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「衣類の墓場」で見た大量生産の実態と、モノの寿命を延ばすためにできること

 一般社団法人unistepsで共同代表を務める鎌田安里紗さんは、サステナブルファッションの考え方を 広げるため、ファッションの生産背景に関する情報発信や、官民連携での課題解決に向けた取り組みを行っています。
 
今回は鎌田さんをお招きし、ケニアにある「衣類の墓場」を視察されて見えた課題や、サステナブルな社会に向けた取り組みについて、メルカリの取締役 Presidentである小泉がお話を伺いました。

鎌田安里紗さん
1992年、徳島県生まれ。「多様性のある健康的なファッション産業に」をビジョンに掲げる一般社団法人「unisteps」の共同代表をつとめ、衣服の生産から廃棄の過程で、自然環境や社会への影響に目を向けることを促す企画を幅広く展開。種から綿を育てて服をつくる「服のたね」など。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科後期博士課程在籍。肩書は「一般社団法人unisteps共同代表理事」


国内で古着の循環利用を促進すれば、衣類の寿命を延ばせる可能性 

ー鎌田さんは昨年、「衣類の墓場」と言われているケニアを訪れていらっしゃいますが、今の日本のアパレル産業に何が必要だと感じましたか?
 
鎌田:ケニアには、欧州、英国、中国、米国から多くの古着が入ってきます。日本からの古着が直接入ることは少なく、一度インドやパキスタンなどアジア圏に輸出されたものが 、再度振り分けられてケニアに入ってくるそうです。1990年代にケニア政府が貿易の自由化に重きを置いて以降、古着の輸入は活発に行われてきているため 、中古事業者も多く、その収入で生活をしている人もいます。
 
この10年ぐらいで輸入量は増えている一方、商品の質が下がっているという問題があります。中古事業者はスワヒリ語で「ミトゥンバ」 と呼ばれる50kgほどの古着の塊を2〜3万円で仕入れますが、どのような古着が入っているかは買うまでわかりません。以前は5〜6割の古着がそのまま売れましたが、現在は2〜3割ほどになっているそうです。破れたり汚れたりしていてそのまま売ることが難しい古着は、中古事業者が直してから販売しています。それでも、ベールの中身の質が下がった影響は大きく、売れない古着が積み重なって山になっています。そうした古着は埋立地に持っていかれるのですが、溢れかえって川にまで流れこんでいる状況でした。
 
現地を視察して思ったことは、「寿命を延ばす」という名目のもと、世界の衣類がケニアの中古市場に送られているものの、実際にはあまり寿命が延びていないということです。ごみ処理システムが整っていない場所に売れない古着が送られることで、適切に処理されずに自然の中に投棄される確率が上がっています。ごみ処理システムが整っている日本で分別して循環を試みた方が 、圧倒的に寿命が延びる可能性が高くなるのではないか。そのためにも、国内で循環できる、あるいは処理できる仕組みを作るべきだと思いました。
 
小泉:一面に服が散乱して溢れかえっている写真は、かなり印象に残る光景でした。鎌田さんは、なぜこのような活動を始められたのですか。
 
鎌田:高校生の頃からファッションが好きで、当時はアパレルショップでアルバイトをしていました。ちょうどその頃、ファストファッションが日本でも広がり始めた時期で、店頭では「似ている服が安く売っていた」という会話をよく耳にするようになり、価格を気にして購入される方が多くいらっしゃいました。
 
ファストファッションの主流化によりブランドの売上が伸び悩んでくると、オリジナルアイテムを作ることは難しくなり、既製品を買い付けて仕入れが行われるようになりました。私自身も中国や韓国に買い付けに行きましたが、何万枚単位で発注されている服の中から選ぶことや、買い付けに行った先には同じ商業施設に入っている別ブランドの会社の人も来ており、「同じところで買い、それぞれのブランドタグを付けて売る」という状況を目の当たりにし、何をしているんだろう……という思いが湧いてきました。
 
