見出し画像

綱島映画〜大雨の『麻雀放浪記』の思い出〜

【映画館の思い出】という#のテーマがあって、思い出した映画館がある。
それは、2005(平成17)年5月に閉館した、東横線綱島駅西口にあった【綱島映画】という小さな映画館。

あれは20年近く前、台風のような大雨の日に、1984年に公開された『麻雀放浪記』という映画を観に行った時のこと。

映画『麻雀放浪記』は…
阿佐田哲也のベストセラー小説「麻雀放浪記」の第1部「青春編」を実写映画化したもの。敗戦直後の東京を舞台に、勝負師たちとの出会いを通して人生を学んでいく青年を描いた作品。
イラストレーターの和田誠が初メガホンをとり、澤井信一郎と共同で脚色。

【あらすじ】
終戦後も学校へ戻らず無為な日々を過ごす青年・哲は、勤労動員の工場で働いていた時に博打を教えてくれた上州虎と再会する。
虎に連れられてチンチロ集落を訪れた哲は、そこで出会ったプロの勝負師・ドサ健に、強烈な対抗心と奇妙な友情を抱く。
数日後、哲はドサ健と共にアメリカ兵相手の秘密カジノへ繰り出す…。

麻雀は全然わからないけど、真田広之、鹿賀丈史、高品格、大竹しのぶという個性豊かな登場人物たちが織りなす、昭和の敗戦後の貧しくてギラギラしたその世界観は、20代半ばの私にとって、とてつもなく大人の色気を感じるものだった。

大雨の平日昼間の綱島映画の館内は、雨宿りのニートおじさんが、ワンカップ大関片手にチラホラいるようなひなびた感じだった。
20代の若い女子にしてみたらちょっと怖い空間だったけど、その雰囲気が『麻雀放浪記』の世界観に似ていて、映画の中により入り込める感じだった。

そして、演技派の登場人物たちに魅せられて、物語に入り込んでいた中盤、突然映画が中断された。
機械トラブルのようだった。
普通の映画だったら「えええー!いいとこなのに〜!」と憤慨したかもしれないけど、映像が途切れた湿気た古い映画館で、ザーザーと雨音がする中、ホームレスのおじさん達と大人しく待っていたあの瞬間は、「麻雀放浪記」の世界観そのもので、それすらも演出のような気がした。
5分ほどで映画は再開されたが、待っている時間も、映画そのものだった。

今に至るまで、数多くの映画館に足を運び、数多くの作品を観てきたが、『映画館の思い出』といったら、あの日の綱島映画の思い出がピカイチだ。
あんなに映画館と作品が一体になった経験は、後にも先にもあの時だけだ。

その思い出から10年くらい経った頃には、幼稚園ママたちと、子供たちだけで『ポケモン』や『ドラえもん』を見させて、綱島映画近くのイトーヨーカドーで買い物したりお茶して待っていた。
そんな時も、私はあの大雨の日の『麻雀放浪記』を思い出していた。


この記事が参加している募集

映画館の思い出

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?