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ダイエットでやるべき「筋トレの方法論」を知っておこう!


 ダイエットの成功の秘訣は何でしょうか?

 現代のスポーツ科学では「筋肉量の維持」が重要な要素とされています。

 体重を減少させるためにエネルギー摂取量を制限すると、筋肉量も低下してしまうことが一般的です。この筋肉量の減少が、後にリバウンドを引き起こす原因となります。

 そのため、ダイエット中に筋トレを継続して「筋肉量の減少を防ぐ」ことが、成功への鍵となるのです。

 ただし、単純に筋トレをするだけで良いというわけではありません。 筋トレを通じて筋肥大させるだけでなく、脂肪を効果的に減少させる方法も存在します。

 今回は、ダイエットに最適な筋トレの方法論について、近年の研究報告をご紹介しましょう。




◆ 筋肥大の効果は「トレーニングの総負荷量」で決まる


 筋トレによって筋肉量が増加することを「筋肥大」といいます。

 これまで、筋肥大の効果を最大化するためには「高強度トレーニング」が最も効果的であるとの認識が一般的でした。しかし、筋タンパク質の合成率を計測できる新しい検査方法の確立により、筋トレの方法論にパラダイムシフトが起きたのです。

 その核心は「筋肥大の効果は、強度そのものよりも『トレーニングの総負荷量』で決まる」ということです。

 総負荷量とは、トレーニングの強度、回数、そしてセット数を組み合わせて計算される負荷の総量を指します。

 総負荷量 = 強度 × 回数 × セット数

 このことから、低強度のトレーニングであっても、回数やセット数を増加させて総負荷量を高強度トレーニングと同等のレベルにすれば、同じ筋肥大効果が得られるということが示唆されています。

 さらに最新のメタアナリシスでは、強度や回数、セット数といったトレーニング要素の中でも、もっとも筋肥大の効果に重要なのが「セット数」とされています。セット数を増やして総負荷量を高めることが筋肥大の効果の最大化に寄与することが示唆されているのです。
筋トレの効果を最大化するトレーニング要素の最新エビデンス

Currier BS, 2023より筆者作成


 トレーニングの総負荷量を高めるためには、セットの間に2分以上の休憩(インターバル)を取ることが有効とされています。適切な休憩を取りつつ、セット数を増やすことで、さらなる筋肥大の効果が期待できます。


◆ ダイエットで筋トレするなら「低強度トレーニング」


 ダイエットで筋トレを行う目的は、筋肥大の効果とともに脂肪の減少効果も得ることです。

 筋トレと言うと、重いバーベルを使った高強度トレーニングが一般的に思い浮かべられるかもしれませんが、高強度トレーニングは主に無酸素性代謝でエネルギーを供給するため、脂肪の燃焼効率はそれほど高くありません。

 一方、低強度トレーニングは有酸素性代謝を部分的に利用してエネルギーを供給するため、脂肪燃焼が促進されます。

 近年の研究によれば、低強度トレーニングは高強度トレーニングに比べてエネルギー消費量が高いことが示されています。

 2019年、カンピーナス州立大学のBrunelliらの研究では、被験者に最大筋力の80%での高強度トレーニングと30%での低強度トレーニングを疲労困憊まで行わせました。 その結果、低強度トレーニングの方が高強度よりも総負荷量が高く、エネルギー消費量も増加することが確認されました。

Brunelli DT, 2019より筆者作成


 これらの結果を踏まえると、ダイエットの目的で筋トレを行う場合、低強度トレーニングで総負荷量を高めることで、エネルギー消費量を増加させ、筋肥大と共に脂肪の減少効果も期待できると考えられます。

 では、ダイエットを目的とした筋トレの最適な方法は何でしょうか?


◆ ダイエットで筋トレするなら「多関節トレーニング」


 ダイエットで筋トレをするなら、低強度トレーニングで総負荷量を高めることで、エネルギー消費を増やし、筋肥大と同時に脂肪の減少が期待できます。しかし、多忙な日常では長時間のトレーニングを取り入れるのは難しい。だからこそ、短時間での効果的な筋トレメニューを行いたいものです。

 筋トレメニューは、目的(筋力増強、筋肥大、パフォーマンス向上など)によって変わります。万能なメニューは存在しませんが、ダイエットを目的として全身の筋肉量を増やす場合、最近の研究が参考になります。

 筋トレにはアームカールのような単関節トレーニング(アイソレーション)と、スクワットやベンチプレスのような多関節トレーニング(コンパウンド)が存在します。では、どちらが全身の筋肉量増加に効果的なのでしょうか?

