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CGで作ったMusic Bank階段のメイキング【後編】

こんにちは、映像ディレクター/VFXアーティストの涌井 嶺です。
この記事は、以下リンク先の記事の後編です。前編をまだ読んでない方は、ぜひ前編からお読みください!

前回の記事では壁や床、階段といった大きな構造部分のラフモデルと、仮のライティングまで組みました。
今回は仕上げに向けて、配置されているオブジェクトのディテールを作りながら、さらにフォトリアルにすべく全体を見ては修正を繰り返す、という作業を行います。そして最後にAfter Effectsに読み込んで、カメラで撮ったような質感や色を再現していく仕上げとしてコンポジット作業をします。

「あの手すり」を作る

K-POPアイドルがみんな物理的にハマって写真を撮る、あの手すりを作ります。


ここもカーブオブジェクトを使って作っていきます。

壁と繋がっている部分の金具はなかなかサイズを合わせるのが難しかったので、上の方は無理やり合わせています。

あまり見えないところは正確に作ろうとせず、適当に誤魔化すのも速く作るためのコツだったりします。

床の作り込み

わずかな歪みをつけてリアルに見せる

床オブジェクトのマテリアルには、Musgrave TextureをBumpノードのHeight値に入れ、微妙な歪みによる凹凸をつけています。これによって床が映す景色が絶妙に歪み、反射をリアルに見せることができます。

ハイライトされているノードが、Musgrave Textureによるバンプ。

Ian Hubert氏のこちらの動画でも解説しています。かなり汎用性の高いテクニックなので覚えておいて損はありません。


そのまま凹凸をつけると強すぎるので、値を調整して微妙な凹凸を表現する


さらに階段付近の床のポリゴンを割って溝を作り、


色味も微調整して床の質感はほぼ完成。ポリゴンは単純ながら、細かい汚しや凹凸がリアルさを増します

階段の作り込み

階段のマテリアルをさらにリアルに見えるよう調整しました。
ノードはこんな感じ。前回の記事で紹介した「Fluent : Materializer」が非常に便利で、簡単にディテールを足すことができます。
1.5階→2階の階段にも、手すりや踊り場をコピペで付けていきます。ここはほぼ見えないので、いろいろ破綻していても気にしてないです。
1階→1.5階の階段は上の段のほうに少しサイドのここも出っ張り?みたいなのがあったのでモデリングしていきます。
ここもFluentで汚しを付ける。よく見ると垂れているようなシミが全部同じ形をしているのですが、ここは上段の方であまりしっかり見えないのでそのままにしました。

ベースとなる構造の仕上げ

全体を見ながら、汚しをさらに足していきます。
階段や床のディテールが出てきた分、壁がツルっとして見えてきてしまったので、さらにマテリアルを作りこみました。
壁の最終的なシェーダーノード。

アセットを配置する

基礎となる構造はほぼ出来たので、細かい物を置いていきます。

黄色い自動販売機

左側に見える、黄色い自動販売機を作ります。一応今回の作品を商用利用するつもりはないのですが、すべてフリー素材で完成させたかったので、似たフリーの画像からテクスチャをPhotoshopで作りました。地味に大変な工程でした。

リファレンス(左)を参考にフリー素材でテクスチャを再構築。
シーンに読み込んで、
形状に合わせて立体化。筐体上部にはエリアライトを置いています

手前の照明

ほとんどリファレンスが無いのですが、手前部分は1Fの天井があってそこに円形のライトが設置されています。天井をブーリアンでくりぬいて、そこにEmissonマテリアルを置いて光らせていきます。

円柱によるブーリアンで天井をくりぬき


形状を作りこみます。


小さい穴に照明が入っているようです。大きい円はスピーカー?なんなのか分かる方がいたら教えてください

その他のアセットの配置

よくこの階段の裏に積まれている段ボールは、愛用するBlenderアドオン「Trashkit」に含まれるアセットを使って作りました。

アセットを適当に読み込んでそれっぽく配置
またゴミ箱は市販のモデルを使用。このままだとあまりにもツルっとしていて質感が無かったので
Fluentやエッジ検出ノードを使ってそれなりに味付け。

窓の外に見える植え込みや木はBlenderの有名なアドオン、Botaniqを使ってレイアウトしました。

Botaniqの植え込みアセット

最終的なライティングの調整

アセット配置後、外のオブジェクトの見た目を整えるためにライティングを最終調整。手前部分に少し部屋を作って、光を閉じ込めました。最終的に、窓に配置していたエリアライトは削除して、HDRIの光を思いっきり強くしています。手前に作った部屋にエリアライトを置いて、室内が暗くなりすぎないようにしています。
ライティング修正後。
壁のスイッチを追加したり、階段の色を調整したり、壁のマテリアルを調整したり、最終的なライティングに合わせて微調整を繰り返します。

レンダリングとコンポジット

レンダリングは1024サンプルで回して約4分。
After Effectsに読み込んで、コンポジットして静止画として仕上げていきます。
コンポジット用にいくつかのレンダーパスと呼ばれるレイヤーを書き出しており、それらを組み合わせて質感をアップしています。

レンダリングしたままの状態。
Emissionレイヤーを使って天井のライトにグローを足す。
AOレイヤーを使ってアンビエントオクルージョンを全体に足しました。
暗くなったぶんを補正+リファレンスの色を参考にカラーグレーディング。
レンズ効果を足して完成。色収差、グレインを足したほか、スマホで撮った質感を出すためにアンシャープマスクを少しかけています
完成。

おわりに

以上でこのCGシーンが静止画としては完成しました!
とにかくCGシーンを速くリアルに作るうえで大事なこととして、

  • 画面の近くに見えるもの(今回の場合は床など)

  • 目が行くもの(階段や自販機)

  • 画面の多くを占めるもの(壁や床など)

の作り込みとディテールが大切で、さらに全体が適切にライティングされることでクオリティが格段に上がって見えます。

また今回のようなシーンではポリゴンをたくさん割らなくても、マテリアルを作り込むことで凹凸や汚れを表現してディテールにしているので、シーン自体は非常に軽いです。映像としてレンダリングしたときはサンプル数を下げたので、1フレーム30秒ほどでレンダリングできました。

また何かCGシーンのメイキングをアップする機会があればこのような記事も書いていこうと思います!
そして今回のメイキング動画も近日中にYouTubeにアップ予定ですのでお楽しみに!
ではでは。

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