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新年に「あぶり出し」の年賀状を/真野愛子

YouTubeにあがっている討論番組の動画を見ていたら、司会の田原総一朗さんと政治学者の岩田温さんが激しい口喧嘩をしていた。
田原さんが岩田さんの発言にご立腹で、
「帰れ!」
と怒鳴るのだが、それに対して岩田さんが、
「呼んどいて帰れとはなんだ!」
と言い返すのだ。
この瞬間、正直わたしは声をあげて笑ってしまった。
 
かつて「帰れ!」と言われて帰った人もいるし、帰るのも大人げないと堪えた人もいるが、こんなふうに言い返されてしまうのは、田原さんやその討論番組が以前とは違う見られ方をしている表れだと思う。
 
わたしに固定されたイデオロギーはないのだけれど、左派やリベラルといった人たちがその昔、大きな影響力を持っていたことくらいは知っている。
歴史を振り返ると、そうなるのもわかる気がする。
しかしだ。
 
自分は正しい。
 
そう信じた瞬間から、その人には危うさが漂う。
正義は信じるのではなく、「果たして自分は正しいのだろうか?」と疑い続けることでしか維持できないものだと思う。
その点、愛は疑うのではなく、信じ続けることでしか維持できないから、わたしは正義より愛が好き。
 
今、若者の間で右派や保守の勢いが増しているのは、かつて驕ってしまった人たちにうんざりしている、その揺り戻しであるとわたしには見えるのだ。
 
「自分には間違いもあった」
「やりすぎた部分もあった」
 
こういったことを認めるのは勇気がいる。
人生の後半戦ではなおさらそうだろうと想像する。
けど、それができないとなると世の中は人生の先輩であろうがしっかりと牙をむく。
そして今、「帰れ!」と怒鳴っても、「呼んどいて帰れとはなんだ!」になるのだ。
これ、お笑い的にはツッコミの最適解だ。
もはや、そんなふうに見えていたのはわたしだけではないだろう。
 
「けど、右の人たちもかつては自分たちを正義だと過信してしまったんじゃないのかな」
 
突然、あなたはそう言った。そして続けた。「その過信が戦争を招いて多くの人たちが傷ついた。人類は愚かだよ。そんなことを繰り返してるに過ぎないんだから」
 
だからわたしは進歩を望むのだ。と胸の内で思ったら、それがわたしの表情に出たのか、あなたはそれをサッと読み取ってさらに続けた。
 
「君が思う進歩ってなにさ?」
 
言葉に詰まる。あなたがわたしを受け入れてくれて、わたしを優しく抱いてくれる。これがわたしたちの進歩だ――けど、それは口にはできなかった。
 
「進歩だと思っていても、後から見たら退化に過ぎないこともある。退化だと思ってたら、進化だったりすることもある。つまり、進化も退化も同義なのさ。すべては繰り返しているに過ぎない。同じところをぐるぐると」
 「それってただの言い訳じゃない!」
 
ダメだ。感情的になってしまった……。
言わなければいいことをつい言ってしまうのが、わたしの悪い癖だ。そのくせ、言いたいことがいつも言えない。
 
「怒るなよ。僕が悪かったよ。ただ僕は、物事を正確に認識したいだけなんだ。君と対立したいわけじゃないんだよ。むしろ逆で、君とはわかりあいたいと思ってるんだ」
「もういい。ずっと繰り返しだよ、あなたとわたし……」涙がこぼれそうで俯いてしまった。
「君は、一歩踏み出せば、僕たちは変われると信じているんだね」
次の瞬間だ。
 
とても大事な キミの想いは
無駄にならない 世界は廻る
(『ポリリズム』作詞 : 中田ヤスタカ)
 
と、あなたが歌い出した。
えっ、Perfume!?
と思って顔をあげたら、あなたの両隣りには田原総一朗さんと岩田温さんがいて、どこからか流れてくる『ポリリズム』の演奏に合わせて3人ともPerfumeの振り付けを軽快に踊り出した。
 
どういうこと……?
 
3人ともダンスが上手で、ミニスカートがとてもよく似合っている。
そして笑顔もいい。
思わず手拍子を打って、3人を応援する。
すると、通行人のサラリーマンや女子高生、お巡りさんまでもがバックダンサーとして踊りに加わってきた。
 
ああプラスチック みたいな恋だ♪
(『ポリリズム』作詞 : 中田ヤスタカ)
 
3人は歌い切った。ダンスも決まった。
すると、中央のあなたが一歩踏み出して、わたしに近づいてくる。
 
これってもしかして昔、流行ったフラッシュモブってやつ……!?
 
あなたはわたしの目の前までくると背後からバラの花束を差し出し、ひざまずくとこう言った。
 
「ずっと好きでした。お友達からお願いします!」

ウソ!? みんな見てて、超ハズいんだけど。
でもここで喜ばなきゃ、いつ喜ぶんだって話だから、素直にならなきゃ。
わたしは深紅のバラの束を受け取ろうとしたが、その深い紅色が美しすぎて一瞬の疑念のほうがまさってしまった。こんなこと、あるはずがないと。
 
こんなこと、あるはずがない
 
と確信したところで、受け取ったバラが氷点下で凍り、ちょっと胸に抱えただけで粉々に崩れ、床に散らばった。
それだけじゃない。あなたも一瞬で凍りつき、砂時計みたいに粉々となって崩れ落ち、続いて田原さん、岩田さん、そしてダンスで盛り上げてくれたモブキャラたちも跡形もなく床に散らばっていったところでハッと目が覚めた。

夢だった。

「新年早々なによ、これ……」

まさかの夢オチでがっかりしたけど、わたしは昔、画家になりたくてキャンバスにデタラメに描いて、それなりの公募展に出したらどういうわけか入選して、こんなことってあるんだと思っていたら、画の師匠から「確かにデタラメかもしれないけれど、今の君そのものが出ていてそれがよい」と言ってもらったことがある。

余談だが、文章を書くというのも、きっとそんなことなんだろうと思う。
 
わたしの初夢はワケがわからなかったけど、夢なんてみんなデタラメで、けどそれは今のわたしの深層がキュビズムみたいに映像化されたものだとしたら、今年のわたしをなにか暗示しているようでやっぱり気になる。
 
精神分析や心理学に詳しいかたがいらっしゃったら、わたしはその人の前では全裸で突っ立っているようなものだけど、こうして夢を赤裸々に書いちゃったんだから今さら下着をつける気もないので、どうぞわたしの裸をお楽しみいただけたら幸いです。
 
いわば、あぶり出しの年賀状だと思ってください。
そして、もしよかったら夢の分析結果をご教示ください。
あなたにとっても、わたしにとっても、よい一年になることを願って。
 
さて、どんな一年になるのやら……? 
 
あけましておめでとうございます。
今年も弊社のnoteをよろしくね!

【真野愛子 プロフィール】
フリーライター。『アンポータリズム』などにコラム掲載。超インドアですが、運動神経はよい方だと思ってる20代。料理と猫が好き。バイクも好き。将来の夢は、お嫁さんw


全然関係ないですが、わたし推しの映画『ミーガン』が2023年 第26回みうらじゅん賞を受賞しました。
おめでとうございます!
ありがとうございます!


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