 この疑問を検証したのがパドヴァ大学のPaoliらの研究です。

 Paoliらは単関節トレーニングと多関節トレーニングの総負荷量が等しくなるように統制し、両トレーニングの脂肪量、筋肉量、最大酸素摂取量に対する効果を検証しました。

 被験者を単関節トレーニングと多関節トレーニングの2つのグループに分け、8週間トレーニングを実施。多関節トレーニングは6〜8RMで行われ、総負荷量を同等にするために単関節トレーニングは12〜18RMで行われました。トレーニング前後で筋力(スクワット、ベンチプレス、膝伸展の1RM)、脂肪量、筋肉量(除脂肪量)、最大酸素摂取量が計測されました。

Paoli A, 2017より筆者作成


 結果として、両グループで筋肉量と筋力、最大酸素摂取量の増加、脂肪量の減少が確認されましたが、多関節トレーニングでの筋力と最大酸素摂取量の増加が顕著でした。

Paoli A, 2017より筆者作成

 これら結果から、多関節トレーニングは単関節と同等の筋肥大効果が期待できるだけでなく、筋力と最大酸素摂取量の向上も見込めることがわかりました。

 多関節トレーニングは最大酸素摂取量を12.5%増加させることができ、これは通常の有酸素運動と同等か、それ以上の効果であるとされます。Paoliらは、この増加は脂肪量の減少にも寄与すると指摘しています。つまり、多関節トレーニングは筋肥大の効果だけでなく、脂肪量の減少も期待できるメニューなのです。


 これらの知見をまとめると、ダイエットやリバウンドの防止を目的とする筋トレでは、単関節トレーニングは行わなずに、多関節トレーニングを中心に、低強度のトレーニングをセット数を多くして行うことがおすすめになります。余裕があれば、単関節トレーニングを追加することで、さらなる筋肥大効果が期待できるでしょう。




◆ 筋トレの科学シリーズ


シリーズ1:筋肉を増やすための「タンパク質摂取のメカニズム」を理解しよう!
シリーズ2:筋トレ後に摂るべき「タンパク質の摂取量」のエビデンスまとめ
シリーズ3:筋トレ後のタンパク質摂取は「24時間」を意識するべき理由
シリーズ4:筋トレの効果を最大にする「タンパク質の摂取タイミング」のエビデンスまとめ
シリーズ5:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取パターンを知っておこう!
シリーズ6:睡眠前のタンパク質の摂取が筋トレの効果を最大化させる最新エビデンス
シリーズ7:筋トレするなら「タンパク質の摂取と腎臓結石のリスク」について知っておこう!
シリーズ8:筋トレ前の静的ストレッチは筋力増強の効果を低下させる最新エビデンス
シリーズ9:筋トレの効果を最大化するトレーニング要素の最新エビデンス
シリーズ10:筋トレの効果を最大化する「トレーニングの順番」を知っておこう!
シリーズ11:コーヒーブレイクが筋トレのパフォーマンスを高める最新エビデン
シリーズ12:筋トレするなら「フルレンジ」が効果的という最新エビデンス
シリーズ13:筋トレ後にタンパク質と炭水化物(糖質)を摂取しても筋肥大の効果はアップしない
シリーズ14:筋トレには「ぽっこりお腹を引き締める」効果がある!?
シリーズ15:科学が明らかにした「モテるボディの絶対条件」を知っておこう!
シリーズ16:筋トレによる筋肥大と脂肪の減少効果を最大にする「プロテインの摂取タイミング」を知っておこう!
シリーズ17:ダイエットでやるべき「筋トレの方法論」を知っておこう!


◆ 参考文献


Brunelli DT, et al. Acute low- compared to high-load resistance training to failure results in greater energy expenditure during exercise in healthy young men. PLoS One. 2019 Nov 11;14(11):e0224801.

Paoli A, et al. Resistance Training with Single vs. Multi-joint Exercises at Equal Total Load Volume: Effects on Body Composition, Cardiorespiratory Fitness, and Muscle Strength. Front Physiol. 2017 Dec 22;8:1105. 


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