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Scrapbox知的生産術連載の振り返り / AmazonからopenBDを引くブックマークレット1 / WorkFlowyをカード的に使う

Weekly R-style Magazine ~読む・書く・考えるの探求~ 2022/08/29 第620号

「はじめに」

ポッドキャスト、配信されております。

◇第百十二回:Tak.さんと倉下企画会議 作成者:うちあわせCast

今回は、ひさびさにリアルうちあわせです。タイトル案については、以下のページでも引き続き考えております。

◇Scrapbox知的生産術(仮)のリタイトル案 - 倉下忠憲の発想工房

企画の開始前、つまり文章を書く前にタイトルを考えるのも面白いですが、ある程度材料が出そろってから考えるのも──ある種の難しさがあって──楽しいものです。

何かアイデアがあれば、ぜひお知らせくださいませ。

〜〜〜素ポリタン〜〜〜

買い物に出かけるのも面倒だったので、お昼ご飯を簡単に作りました。具なし、つまりケチャップ+塩コショウオンリーのナポリタンです。素ポリタンとでも呼んでおきましょう。

で、それを食べてみると、たしかにナポリタンな味はするのですが、非常にわびしい食事となりました。食べても食べても同じ味と同じ触感が続くのです。

逆に言えば、濃い味付けの料理に分類されるナポリタンですら、その食事は均質には進まないのです。味や食感の「アクセント」が効いています。

つまり、料理の味といった場合に、一口、口に入れたときの感覚だけが意識されがちですが、そうではなく時間的な経過を伴う感覚の総体が食事を構成しているのです。

そんなことを考えながら、素ポリタンをズルズルしていたのですが、このわびしい食事は、要旨しか書いてないノウハウそっくりだなと思いました。要点はたしかにある。間違いはどこにもない。しかし、全体的にわびしい感じがする。そういう印象です。

私が今考えている「ノウハウ書」の在り方というのは、そういうものではない形を模索しようとしてる、と言えるかもしれません。

〜〜〜誰のためのコンテンツ〜〜〜

Googleが大きなアップデートを行うようです。

◇What creators should know about Google's helpful content update  |  Google Search Central Blog  |  Google Developers

重要そうな箇所を、以下のページに自分なりにまとめておきました。

◇Google's helpful content update - 倉下忠憲の発想工房

いくつか引いておきましょう。

・コンテンツは、人間向けではなく、主に検索エンジンから人々を引き付けるためのものですか?
・いくつかのコンテンツが検索結果でうまく機能することを期待して、さまざまなトピックに関する多くのコンテンツを作成していますか?
・あまり付加価値を付けずに、主に他の人が言わなければならないことを要約していますか?
・あなたのコンテンツは、読者が他の情報源からより良い情報を得るためにもう一度検索する必要があると感じさせますか?

非常に大切な話でしょう。でもって、Googleが上記のような警句を発しているということは、こうした「コンテンツ」が山ほど作られていたことの証左でもあります。かつて盛り上がっていた「個人的な話をするブログ」が目立たなくなるくらいに、「SEOコンテンツ」が増えてしまったわけです。

Googleとしては、そうしたコンテンツを駆逐したい気持ちがあるようですが、うまくいくかはわかりません。イタチごっこが続く気はします。でも、お手軽な方法で作られた「コンテンツ」が、検索上位で頑張り続けることはきっと難しくなるでしょう。そうなる未来に期待したいところです。

とは言えです。

上記のような「検索結果の清浄/正常化」は大切だと思うのですが、一方で「人様に役立つことだけが書かれるべき」という視点もまた偏ったものだと思います。

つまらない話、くだらない話だって、ぜんぜんOKでしょう。というか、そういう価値判断は個々の人間が下しているだけであって、ある人にとってのつまらない話が別の人には面白いということがあるわけで、「つまらない話はダメで、そうでない話はOK」という線引き自体が傲慢だとも言えます。

「コンテンツを人間向けに書く」ことは、最終的には「Googleが何を重視するかは知ったこっちゃない」という結論に至ります。もちろん、完全に無視する必要はないものの、主軸をGoogle(あるいは世間様)に置くのとは違った考え方が育っていけば、かつての自由さ(あるいは解放感)が取り戻せるのではないかと思います。