自分が好きなブランドがこだわった服を作れなくなることは残念でしたが、高校生だった頃の私は、ファストファッションのヘビーユーザーでもありました。部屋の片隅には服がたくさん積み上がっており、“安いから”と買ったものがほとんどで、3回ほど着ると飽きてしまいます。「服はたくさんあるけれど、ひとつも着たい服がない」ということは、安く買えても、消費者は喜んでいないのではないかと思うようになりました。そんな時に縫製工場を訪問したところ、工場も経営がとても苦しい状態で、服を作る際の環境負荷も高いことがわかり、“この状況では誰も得をしていないのではないか”と思ったことが、この活動を始めるきっかけになりました。
 
フリマアプリはモノの寿命を延ばすことに繋がる、とても良いサービスだと思っています。小泉さんはなぜ、メルカリを作ろうと考えられたのですか?
 
小泉:創業者の山田と二人三脚で会社を作ってきましたが、最初の思いは、「このままいくと地球が耐えられない」と考えたからです。日本では人口が減少していますが、グローバルで見ると人口は増えています。これから発展途上国がどんどん豊かになり、購買意欲旺盛な若い人も増え、いろいろなモノを消費し始めるようになり大量生産・大量消費の構造は加速すると思っています。また、 先進国ではずっと“作っては捨てる”ことを繰り返しています。需要が増大する中で、それでもモノが捨てられていくアンバランスさに、リソースが偏っていると感じていました。
 
一方で、発展途上国も含めて多くの人々がスマートフォンを持ち始めていました。そこで、アプリベース・スマートフォンベースでモノをマッチングさせて、中古でも使えるモノが欲しい人に渡る「循環する社会」を作れば、地球がオーバーキャパシティにならずに済むのではないかと考えました。当時、 オークションサービスはありましたが、自動車や時計、カメラなどの単価の高いモノが多く取引されており、“日常的に使えるモノ”の二次流通のマーケットプレイスはありませんでした。
 
鎌田:今は多くの人が「とりあえずメルカリに出品してみよう」とか「新しいモノを買う前にメルカリで探してみよう 」という行動をとっており、とても浸透していると感じています。しかし、モノが再利用されたり循環していくという 現象が起き始めているのに、新品の生産量は減らずに増え続けている状況です。資源の有限性や環境影響を考えると、新品の投入量が減っていないと、根本的な問題解決にはならないのではないかと感じています。
 
小泉:そうですね。先ほどファストファッションの話もありましたが、ワンタイム消費ではなく、ブランドと消費者がコミュニケーションをとって、ブランドの世界観を好きになってもらい、長く使ってもらえるようなコミュニティ寄りのビジネスが増えていくと良いのではないかと思っています。
 
鎌田:多くのモノが物理的な寿命を迎える前に手放されていることを考えると、いかに愛着を持てるかがポイントになります。 愛着を持つという部分において、何かできることがないか模索しています。 

サステナブルな社会に向けて、今は消費者のマインドや技術の移行期

ーサプライチェーンにおいては、どのような課題がありますか。
 
鎌田:「安い方が売れる」という現状において、環境負荷が低い素材は価格が高くなってしまうため、なかなか使用されない状況です。そして、大量生産で価格を下げるため、過剰生産に繋がっています。また、労働集約型で流通している服のほとんどは手で縫われており、価格を下げるために賃金が低い国で作られています。労働組合がない国も多く、見合う賃金をもらえない、休めない、児童労働などのリスクが高くなります。実際に、日本で売られている服は、1990年では50%が日本製でしたが、現在は1.5%まで減っています。
 
環境への影響も多岐にわたっています。30年ほど前までは、ウールやコットンなどの天然素材が多く使われていましたが、 現在は素材の約7割が石油由来です。石油由来の素材の糸くずが、染色や洗濯で川や海に流れ出て、マイクロプラスチックになります。また、生地は様々な素材を混ぜて作られており、リサイクルのために分離することが難しいという問題もあります。そのための技術開発も行われていますが、未だ途上です。また、現在はリサイクル素材はヴァージン素材に比べて価格が高くなることが一般的なので、 リサイクル生地を使用するインセンティブを設けるなど、何かしらの支援がないと、市場競争においてリサイクル生地が選ばれるのは難しいのではないかと思います。
 
