「運用の都合」で利益相反防止ルールを破る休眠預金活用事業の是非について

2023年12月22日

  • 休眠預金活用事業については、特に「お金を配る人」が「お金をもらう人」と極めて親しい関係にあることが多いという点について、これまで問題提起を行ってきました。

  • 国会でも取り上げていただいた結果、『問題はなかった』が、『より良くなるよう改善した』という体裁ではあるものの制度を一定程度改善できたようです。以下ご参照。

  • 一定の成果もあったのでそれ以上のことをするつもりはありませんでした。

  • しかし先日、あることがきっかけになって休眠預金活用事業を執り行っているJANPIAに対して問い合わせを行った結果、「審査委員は申請団体と利害関係のない『第三者』を選任するという利益相反防止のルールはあるが、運用の都合があるので守っていない」という回答が返ってきて、一人でひっそりと驚愕しておりました。9/1のことです。

  • 今年、国会でも利益相反のありようを問われた以上、さすがに色々と不味いと捉えていらっしゃるはずですし、来年度に向けた「基本方針」の改定時期ということもあり、「さすがにこれを機に制度が改善されるかな?」と思って静観していました。

  • しかし12/19にアップされた「基本方針」の案では利益相反に関する決まりごとは変わっていない様子で、そのままルールを潜脱する運用を続けるつもりのご様子。

  • これはよろしくない話だと思い、問題提起だけをしておこうと思って本稿を書きました。

  • 休眠預金活用事業の詳細まで把握しなくとも内容はわかるようにしているつもりですが、「指定活用団体」(JANPIA)より選ばれた「資金分配団体」が、当該資金を使って事業を行う「実行団体」を選考して資金分配を采配する仕組みになっていることだけはご認識願います。

1、前置き

① 休眠預金活用事業の審査方法について

  • 今回きっかけになったは資金分配団体による実行団体の審査です。

  • 休眠預金活用事業の公募要領は資金分配団体それぞれが定めていますが、概ねその骨子は同じで、休眠預金等交付金に係る資金の活用に関する基本方針に則った内容になっています。

  • 具体的な審査の手法については、JANPIAが資金分配団体を選ぶ際のやり方に準じると定められています。

  • それによると審査にあたっては『第三者』、つまり利害関係者が入っていない者で構成される審査委員会を設置することが要件として挙げられています。

  • JANPIAが資金分配団体と結ぶ「資金提供契約」のひな形や公募に関するQ&Aを見てもそれは明らかです。

  • つまり審査委員会の審査については利害関係者が入り込む余地はないはずです。

休眠預金等交付金に係る資金の活用に関する基本方針より。
資金分配団体による実行団体の審査に関する事項。
(H30に制定、R4に更新されているが当該部分は変更なし)
資金提供契約のひな形。
(サンプルは2020年分)
  • なお、例外的に審査人員に実行団体との利害関係者が存在することも想定されています。

  • それは審査委員会の審査を踏まえて最終決定を行う理事会のメンバーです。

  • 実行団体との利益相反が成立し得る理事については、「理事会のメンバーではあるけれども、当該団体の審査には参加しない」ようにすればオーケーということになっています。

休眠預金等交付金に係る資金の活用に関する基本方針より。
JANPIAによる資金分配団体の審査に関する事項。
これに準じて資金分配団体は実行団体を選定する必要がある。
(H30に制定、R4に更新されているが当該部分は変更なし)
公募に関するQ&A公募要領14. 選定後についてより
審査の過程で存在する利害関係者で想定されているのは、資金分配団体の理事等のみ。
審査会議の審査委員は外部(第三者)と明記。
  • 理事会の前段階で「第三者」により構成された審査委員の審査が行われるので、そこで公正さは担保されるという建前があるのだとは思いますが(実際はそうなっていませんが)、資金分配団体の理事と関係が深い団体へ資金分配が可能な仕組みが適正とは個人的には思えません。

  • まあそういうルールになっているのは仕方がないので、今回は措きます。

② 2023年の法見直し時における国会での答弁など

  • 休眠預金活用事業の根拠法である、いわゆる休眠預金等活用法は2023年に見直されています。

  • その際には立憲民主党の金子恵美議員が答弁しています。それによると「申請団体の審査を行う審査委員は第三者で構成されており、利害関係者が存在することはない」ということです。

国会議事録検索システムより
  • 上記答弁は明文化されたルールに則った発言であり、誤りではありません。

  • 私が今まで紹介してきた事例では子が親の団体を、被雇用者が雇用主の団体を、同じ大学の助教授が教授の団体を選定する審査の審査委員を務めている事例がありました。後述する事例は審査委員の属する団体と申請団体が同じグループだった事例です。

  • しかしこれらについてJANPIAは「問題なし」との認識を示していますので、形式上は「審査委員と申請団体との利益相反はなかった」と処理されたと私は理解していました。
    (後述しますが、実際は審査委員と申請団体との間で利益相反がある場合もあったようですが、それが問題ないことをJANPIAが(どうやってかは知りませんが)確認したと処理されているようです。)

