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筋トレのトレーニング強度と筋肥大の関係について知っておこう!【最新エビデンス】


 「筋トレで筋肉を大きくする(筋肥大させる)ためには、バーベルの重量をどのように設定すれば良いでしょうか?」

 この問いに対して、現代のスポーツ医学は次のように答えています。

 「筋肥大の効果はバーベルの重さ(強度)だけでは決まらない」

 「軽い重量(低強度)でも重い重量(高強度)でも疲労困憊まで行えば筋肥大の効果は同じである」

 「なぜなら、筋トレによる筋肥大の効果はトレーニングの『総負荷量』によって決まるから」

 これまで、筋トレによる筋肥大の効果を高めるためには重い重量で行う「高強度トレーニング」が常識とされてきました。しかし、現在ではこの常識は過去のものとなり、新たな常識として低強度でも高強度でもトレーニングによる総負荷量を高めることが筋肥大の効果を最大化させるという科学的根拠(エビデンス)が報告されています。

 そして、2021年にこのエビデンスをさらに裏付ける最新の研究結果が報告されました。今回は、その研究報告をご紹介しましょう。




◆ 筋肥大を目的とした筋トレ方法論のパラダイム・シフト


 2009年、アメリカスポーツ医学会(ACSM)は、筋トレによる筋肥大には「高強度トレーニング」が有効であるという公式声明を発表しました。

 具体的には「トレーニングによる筋肥大の効果を高めるには、最大筋力(1RM)の70%以上の強度で、初心者は8〜12回、経験者は1〜12回の回数を行うことを推奨する」としています。

 最大筋力(1RM:one-repetition maximum)とは、1回で挙げられる最大の重量のことを指し、最大筋力が100kgであれば、最大筋力の70%の強度とは70kgの重量のことになります。

 この公式声明が筋トレの「常識」となり、多くのメディアやトレーナーが筋肥大の効果を高める際に高強度トレーニングを勧めるようになりました。

 しかしながら、2017年、この常識を覆す新たなエビデンスが報告されました。

 ニューヨーク市立大学のSchoenfeldらは、これまでに報告された21の研究結果をもとに異なるトレーニング強度(低強度 vs 高強度)が筋肥大の効果に与える影響について解析したメタアナリシスを報告しました。

 その結果、低強度でも高強度でも疲労困憊になるまで追い込み、総負荷量を同等に高めれば、筋肥大の効果に有意な差はないと結論づけました(Schoenfeld BJ, 2017)。

Schoenfeld BJ, 2017より筆者作成


 アメリカスポーツ医学会が高強度トレーニングを推奨してから約10年を経て、Schoenfeldらのメタアナリシスによって、低強度でも高強度でも総負荷量を高めれば筋肥大の効果に差はないという新たなエビデンスが示されたのです。

 これにより、筋肥大を目的としたトレーニングの方法論のパラダイム・シフトが起きました。筋肥大の効果は強度ではなく、トレーニングの「総負荷量(training volume)」によって決まるという新たな常識が生まれました。

 トレーニングの総負荷量とは、強度(重量)と回数、セット数を組み合わせた総量のことを指します。

 総負荷量 = 強度(重量) × 回数 × セット数

 筋肥大の効果が総負荷量によって決まるということは、強度という一つの要素だけでなく、回数やセット数によっても影響されることを意味します。そのため、低強度トレーニングでも回数やセット数を増やして、高強度トレーニングと同じように総負荷量を高めれば、同等の筋肥大の効果が得られるのです。

 例えば、バーベルの重量が70kgの高強度で、10回、3セットのトレーニングを行ったときの総負荷量は2100kg(70×10×3)になります。これに対して、30kgの低強度でも回数を25回に増やして3セット行えば、総負荷量は2250kg(30×25×3)となり、筋肥大の効果も同じになるということです。

 東京大学の研究報告では、ベンチプレスによる総負荷量が同等になるように設定した3つの異なる強度、回数、セット数のプロトコル(4RM×7セット、8RM×4セット、12RM×3セット)を10週間行った結果、大胸筋の筋肥大の効果に有意な差は認められませんでした(Kubo K, 2021)。

 トリアングロ・ミネイロ連邦大学の研究報告では、女性を対象にした脚を対象とした3つのトレーニング(レッグエクステンション、レッグカール、レッグプレス)を総負荷量が同等になるように高強度と低強度で行った結果、低強度が高強度よりも高い筋肥大の効果が示されました(Franco CMC, 2019)。

 このように、最近の研究報告でも同じような結果が報告されています。そして、2021年にはこの新たな常識を裏付ける最新のメタアナリシスが報告されました。


◆ 最新のネットワークメタアナリシスの結果とは?


