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人材紹介契約における紹介手数料に関する条項のチェックポイント(後編)


はじめに

こんにちは!CGチームインターン生です!

後編では、それぞれの立場からどのような文言で契約を結ぶのが有利になるのかを考察していきたいと思います。

①報酬の計算方法

前編では以下のような比較表を示しました。

  • どの項目を「年収」「報酬」として設定できるか

毎月固定で発生するものであれば「年収」「報酬」の一項目として設定することができます。
「交通費」「書籍購入代」等、都度で発生するものは「年収」「報酬」に入れないのが一般的です。

人材紹介会社側としては、毎月固定で発生するものは全て設定する方が有利になります。
求人者側としては、通勤費・固定残業代等を筆頭に、できるだけ項目を少なく設定していく方が有利になります。

  • 「初年度」「1年分」

入社時期が期首ではない場合は、当然の事ながら期間に応じた年収額になる

内定通知書に記載されている「理論年収」のカラクリ

どの期間をもとに「年収」「報酬」が算定されるかにつき、特に人材紹介会社の側から注意すべきです。
中途採用で「年収」の算定対象となる期間が採用された時期から翌年度までである場合、当然受け取れる紹介手数料が少なくなります。

  • 「賞与」「諸手当」「一時金」

「賞与」「諸手当」「一時金」を何に従って計算するかは、求人者・人材紹介会社双方にとって重要です。
例えば、「賞与」の額として、一方が「今年支給ことを予定している賞与額」という認識を持っていた場合と、他方が「昨年度賞与として支給した実績額」という認識を持っていた場合では、争いが発生する可能性があります。

これは「諸手当」「一時金」についても同様です。
「賞与」「諸手当」「一時金」は何を参照して決定するのかを詳しく定めておくことは両者にとって非常に有益です。

  • 残業代

通常残業代とは、残業時間に応じて毎月ごとに発生する額が決まります。
よって残業代の意義を明らかにしていくことが重要です。
(固定残業代なのか、表のEのように月平均超過勤務手当のことを指すのか。)

②手数料の発生条件

前編では紹介手数料の主な発生時点を紹介しました。

Ⅰ採用された場合
Ⅱ入社した場合
Ⅲ候補者の勤労日

後編では、契約書で具体的にどのような文言を用いるべきか見てみましょう。

それぞれの立場からの条項案

人材紹介会社に有利な条項案として、Ⅰを用いた以下の案が考えられます。

甲は,乙が紹介した人材(丙)を採用する旨の通知(書面か口頭かを問わない)を行った場合,人材紹介の対価として,紹介手数料を乙に支払うものとする。

これに対し、求人者に有利な条項案として、Ⅲを用いた以下の案が考えられます。

甲は,乙が紹介した人材(丙)を採用し,入職(入社その他名称の如何を問わず,丙が甲において労務の提供を開始することを意味する。)に至った場合、紹介手数料を乙に支払うものとする。

しかし、現実問題として、自社にばかり有利な契約条件を主張することは得策ではない場合があります。
自社に有利な契約条件がビジネスに与える主なリスクは、取引先やビジネスパートナーとの信頼関係の損失です。一方的な条件では相手方のモチベーション低下や不満を引き起こし、長期的な協力を阻害してしまうかもしれません。

過去の判例を通じて学ぶ手数料発生条件

過去の判例を分析することで、手数料がどのような状況で発生するのか、またその根拠がどこにあるのかを理解できます。これにより、法的なリスクを最小限に抑えつつ、取引や契約において適切な手数料の発生を確認できます。

東京地裁R3.11.2をご紹介します。
人材紹介業者が薬局経営者に薬剤師を紹介し、採用通知を受けたが、入職しなかったため、紹介手数料を求めて争った事案です。
「採用する旨の通知」の意義が問題になりました。

当事者間で交わされた契約書の紹介手数料条項は以下の通りです。

「第2条(紹介手数料)

第1項  甲は,乙が紹介した人材(丙)を採用し,入職(入社その他名称の如何を問わず,丙が甲において労務の提供を開始することを意味する。)に至った場合,人材紹介の対価として,別途甲乙間で書面,FAX又はメールにより合意した方法により算出した紹介手数料を乙に支払うものとする。次の各号に定める場合も同様とする。

…第2号  甲が乙に対して丙を採用する旨の通知(書面か口頭かを問わない)を行った後,甲の都合により丙の入職に至らなかった場合(甲による労働条件の不利益変更その他の働きかけによって丙が入職を辞退した場合も含む)。」

判旨は以下のとおりです。

「「採用する旨の通知」を行った後は,被控訴人の都合により入職に至らなかった場合であっても,紹介手数料を支払うこととされた趣旨は,被控訴人において紹介された者を採用する状況にまで至っているにもかかわらず,その者が入職に至るまでの間,被控訴人の都合で自由に紹介手数料の支払を免れることができるとすると,控訴人にとって著しく不利益となるから,かかる事態を避けることにあると解される。」
「このような趣旨を踏まえると,「採用する旨の通知」(本件契約書2条1項2号)があったというためには,原則として紹介料が支払われる条件である入職に準ずる状況,少なくとも被控訴人と紹介された者との間で重要な雇用条件が確定し,入職をすることが相当程度確実に見込まれる状況に至っている必要があると解するのが相当である。」

この判例からわかること

「採用する旨の通知」という文言のみでは具体的にいつの時点で紹介手数料が発生するか不明確です。
(求人者が内定の通知を出した時点なのか、はたまた内定の承諾をした時点なのか、雇用契約を結んだ時点なのか…)

この判例における契約書では手数料の発生条件として、原則として2条1項本文でⅢ、例外的に求職者の都合で入社に至らなかった場合に2条1項2号でⅠのパターンをとっています。

本判例は、「求職者の都合で入社に至らなかった場合」という留保が付いている場合の「採用する旨の通知」の解釈を明らかにしたものと考えることができます。

判例を生かした修正例

第○条 
第○項  甲は,乙が紹介した人材(丙)を採用し,入職(入社その他名称の如何を問わず,丙が甲において労務の提供を開始することを意味する。)に至った場合,紹介手数料を乙に支払うものとする。次の各号に定める場合も同様とする。
第○号  甲が乙に対して丙を採用する旨の通知を行った後,甲の都合により丙の入職に至らなかった場合。

上記の修正例であれば、Ⅰほど人材紹介会社に有利すぎず、Ⅲほど求人者に有利すぎない、バランスの取れた修正になっています。

ここから、判例のように「書面か口頭かを問わない」「甲による労働条件の不利益変更その他の働きかけによって丙が入職を辞退した場合も含む」などの細かい場面についての文言を挿入して調整していくのかよいと考えます。
(上記の文言はいずれも人材紹介会社に有利な印象を受けます。)

おわりに

人材紹介契約においては、手数料条項を契約書で明確に定めることが取引の透明性と信頼性を高め、紛争を未然に防ぐ重要な要素です。透明かつ公平な条件を定めることで、取引先との良好なビジネス関係を築くことが可能となります。細心の注意を払って契約書を作成し、取引先との円滑なコミュニケーションを促進するよう努めましょう。


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