  • 「問題なし」の評価に納得しているわけではありませんが、私は「あれだけ騒がれた以上、JANPIAも今後は襟を正してくれるだろう」との期待を持っていました。

  • その期待を覆す出来事が以下です。

2、運用の都合で守られていないルール

① 事例紹介

  • 重要なことなのでよくご認識いただきたいのですが、この事例の資金分配団体、申請団体、審査委員、いずれも何にも悪いことはしていません。JANPIAが認めているのですから、批判はなされないようお願いします。

  • 私の元には真偽定かでない休眠預金活用事業に関する情報がたまに入ってきます。今回も同様でした。

  • 情報提供者によると「『第三者』であるべき審査委員の中に、選定された団体の利害関係者が入っている!出来レースではないか!」とのこと。

  • たしかに確認して見るとその通りのようです。

この事業に採択された下記団体と、下記審査委員の所属先は同じグループです。詳しくはご自身でお調べください。すぐに出ます。

上記URLより選定団体の一つ
上記URLより『外部』審査委員の一覧
  • 審査の結果、当該申請団体は採択されています。当初、特に審査ページに注記はありませんでした。

  • しかし情報提供者自身が苦情を入れたようで、後日になってから「審査委員に申請団体の利害関係者はいるが、当該申請団体の審査には参加していません」という文言が加わりました。

ウェブアーカイブから拾った公開当初の状態。
最新情報
利害関係者は審査に関与していない旨を追記。
  • 上記の通り、「審査委員会は第三者により構成される」のが決まりで、申請団体の関連する人物を選任して、その団体の審査を行う際に一時外れれば良いということはどこにも書いていません。

当該資金分配への公募要領より
  • 公募要領にも審査会議を構成する外部専門家等は『第三者』であると明記されています。

  • 当初はなかった「実はこんなことがありました」という文言を後から追加したというのは、とってつけたような泥縄的な対応にも見え、少なくとも落選した団体の方々からすると疑わしいと感じるでしょう。 

  • 私には審査体制が適当であったとは思えませんでしたので、一応JANPIAに通報しました。

② JANPIAの認識

  • JANPIAによると「審査委員は第三者を選任するとしているが、運用の都合上そうでないこともある」そうで、上記事例も問題がないとのことです。

  • 詳しくは下記。

<回答>
基本方針に基づく審査委員の実行団体選定における利益相反回避のための制度面の整理については、貴殿がまとめられた以下の<ご指摘いただいている基本方針における整理>記載の通りと理解をしております。

<ご指摘いただいている基本方針における整理>
1、審査は審査会議(基本方針では「審査委員会」)を経て理事会等で最終決定されると基本方針で定められている。
2、審査を行う者が申請団体の利害関係者の場合は審査から除く等の措置が必要と基本方針で定められている。
3、基本方針(P.37の注釈)の他、各事業の公募要領等にも審査会議の審査委員は「第三者」であると定められている
(今回追記・上記を踏まえて、「理事は申請団体の利害関係者である場合は想定されているが、審査委員は第三者と明言されている以上、利害関係者が入り込む余地がないはず」と指摘しました。

資金分配団体による審査委員選定のタイミングは、当機構による資金分配団体の選定後、実行団体の公募開始前となるケースが多く、実務上、選定された審査委員が公募申請を行った実行団体との間に利害関係を有することが事後的に判明する場合があります。

このような事態が生じた場合には、当該審査委員は利害関係を有する団体の審査から排除する必要が生じますので、資金分配団体においても上記2、が適用されることがあり得ます。

実行団体の選定には審査委員による公正な審査が求められるため、公募申請した実行団体との間に利害関係を有する者は事前にすべて排除することが理想ではございますが、審査委員選定後に実行団体が公募申請を行うため、事後的に利益相反が顕在化することがあり得ますので、このような場合、利益相反防止措置として当該審査委員を当該実行団体の審査から除外することで審査における公平性を確保しております。

JANPIAから受領したメールの引用
  • 審査委員を引き受ける以上、自身が関連する団体を応募させないというのは当然です。

  • 私も専門家(個人事業主)として、自治体の補助金の審査を引き受けることがありますが、個人事業とは別に会社も経営しており、会社で補助金を受けることもあります。

  • 審査員のオファーがあった際、「この補助金には自分の会社で応募するつもりだが、それでもいいのか?」と聞くと、当たり前ですが断られます。

  • 休眠預金活用事業に関してだけはそれが認められるというのはまったく理解ができません。

  • それはとりあえず措くにしても、「審査の除外」に関して、色々な資金分配団体の記録がまったく残っていないことも不思議です。

  • そのため、「資金分配団体が実行団体を審査した際の経緯を記す議事録等には利害関係者が審査から外れた旨の記載がほぼ皆無だが、本当に履行されているのか?」等と質問しました。
    (審査委員が利害関係のない第三者で構成されること、審査経緯を公開されることは、私が知る限り全ての資金分配団体の公募要領に記載されています。)