コットンもナチュラルなイメージが強いですが 、オーガニックコットンなどでない限り、農薬や化学肥料を多く使用します。 農薬や化学肥料を生産することに大きなエネルギーが必要になること、また、その使用による土壌や水質の汚染が懸念されています。 一番の問題は、このような問題の全てを把握できていないことです。
 
ー服の循環が進む社会になるためには、どのようなサービスがあると良いと思いますか。
 
鎌田:リペアサービスはすでにありますが、お直し屋さんで金額を聞いて 「新品を買った方が安いのでやめます」と言って帰られる方も多いそうです。一方でサービスのリピート率は高く、服への愛着が増し、寿命も延びるため、消費者にも環境にもとても良いと思います。フランスでは、金額のハードルを下げるために、リペアに補助金が出ます。拡大生産者責任(※)で生産者側が払うお金を財源とし、衣服や靴の修理にかかる金額の一部を国がサポートしています。「捨てないでください」というと、消費者は楽しむポイントを作りにくいですが、「リペア」はその点で優位なのではないかとも思います。
※生産者が、その生産した製品が使用され、廃棄された後においても、当該製品の適切なリユース・リサイクルや処分に一定の責任(物理的又は財政的責任)を負うという考え方

日本の縫製工場が次々に閉鎖 しており、そこで働いていた方がお直し屋さん に移動するも、そのリペアサービスも伸び悩んでいる中で 、技術はあるけれど働く場所がないという人が多くいらっしゃいます。そのような方とうまくマッチングできるようなサービスがあるとよさそうです。
 
小泉:鎌田さんが仰るとおり、フランスではかなり厳しい制限を設けており、国として大きな危機意識を持って取り組みが進められていると感じています。
 
これから5年・10年のスパンで、今までの商習慣に慣れている世代から、サステナビリティを意識して消費する世代にボリュームゾーンが移っていきます。今の子ども達は学校でSDGs教育を受けていますが、このような教育を受けている子ども達が大人になると、選ばれる商品も変わってくるのではないでしょうか。
 
今は消費者のマインドや技術の移行期だと考えています。この時期を乗り越えられれば、スケールアップし、ビジネス的に成立するようになってくると思っています。 

行動変容を促すためには、自分事化できる“楽しい体験”が必要

ー消費者のマインドを変えるためには、どのような方法があるでしょうか。
 
小泉:メルカリの立ち上げ時期から、お客さまが動くのは“感情が豊かになる時”だという話をしてきました。最初から“循環する社会のため”というメッセージを前面に出してしまうと、真面目過ぎて、お客さま側がサステナビリティを押し付けられているような感覚になってしまいます。「メルカリ」の良さは、売ったり買ったりすることが楽しい、モノを発見するのが嬉しいという体験です。まずは、かわいいとかおしゃれだとか、ワクワクして手に取りたいと思うことがベースにあり、その上でサステナビリティに関する情報があると、納得して購入できるのではないかと思います。
 
鎌田:サステナビリティに関心がある方も、実際にどれが良い商品なのかがわからないという問題があります。オーストラリアの「Good On You(グッドオンユー)」は、企業の開示情報からブランドが労働者の人権、環境、動物にどれほど配慮しているかを評価し、消費者が確認できるサービスを提供しています。グローバルな評価システムが各国の文化的背景の違いなどの事情を汲み取りきれないという限界はありますが、とても網羅的に評価指標が設けられており ひとつの参考とすることができます。現在、日本版の立ち上げをお手伝いさせていただいていますが、「Good On You」を運営するGood On You Pty LimitedのCEOは、「現在の社会は、自分の価値観を買い物に反映できる時代・仕組みになっていない」という話をよくされています。例えば、動物福祉を気にしている人が、何気なく買ったチョコレートに含まれるパーム油が森林破壊をしているかもしれないのに、そのつながりが見えないため、行動を変えることができないというのが現状です。
 
私の母は「メルカリ」のヘビーユーザーですが、若かりし頃に憧れていたブランドの服を発掘して買うことのほかに、売れたモノを綺麗にパッキングして送ることを楽しんでいます。今では、私が使わなくなったモノを母に渡し、母が使わなくなったら「メルカリ」に出すという流れができており、このように楽しんで行動変容を促すという要素が必要だと考えています。
 