 最新のメタアナリシスを報告したのがリオグランデ・ド・スル大学のLopezらです。

 Lopezらは、Schoenfeldらのメタアナリシスの解析内容をさらに詳細化してネットワークメタアナリシスというより強固なメタアナリシス手法を用いて解析を行いました。

 Schoenfeldらのメタアナリシスの対象は21の研究報告でしたが、Lopezらは28の研究報告を対象としました。

 Schoenfeldらは、強度の設定を低強度(最大筋力の60%未満)と高強度(最大筋力の60%以上)の2つのカテゴリのみで、その定義もざっくりしたものでした。これに対して、Lopezらは低強度(最大筋力の60%未満)、中強度(最大筋力の60%以上79%未満)、高強度(最大筋力の80%以上)と3つのカテゴリを明確に定義して比較しました。また、Lopezらは被験者をトレーニング未経験者と経験者に分けて解析しました。

 解析の対象は平均年齢23.4±3.0歳の健康な男女747名であり、男性が67.9%、トレーニング未経験者が75.0%を占めていました。トレーニングの介入期間の平均は8.9±2.1週間で、各トレーニングは疲労困憊になるまで行われました。

 それでは、結果を見ていきましょう。

 筋肥大の効果に対するトレーニングの強度による比較は、低強度 vs 高強度、低強度 vs 中強度、中強度 vs 高強度で行われ、すべてにおいて有意な差は認められませんでした。


 また、トレーニング未経験者は経験者よりも、強度に関係なく筋肥大の効果が得られやすいことが示されました。

 さらに、この筋肥大の効果は性別や身体部位(上半身や下半身)には影響されないことが確認されました。

 これらの結果から、トレーニングを疲労困憊まで行い、総負荷量を高めれば、強度に関係なく筋肥大の効果は同等であることが示唆されました。

 このような筋肥大の効果は、トレーニング未経験者では得やすく、経験者では効果が得られにくいことも示されました。これは「リターンの逓減効果」といい、筋トレの経験が年単位で長くなると、同じ総負荷量でも筋肉の合成が難しくなるため、筋肥大の効果が得られにくくなることが指摘されています。そのため、セット数を増やして総負荷量をさらに高めることが推奨されています。

 Lopezらは、これらの結果から「筋トレによる筋肥大は、疲労困憊まで総負荷量を高めれば、強度に関係なく同等の効果が得られる」と結論づけています。


◆ 総負荷量を高める中強度トレーニングの重要性


 筋トレによる筋肥大の効果を最大化するためには、強度に関係なく疲労困憊まで回数やセット数を増やし、総負荷量を高めることが重要です。

 しかし、どの強度が最適なのかは疑問に思う方も多いでしょう。

 この疑問に答えるのが、2021年に国際大学ストレングス&コンディショニング協会(IUSCA)が公表した公式声明です(Schoenfeld BJ, 2021)。

 高強度トレーニングのリスクとしては、関節や筋肉への過剰な負担があり、それによる怪我の可能性が考えられます。一方、低強度トレーニングでは、総負荷量を高めるために高回数が必要となり、それが中強度に比べて不快感や努力感が高まると指摘されています(Ribeiro AS, 2019)。

 IUSCAの公式声明によれば、高強度よりも関節や神経筋系への負担が少ない「中強度トレーニング」が、低強度に比べて時間効率も良いため、筋肥大を目的とする場合には中強度トレーニングを推奨しています。