  • 以下が返信です。

当機構では、審査委員に利害関係者が含まれないことを担保するため、各資金分配団体の審査体制を当機構の各事業担当職員にて確認し、申請団体と審査委員との利害関係の有無等について資金分配団体からの申告や、各団体のHP等の確認によりあらかじめ確認するとともに、資金分配団体の審査委員や役員に利害関係者が含まれることが判明した際には、審査から外れていただくなどの措置を適切にとっていただくよう当該資金分配団体に対し申し入れ、そののちに適切な措置が講じられたことなどを確認しております。

JANPIAから受領したメールの引用
  • 例えば民間企業で「取締役の持つ不動産を会社が買い取る」ような場合、取締役会等で議論されることになりますが、当該取締役と会社は利益相反関係になりますから、当該取締役は議決に参加しなかったこと等が取締役会議事録には記載されます。(実務上は一時退席させることが多いです)

(取締役会の決議)
第三百六十九条 取締役会の決議は、議決に加わることができる取締役の過半数(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)が出席し、その過半数(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)をもって行う。
2 前項の決議について特別の利害関係を有する取締役は、議決に加わることができない。

会社法より
  • 上記は会社法で定める取締役会の例ですが、他の組織体でもそれは変わりません。例えば一般社団法人法95条2項にも同様の記載があります。

  • 当然ですが議事録に「利害関係者が議決に加わっていない」旨の記載されていない場合、その取締役会の実効性等が否定されることもあります。

  • 上記は一般常識で、数多くの資金分配団体全てが認識していないとは到底思えません。

  • 資金分配団体による実行団体審査に係る審査会議に関する情報公開をどのように行うかを事細かく定めたルールはありませんが、もし利害関係者を審査から除外することが実際に行われているのだとしたら、それを全ての資金分配団体が一律記載していないなどということがあり得るのでしょうか?

  • 申請団体の利害関係者と思われる人物が審査委員を務めている事例は数多いですが、記録に記載がない以上、彼らが本当に審査から除外されているかはかなり疑問に思います。

  • 従って、公表された審査の議事録、あるいは審査経緯の情報について、「利害関係者が審査に参加していない旨の記載はされていないが、実は参加していない。それはJANPIAも確認している」という論法は信じがたいです。

  • まとめますと、私の「資金分配団体の審査委員には第三者を選任しないことになっているが、そうなっておらず、審査委員となった人物が自身の関係する団体を実行団体に選定することが横行しているのではないか」との指摘について、JANPIAは、

結果的に実行団体候補の利害関係者が審査委員に選任されている事例はあるが、利害関係を有する実行団体候補の審査には参加していない(ので、ルール違反ではない)。
② どの団体のどの資金分配についても、公開が定められている審査経緯の情報には当該利害関係者が審査に参加していないことは記載されていないが、実はJANPIAはきちんと確認している。

  • 以上のような認識で、上記事例について問題がないと判断したようです。

  • 当然ながらこの事例だけが特例というわけではありませんから、全ての事業をこの認識で管理監督していることになります。

3、まとめ

  • 利害関係者を審査委員に選任しないことと、選任はするが利害関係がある団体の審査から除外することはまったく意味が異なります。

  • 公益事業は狭い業界です。審査委員同士の人間関係、力関係が存在することもあります。例えば、「業界の偉い人」が審査員として隣に座っているのに、その方の関係する団体の申請を他の「その方より偉くない」審査員が否決できるでしょうか?

  • また審査経緯は公開が義務付けられていますが、「利害関係者の審査委員が自身の関係する団体の審査に参加していない」旨の記載がある審査議事録等は、後付けされた上記事例を除くと、私が知る限り一例もありません。

  • 休眠預金活用事業は国民の大切な財産を流用する公益性の高い事業で、情報公開は最重要視されています。本当に当該措置が行われているのであれば、その記録が見当たらないことは非常におかしなことです。

  • 本当に利害関係者が審査から除外されているのか、大いに疑問です。

国会議事録検索システムより
再掲
  • 国会で答弁されるほど基本的で重要なルールを『運用の都合』で簡単にないがしろにする団体が休眠預金活用事業を主宰することについて、一国民として大変不安に思います。

  • 赤旗によると共産党も利益相反防止措置を大変重視しており、その点に問題がないことを確認して改正案に賛成したそうです。

  • JANPIAはもちろんのこと、国会で答弁した立憲民主党の金子恵美議員をはじめとした休眠預金等活用推進議連の方々や、事業を統括する内閣府の方々はもう少しきちんと休眠預金活用事業における利益相反の問題に向き合うべきだと思います。休眠預金活用事業をこれ以上利権化しないようにして下さい。

  • 休眠預金活用事業は来年度より出資方式の資金提供が解禁されるようですが、色々と新しいことを始める前になすべきことをきちんと行っていただきたいです。

  • JANPIAとのメールのやり取りをJANPIAの許可なく一般公開するつもりはありませんが、議員の先生であれば提供しても構いません。
    (私がメールのやり取りをしたコンプライアンス部署に聞いてもらえればすぐ事実だとわかることなので、まず照会して欲しいですが)

  • 必要であれば仰って下さい。

以上



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