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「不法移民は移民じゃない」の巻

■不法移民の権利を主張する人々
 数カ月前から、不法移民に対する取り締まりを厳格化するという移民法改正案に、当事者やそういった輩の出身国の合法移民らによるデモが時折行われている。子供まで学校をさぼって参加している。プラカードには、"Illegal is not a crime." とさえあった。その子供たちの多くは米国籍だ。何故なら、不法移民の子供でも、米国内で生まれたら、無条件で市民権が与えられるからだ。米国市民である彼らは、後に親の保証人(スポンサーという)となり、そのまま不法滞在をしている親に永住権(グリーンカード)をプレゼントする。永住権の3年後には、市民権を得ることも可能だ。
 2006年5月19日、市民権を申請していた7000人が念願のそれを手にしたと報じられた。出身国は100カ国に及び、人数の多い順にメキシコ、韓国、そして同数でベトナムとイランが続く。永住権を与えられる者の数はこの比ではない。不法移民擁護論者が言うような「アメリカは移民に門戸を閉ざしている」というのは真っ赤な嘘だ。不法移民を排除しようとしているだけだ。
世界中の人は、不法移民取り締まり厳格化に反対する人がいるというニュースに接し、首を傾げたのではなかろうか。不法移民を取り締まることの何が悪いのか、と。実際、筆者の周りの合法的滞在者は一様に憤慨している。これ迄、手続きを踏んだ人には厳しい決まりを適用し、不法移民は殆ど野放しにしてきた。それを取り締まるのは当然だ。
 ところで、メキシコにはグアテマラからの不法移民が多いらしい。そしてアメリカにおける不法移民と同じように、メキシコにおける不法移民も、安月給でこき使われているという。寛大な王から莫大な借金を許してもらった男が、自分が小金を貸していた男に厳しく取り立て、王の逆鱗に触れるという、新約聖書にあるイエスの説話を思い出す。

■取締りの強弱は財布の中身に比例する
 ラスベガスに住む友人(米国人)の妻は韓国人。彼女は所謂水商売をしているのだが、非常に景気が良いらしい。韓国から来たお大尽がラスベガスで散在しているそうだ。その一方で近年、韓国バーに対する摘発が増えているという。非合法で働いている者を移民局が摘発して、罰金を支払わせて、強制送還しているらしい。しかし、ロサンゼルスにのさばっているヒスパニックの不法移民は見て見ぬ振りだ。ふた昔前は、日本人がよく摘発されたという。理由は簡単である。要するに罰金を支払う能力がない者からは、取れないからだ。不法移民のヒスパニックの多くは金がないし、追放してもすぐに戻ってくる。
 
■無理に滞在している日本人
 労働ビザで働きながら、グリーンカードをもらうことを夢見ている多くの日本人は、新聞を読みながらため息をつき、「私は合法的なビザを維持するために、弁護士に金を使い、スポンサーになってくれているから、不満があっても会社を辞められず苦労しているのに、何故不法移民が権利を要求するんだ。絶対に納得がいかない」と怒りをあらわにする。ビザに縛られて会社にこき使われている日本人は多いし、中には永住権のためにアメリカ人と結婚する女性さえ未だにいるという。確かに、実際に住んでみて、この国は居心地が良いと個人的には思うのだが、だからといってアメリカに執着することが筆者には理解できない。というのも、アメリカの住み難さ、食事の不味さを愚痴りながら、日本の芸能情報を追いかけるという、不可思議な生活をおくっている人も少なくないからだ。
 
■ブッシュ大統領の真意
 2006年5月15日、ジョージ・ブッシュ大統領は不法移民に対する新たな施策を打ち出し、それには民主党も賛成して、議会で承認された。その内容は、米墨国境警備の強化(州兵部隊の配置)、労働移民に対する短期労働カードの発給、不法移民雇用主の取り締まり、不法移民が市民権を獲得するまでのプロセスの明確化を骨子とするものだ。デモの直前にあった、なし崩しに不法移民「合法化するという議論に、国民や合法滞在者から不満の声が上がった結果の転換だとも思われる。
 不法移民が市民権を獲得するまでのプロセスについては、法律を破ったことに対する罰金を支払うこと、税金を納めること、英語を学ぶこと、数年間真面目に働くこと、市民権の申し込みはそれからで、しかも自動的に付与されるものではない、というまっとうなものだ。
 これまで不法移民とヒスパニックに甘かったブッシュ政権の、中間選挙に向けての起死回生の策だと私は見ているがどうだろうか。尤も、共和党保守派はこれでも手ぬるいと考えており、新しい施策には否定的だ。実際、1000万人以上いると言われている不法移民を、本国に強制送還するのは物理的に不可能だ。しかしながら、彼らを合法化するにしても、手続きを踏ませるのは当然の話だ。9.11のテロリストは合法的に入国してきた。そうであるならば尚更、不法移民を取り締まらねばならない筈だ。
 日本もアメリカに追随したのか、来日外国人にも指紋押捺を求めることにしたという。一方昨年の合計特殊出生数は1.25になった。少子高齢化と労働力人口不足の更なる進行に備え、外国人労働者を円滑に受け入れる為にも、水際でのセキュリティの強化は必要だ。
 こういう点こそ、アメリカを見習うべきなのだ。

『歴史と教育』2006年6月号掲載の「羅府スケッチ」に加筆修正した。

【カバー写真】LAのダウンタウンを行くヒスパニックの出前持ち。以前にも書いたが、彼らの見習うべきところは、働き者であるということだ。どんな仕事でもするバイタリティだけは、どの民族にも負けない。(撮影筆者)

【追記】
 最後の1行が空しい。日本はこの点でアメリカを学ぶことなどできなくなってしまった。2021年1月、バイデン大統領は不法移民をすべて受け入れるという大統領令を就任早々に出し、テキサス州などが猛反発している。トランプ政権が行ってた不法移民への取り締まり強化は当然のことであったのに、あたかもそれを人種差別であるかのように報じて、馬鹿な国民(日本人も)を騙したメディアの罪は重い。

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