 では、中強度トレーニングによってどうやって総負荷量を高めることが筋肥大の効果を最大化させるのでしょうか。

 最新のエビデンスによって示唆されているのが「セット数」です。

 総負荷量は強度、回数、セット数を掛け合わせたものなので、中強度のトレーニングでなるべくセット数を増やすように行うことが総負荷量を最大化させ、筋肥大の効果の最大化につながるのです。
筋トレの効果を最大化するトレーニング要素の最新エビデンス


 筋肥大の効果を追求するには、単に重い重量を持ち上げるだけではなく、適切な重量を選び、回数とセット数を適切に設定して、総負荷量を高めるトレーニングのデザインが必要です。目指す総負荷量を基に、いくつかの重量を選び、回数やセット数を調整しながらトレーニングを試すことをおすすめします。



◆ 筋トレの科学シリーズ


シリーズ1:筋肉を増やすための「タンパク質摂取のメカニズム」を理解しよう!

シリーズ2:筋トレ後に摂るべき「タンパク質の摂取量」のエビデンスまとめ

シリーズ3:筋トレ後のタンパク質摂取は「24時間」を意識するべき理由

シリーズ4:筋トレの効果を最大にする「タンパク質の摂取タイミング」のエビデンスまとめ

シリーズ5:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取パターンを知っておこう!

シリーズ6:睡眠前のタンパク質の摂取が筋トレの効果を最大化させる最新エビデンス

シリーズ7:筋トレするなら「タンパク質の摂取と腎臓結石のリスク」について知っておこう!

シリーズ8:筋トレ前の静的ストレッチは筋力増強の効果を低下させる最新エビデンス

シリーズ9:筋トレの効果を最大化するトレーニング要素の最新エビデンス

シリーズ10:筋トレの効果を最大化する「トレーニングの順番」を知っておこう!

シリーズ11:コーヒーブレイクが筋トレのパフォーマンスを高める最新エビデン

シリーズ12:筋トレするなら「フルレンジ」が効果的という最新エビデンス

シリーズ13:筋トレ後にタンパク質と炭水化物(糖質)を摂取しても筋肥大の効果はアップしない

シリーズ14:筋トレには「ぽっこりお腹を引き締める」効果がある!?

シリーズ15:科学が明らかにした「モテるボディの絶対条件」を知っておこう!

シリーズ16:筋トレによる筋肥大と脂肪の減少効果を最大にする「プロテインの摂取タイミング」を知っておこう!

シリーズ17:ダイエットでやるべき「筋トレの方法論」を知っておこう!

シリーズ18:筋トレで筋肥大の効果を最大化するには疲労困憊まで追い込むべきか?

シリーズ19:筋トレ前の炭水化物(糖質)の摂取は必要ない?

シリーズ20:タンパク質の摂取は「筋トレの前と後」のどちらが効果的?

シリーズ21:筋トレのトレーニング強度と筋肥大の関係について知っておこう!


◆ 参考文献


Schoenfeld BJ, et al. Strength and Hypertrophy Adaptations Between Low- vs. High-Load Resistance Training: A Systematic Review and Meta-analysis. J Strength Cond Res. 2017 Dec;31(12):3508-3523.

Kubo K, et al. Effects of 4, 8, and 12 Repetition Maximum Resistance Training Protocols on Muscle Volume and Strength. J Strength Cond Res. 2021 Apr 1;35(4):879-885.

Franco CMC, Lower-Load is More Effective Than Higher-Load Resistance Training in Increasing Muscle Mass in Young Women. J Strength Cond Res. 2019 Jul;33 Suppl 1:S152-S158.

Lopez P, et al. Resistance Training Load Effects on Muscle Hypertrophy and Strength Gain: Systematic Review and Network Meta-analysis. Med Sci Sports Exerc. 2021 Jun 1;53(6):1206-1216.

Coffey VG, Early signaling responses to divergent exercise stimuli in skeletal muscle from well-trained humans. FASEB J. 2006 Jan;20(1):190-2.

Schoenfeld BJ, et al. Resistance Training Recommendations to Maximize Muscle Hypertrophy in an Athletic Population: Position Stand of the IUSCA. Vol 1 No 1 (2021): International Journal of Strength and Conditioning.

Ribeiro AS, et al. Acute Effects of Different Training Loads on Affective Responses in Resistance-trained Men. Int J Sports Med. 2019 Dec;40(13):850-855.

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