〜〜〜読了本〜〜〜

以下の本を読了しました。

『人を賢くする道具 ――インタフェース・デザインの認知科学 (ちくま学芸文庫)』

本書は、人間と道具の関係を考察しています。人は道具を作る。それも、道具を作るための道具を作る、という再帰的な構造すらある。人間の知性は外部(環境や他者)によって補強されている。その外部には道具もまた含まれる。

この構図を見ただけで、道具がいかに重要かがわかります。私たちの頭がどう働くのかに強い影響を持っているのです。

また。本書の指摘で面白いのは、人間の思考に二つのモードがあるという点です。システム1・システム2などが有名ですが、本書では「体験的認知」と「内省的認知」という概念が用いられています。この二つの認知がうまく働くことで、人は「賢くなる」わけです。

逆に言えば、体験的認知が必要な場面で内省的認知が働くのはよろしくありません。たとえば、アイデア出しをしているときに、ツールの操作方法がわからなくなってヘルプを調べる、といったことはうまくないわけです。

当然、内省的認知が求められる場面で体験的認知が働くのもよろしくありません。諸条件についての検討が必要なのに、演説に感動してハンコを押してしまうのはノットグッドなわけです。

映像メディアの発達によって、私たちが何かを学ぶときに体験的認知を強く働かせることができるようになった一方、そこでは内省的認知が働きにくくなっている状況があるかもしれません。

あるいは、ツールの多機能化によって、体験的認知を働かせて作業に集中したいときでも、頻繁に内省的認知が顔を出してそれを妨げている状況があるかもしれません。

本書が書かれたのはずいぶん昔(1996年)ではありますが、それでも現代の情報ツールを考える上で非常に示唆に富む一冊になっています。

〜〜〜Q〜〜〜

さて、今週のQ(キュー)です。正解のない単なる問いかけなので頭のストレッチ代わりにでも考えてみてください。

Q. ツールを使っているときにイライラすることはありますか。それはどんなときですか。

では、メルマガ本編をスタートしましょう。今回は、Scrapbox知的生産術(仮)の振り返りと、二つのエッセイをお送りします。

「Scrapbox知的生産術連載の振り返り」

今回は、16回にわたって連載してきたScrapbox知的生産術(仮)について振り返ってみます。

「何を書いてきたのか」と「何を書こうとしていたのか」を確認し、最終的に「何を書きたいのか」を検討します。

■実際に書いたこと

さて、まずいきなり後悔しているのですが、各連載は連番ではなく、何かしらのタイトルをつけておくべきでした。でないと、振り返ったときに以下のようになります。

・Scrapbox知的生産術1
・〜
・Scrapbox知的生産術10
・Scrapbox知的生産術11
・Scrapbox知的生産術12
・Scrapbox知的生産術13
・Scrapbox知的生産術14
・「混沌からはじめる」
・「考えを育てるには時間がかかる」

全体を通して何を書いてきたのか、まったく把握できません。逆に言えば、見出し=目次のパワーは、こういうところにあります。一覧性を確保できるわけです。

というわけで、書き終えた連載にタイトルを振っていきましょう。

・1 情報カードに憧れて
・2 Evernoteと情報カード
・3 メメックスには至れない
・4 未熟な情報整理
・5 デジタルにおける整理
・6 カード法は発想法ではない
・7 カード作成のポイント
・8 小さく考えていく
・9 考えを育てる具体的な手順
・10 驚き駆動で考えを広げる
・11 大きなカードシステムを可能にする仕組み
・12 中途半端で続けていく
・13 シャドーブレインを準備する
・14 不完全なライブラリ
・15 混沌からはじめる
・16 考えを育てるには時間がかかる

即興でつけたタイトルですが、こうして並べてみるとなかなか楽しそうです(少なくとも最初のバージョンよりははるかに楽しそうです)。

私がデジタルノートに出会い、そこから経験した挫折を踏まえて、新しいデジタルカードシステムをScrapboxで構築していく。きっと、そんな流れになるでしょう。そこに具体的なトピックを挟み込んでいく構成になっています。