小泉:「メルカリ」の出品者の方は、“自分のお店”という感覚で自分事化し、お客さまに喜んでもらいたいと思っていらっしゃる方が多くいます。サステナビリティも同じように、自分事化し始めると、楽しみながら商品を選び、それが当たり前になっていくのではないかと思います。
 
鎌田:そうですね。ちょうど現在、消費者のマインドを変えるための取り組みとして、2つの企画に携わっています。1つは「服のたね」というプロジェクトで、参加者の方にコットンの種をお送りし 、オンラインでコミュニケーションを取りながら育ててもらいます。それぞれの自宅で収穫した綿を集めて紡績工場さんにお渡しして糸にしていただき、そこから生地工場さんで生地に、その後、みんなでデザインを考えて一着の服を作るという参加型の企画です。種まきから服が完成するまでには一年半ほどかかりますが、服ができるまでの道のりの長さも含めて体感してもらいたいと考えた企画です。コットンは枯れてしまうこともあるので、”服が作れるのは当たり前ではない”という感覚にもなります。

もう1つは、工場を訪問するスタディツアーです。消費者側がモノを作る過程を想像することは、なかなか難しいことです。例えば、私はパソコンがどうやってできているかを知らないので、パソコンを買うときには、デザインや値段、機能が中心的な判断軸になります 。もし作る過程での環境負荷や人権 リスクを知っていたら、選ぶ時の視点が変わるのではないかと思い、このツアーを開催しています。
 
コットンを育てたり、工場に行ったりするという面白い体験を通じて、少しずつでもサステナビリティを考えた消費を広めていきたいと思っています。 

自社リセールには商品回収の課題も

鎌田:メルカリは11年目ということですが、ここまでで成し遂げたと思うことや、これからの10年で成し遂げたいことはありますか。
 
小泉:最初に考えていた「捨てる行為をなくす」ということに、しっかりと向かうことができていると思っており、今後はもっとグローバルに広げていきたいと考えています。現在は、越境販売サービスを提供しているので、海外から日本のモノを買うことができ、米国でのサービス展開もしていますが、よりグローバルに米国以外でのサービス展開も検討しています。将来的には世界中で繋がり、モノが流通していく世界を目指したいと考えています。
 
ほかにも、メルカリが保有しているデータの活用も検討しています。例えば、ベビーカーを購入した方に、3年後に「そろそろ売りませんか」という通知を行い、ボタン一つで商品情報が出てきてそのまま出品することができるかもしれません。また、「メルカリ」内での流通から、その時のトレンドカラーなどの情報を出すことで、消費者ニーズに応じた生産が実現するかもしれません。さらに、ブランドやメーカーとのコラボレーションにより、「メルカリ」を通じて、オフィシャルにリセールを行えるようにすることも検討中です。
 
鎌田:これまでにブランドやメーカーとコラボした取り組み事例はあるのでしょうか?
 
小泉:具体的な取り組みについては、現在意見交換している段階です。例えば、自社リセールに興味があるというブランドにおいて、回収量が足りない、回収ボックスを置いてもお客さまにお持ちいただくクオリティがリセールするためのクオリティと見合っていない、回収にコストが掛かってしまうといった課題があります。これらの課題に対して、「メルカリ」で売れ残ってしまっている商品をブランドに買い取っていただき、リペアやアップサイクルをすることができるかもしれません。
 
鎌田:企業さんと話していても 、個社では解決が難しい課題として、リセールにおける商品回収の問題を耳にする ことが多くあります。「メルカリ」のようなサービスとの連携なども視野に入れて検討していけると、解決に向けた選択肢が広がりそうですね。

おわりに

サステナブルを意識して古着を海外に輸出しているはずが、実際は環境への影響を高めているということ、そして「衣類の墓場」の現状はとても深刻だということがわかりました。サステナブルな社会に向けての移行期である今、乗り越えなければならない課題は多くあります。課題解決に向けた取り組みはもちろんですが、消費者の行動変容を促すことも重要です。今回お話しいただいた“楽しめるポイント”を作るというのは、リコマースを推進する上でも大事な視点です。消費者側の視点も含めて、今後も市場動向や各社の取り組みの研究を進めていきます。


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