、成人と高齢者がいます。成人の平均年齢は20.3~52.0歳、高齢者は55歳以上です。被験者は、プロテイン・サプリメント摂取グループとプラセボ摂取グループ、または高タンパク質摂取と低タンパク質摂取のグループに分かれ、介入期間は4週間から2年間でした。タンパク質は主にホエイプロテインから摂取されました(その他はカゼインや高タンパク質食品)。

 その結果、筋トレ前でも後でも、筋肥大の効果は同等でした。

Wirth J, 2020より筆者作成


 この結果から、タンパク質の摂取は筋トレ前後のタイミングにかかわらず、同等の筋肥大の効果があることが示唆されました。この効果は成人でも高齢者でも同様でした。

 Wirthらのメタアナリシスの結果は、タンパク質を筋トレの前と後のどちらで摂取するのが効果的かという疑問に答えを示しています。

 「タンパク質の摂取タイミングは筋トレの前と後のどちらも同等に効果的である」

 Wirthらのメタアナリシスの結果は、ニューヨーク市立大学のメタアナリシスを裏付けており、この議論には終止符が打たれたと言えます。

 筋トレ後の1〜3時間は、筋タンパク質の合成が最も活発です。そのため、筋トレ直前または直後でしっかりとタンパク質を摂取することが重要です。

 さらに、筋トレ後の少なくとも24時間は筋タンパク質の合成感度が高まります。筋トレ前後だけでなく、この24時間で最適な摂取量とタイミングでタンパク質を摂取することが、筋肥大の効果の最大化につながります。
筋トレ後に摂るべき「タンパク質の摂取量」のエビデンスまとめ
筋トレ後のタンパク質摂取は「24時間」を意識するべき理由

 筋トレ前後のどちらかでタンパク質をしっかり摂取し、筋トレ後の24時間でも最適な摂取量を摂取することが、筋肥大の効果を最大化するための戦略になるでしょう。



◆ 筋トレの科学シリーズ


シリーズ1:筋肉を増やすための「タンパク質摂取のメカニズム」を理解しよう!
シリーズ2:筋トレ後に摂るべき「タンパク質の摂取量」のエビデンスまとめ
シリーズ3:筋トレ後のタンパク質摂取は「24時間」を意識するべき理由
シリーズ4:筋トレの効果を最大にする「タンパク質の摂取タイミング」のエビデンスまとめ
シリーズ5:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取パターンを知っておこう!
シリーズ6:睡眠前のタンパク質の摂取が筋トレの効果を最大化させる最新エビデンス
シリーズ7:筋トレするなら「タンパク質の摂取と腎臓結石のリスク」について知っておこう!
シリーズ8:筋トレ前の静的ストレッチは筋力増強の効果を低下させる最新エビデンス
シリーズ9:筋トレの効果を最大化するトレーニング要素の最新エビデンス
シリーズ10:筋トレの効果を最大化する「トレーニングの順番」を知っておこう!
シリーズ11:コーヒーブレイクが筋トレのパフォーマンスを高める最新エビデン
シリーズ12:筋トレするなら「フルレンジ」が効果的という最新エビデンス
シリーズ13:筋トレ後にタンパク質と炭水化物(糖質)を摂取しても筋肥大の効果はアップしない
シリーズ14:筋トレには「ぽっこりお腹を引き締める」効果がある!?
シリーズ15:科学が明らかにした「モテるボディの絶対条件」を知っておこう!
シリーズ16:筋トレによる筋肥大と脂肪の減少効果を最大にする「プロテインの摂取タイミング」を知っておこう!
シリーズ17:ダイエットでやるべき「筋トレの方法論」を知っておこう!
シリーズ18:筋トレで筋肥大の効果を最大化するには疲労困憊まで追い込むべきか?
シリーズ19:筋トレ前の炭水化物(糖質)の摂取は必要ない?
シリーズ20:タンパク質の摂取は「筋トレの前と後」のどちらが効果的?


◆ 参考文献


Phillips SM, et al. Mixed muscle protein synthesis and breakdown after resistance exercise in humans. Am J Physiol. 1997 Jul;273(1 Pt 1):E99-107.

Lemon PW, et al. The role of protein and amino acid supplements in the athlete's diet: does type or timing of ingestion matter? Curr Sports Med Rep. 2002 Aug;1(4):214-21.

Tipton KD, et al. Timing of amino acid-carbohydrate ingestion alters anabolic response of muscle to resistance exercise. Am J Physiol Endocrinol Metab. 2001 Aug;281(2):E197-206.

Schoenfeld BJ, et al. The effect of protein timing on muscle strength and hypertrophy: a meta-analysis. J Int Soc Sports Nutr. 2013 Dec 3;10(1):53.

Schoenfeld BJ, et al. Pre- versus post-exercise protein intake has similar effects on muscular adaptations. PeerJ. 2017 Jan 3;5:e2825.

Wirth J, et al. The Role of Protein Intake and its Timing on Body Composition and Muscle Function in Healthy Adults: A Systematic Review and Meta-Analysis of Randomized Controlled Trials. J Nutr. 2020 Jun 1;150(6):1443-1460.


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