さらに「シャドーブレイン」や「混沌からはじめる」など、より高い視点からの提言もあります。全体のバランスはなかなかよさそうです。

■バックヤード

では、上の目次は、事前に立てたアウトラインをどの程度達成できているのでしょうか。それを確認してみましょう。

長くなるので、Scrapboxに「目次案」をあげておきました。

◇『Scrapbox知的生産術』流れ案 - 倉下忠憲の発想工房

ざっとご覧頂くだけでわかるかと思いますが、上記の事前アウトラインはほとんど無視しています。守っていたのは序盤までで、以降は内容も順番もすべて「出たこと勝負」で書きました(平常運転です)。

基本的に「書けることがすべて」と考えているので、事前に立てたアウトラインよりも、実際に書いた原稿を主軸に置くのですが、そうはいっても外したくない話(でも書かなかった・書けなかった)もあるわけで、この両方を考慮して企画案を再構成していきたいところです。

■Scrapboxの扱いは?

さて、ではどのように再構成していきましょうか。おそらくポイントになるのは、「Scrapbox」をどこまで前面に出すかでしょう。

Scrapboxを使うことを念頭に話を進めていくのか、それともScrapboxはツールの選択肢の一つとして控えめに扱い、全体としてはデジタルカードシステムと、それを使った「考えの育て方」の話を進めていくのか。その選択です。

Scrapboxについて詳しく説明すればするほど、Scrapboxを実際に使う場合には便利になりますが、他のツールにおいては不要な情報が増えていきます。逆に、抽象的な話を増やすと、汎用性は上がりますが、「具体的にどうすりゃいいの?」という悩みを読み手に与えかねません。

難しい判断です。

とは言え、何かしらの具体性は必要になってくるでしょう。抽象的な話だけで終わりにはできません。それに、抽象的な知識であるデザインパターンを解説した『Java言語で学ぶデザインパターン入門』も、Javaという具体的な言語でのサンプルを使っています(私はこの本をJavaがほとんど書けない状態で読みましたし、読めました)。

それと同じような位置づけでScrapboxを扱う、というのは一つのやり方でしょう。

■テーマは何か

Scrapboxの細かい操作方法や機能に関しては、時間が経つと変更される可能性があるので、そうした方向での「解説書」を目指すことは避けた方がよいでしょう。同様に、Scrapboxを使うための本(Scrapboxにしか適用できない本)だと思われるのも避けたいので、メインタイトルに「Scrapbox」を入れるのも慎重になった方がよさそうです。

となると、全体を通して語ってきた「考えを育てること」が中心的なテーマとなるでしょう。いわゆる「発想法」とは違う役割を持つ、「考えを育てる」という営為。その意味づけと手法、そしてデジタル・カード・システムがどんな役割を発揮するのか。そういう話の解説書になればと思います。

その意味で、連載を始める前に考えていたコンセプト「知的生産におけるScrapboxの位置づけを確認する」とは、少しズレてくるかもしれません(これも平常運転です)。

「知的生産」という行為は重要ですし、トピックからは外せませんが、タイトルやサブタイトルに入れるべきかどうかは、ちょっと検討が必要です。むしろ、書いている間に出てきた「デジタル・カード・システム」という言葉の方が、この舞台に似合っているかもしれません。

■どんな風に書くか?

少し前から、こうしたノウハウ書を「体系的に書くか、エッセイ的に書くか」を考え続けていますが、今回は体系的にまとめるのは一旦やめておこうと思います。今回の連載のように、エッセイ的な文章を中心に進めていく予定です。

なぜか?

その方が面白そうだからです。というか、「Scrapboxはこう使えばいい」とまとめきるのも不自然ですし、「デジタルカードシステムはかくあるべし」と指針を示せるほどの成果も挙げられていません。となると「私とScrapboxとデジタルカードシステム」というようなエッセイ風文章がしっくりきそうです。

あくまで私は「私のやり方」を提示し、そのやり方に興味を持って自分もやろうと思った人に向けて必要な情報を提供する。それくらいのスタンスで書いてみようと思います。

ちなみに、文章ができているんだから、まとめて本にするのなんてすぐだよね、というわけにはいきません。むしろここからがシン・本番のような感覚があります。

というわけで、完成までしばしお待ちください。とりあえず、プロジェクトはスタートさせておきます。

(来月からは別のテーマでお送りします)

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8,803字 / 3画像 / 1ファイル

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