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Weekly R-style Magazine 「読む・書く・考えるの探求」 2018/10/01 第416号

はじめに

はじめましての方、はじめまして。毎度おなじみの方、ありがとうございます。

『Scrapbox情報整理術』が発売して二ヶ月ほど経ちました。これまでの本だと、だいたいこのくらいからランキングが落ち始めるのですが(実際紙の本は結構落ちています)、Kindle版は1000位〜2000位台をうろうろしています。ありがたいことです。

それもこれも、ネットで紹介してくださっている方がたくさんいらっしゃるからでしょう。

たぶん、この本は書店にはあまり置かれていません(初版部数から想像できます)。ということは、「書店でたまたま発見して購入」という動線が生まれる可能性は低いわけです。ということは、「Scrapboxを検索して見つけた」とか、「誰かがTwitterで紹介していたから」、という動線が結構頼みの綱というか、それくらいが本の存在を認知してもらえるルートです。

で、現状はたまたまそれがうまく機能している、ということなのでしょう。

本というのは、それ自身の力だけで売れることはまずありません。紙の本だって、書店さんが陳列するという決断をし、ときにPOPを設置するといったことをするから売上げが生まれます。

電子書籍の場合は、電子書籍ストアにそうした動きを期待するのも難しく(なにせ数が多い)、結局のところは口コミ頼み、ということになります(ステマを除く)。

自分がずっと物を売る仕事をしていたからこそ、こうして紹介してもらえるのは本当にありがたいなと思います。出版感謝イベントでもやりたいくらいです。

〜〜〜ロールバック〜〜〜

私と同世代ならば、かなり響くニュースかもしれません。

まるで時代がロールバックしているかのようです。むしろ業界的に新ネタがなくなったのか、という気もしないではありませんが、よくよく考えれば少し前から、昔の作品のリバイバルは増えていて、ようやく私たちの世代の順番が回ってきた、ということなのでしょう。

言い換えると、私たちの世代が「おっさん」になって、その財布がコンテンツ業界に狙われるようになった(聞こえが悪い)、ということです。

でもまあ、こういうのは単純に嬉しいですね。

〜〜〜ブリコラージュ〜〜〜

まったく個人的な意見ですが、あるジャンル(界隈・業界・その他もろもろ)のお作法に則って、そのフレームの中できっちり評価される作品を作るのではなく、必要に応じてさまざまな領域から概念や道具を拝借し、目的のものを作り上げていく、というブロコラージュな手つきと、それによって生み出される作品を好ましく感じます。

でもって、たぶん私自身の手つきもそれに近いものがあるのかな、とときどき考えます。

〜〜〜ひとり/じゃない〜〜〜

執筆というのはどこまでいっても孤独な作業ですが、本というものは決してひとりによって書かれるものではありません。

それは、編集やデザインや印刷といった共同作業が発生する、ということだけでなく、人が文章を書くときは、必ずそれまで読んできた本、会話してきた人、得てきた経験が影響するからです。

でもって、筆者は必ずそれを送り届ける読者というのを(どういう形であれ)イメージしているものです。

そもそも、言語ですら、自分のものではなく、他の誰かからの(というか所属する共同体からの)借り物です。

ある本が売れたり、面白いと言ってもらえたりすることは、もちろん著者の功績であり、そのことを誇ってもよいでしょう。でも、それを独力で書き上げたと考えるのは、さすがにちょっと傲慢だと思います。

でもってそれは、別に本の執筆だけに言えることではないでしょう。

〜〜〜アウトラインを横に並べる〜〜〜

最近、ちょこちょこVivaldiというWebブラウザを使っています。

普段使いのブラウザはあいかわらずFirefoxなのですが、WorkFLowyでアウトラインを操作するときには、Vivaldiを起動することが増えました。Vivaldiの「ウィンドウを横に並べる」機能がたいへん便利だからです。

たとえば、第二章の構成を整えているときに、その左に第一章のアウトラインを並べておく。あるいは、縦に長くなった項目を整理していくときに、その上部を左側に表示させておき、右側で実際の作業を進める。

そういう使い方です。

今こうして書いただけだと「へぇ〜便利そうだな〜」くらいに思われるかもしれませんが、これが実に快適です。同じリンク(階層)を行ったり来たりすることとか、スクロールを頻繁に上下移動させるのって、かなり面倒というか、認知的にも負荷がかかっているのだと想像します。

というわけで、アウトライナー使いの方は、ぜひVivaldiを使ってみてください。

ウィンドウを横に並べる方法は、以下のページで解説してあります。

〜〜〜考える体力〜〜〜

雑誌『新潮45』に関して批判がいろいろ出ていました。そのことに直接言及はしません。ただ、この事態の推移を見ていて思ったことが二つあります。

・一つの事柄について長く考えることは思想や言論の上で大切
・しかし、一つの事柄について長く考えるには体力が必要

ここで言う「体力」は、幅広い概念です。企業で言えば資本力であり、人間で言えば実際の体力も含みます。

現代では教養が必要だ、みたいなことがよく語られるわけですが、むしろ考えなければいけないのは、上記の問題についてではないでしょうか。

『考える人』というリベラルな気風の雑誌でも、結局休刊に至ってしまっているわけで、個々の思想性うんぬんの話ではないと感じます。

〜〜〜スプレッドシート〜〜〜

とある方が本の構成をスプレッドシートでまとめらているのを拝見して、真似してやってみました(すぐ真似する)。

で、これが案外良いのです。

大きな章立てと、そこに含まれる項目(「節」というやつです)だけがリストアップされたスプレッドシート。

いやいや、そんなものアウトライナーを使えばいいじゃん、と思うわけですが、実際、WorkFlowyであっちゃこっちゃ開いたり閉じたりした後で、「章立てとその下の項目だけを一覧したい」となると、閉じて回る操作が必要となります。

昔は、そのためのショートカットが機能していたと思うのですが、最近なくなりました(あるいは操作方法が変わって、私が知らないだけかもしれません)。

というわけで、単に一覧するためだけにスプレッドシートを作っています。これは、他の人に見せる目的でも使えそうですね(というか、実際そうやって見せてもらったわけですが)。

〜〜〜裁量労働制〜〜〜

働き方改革の一環なのかどうかはわかりませんが、裁量労働制を推進しよう!みたいな話をたまに見かけます。

一見、働き手にとって良い制度のようにも思えますが、コンビニというある種の地獄を知っている私としては、とても安易に頷けるものではありません。

本来なら支払うべき人件費を、「オーナー」という立場を設けることによって支払わなくてよいようにした、というのが日本のコンビニ契約です。本部の言うことを聞かなければいけないのに(最悪契約解除されてしまいます)、「独立経営だからお金は自分でなんとかせい」と言われるのです。これが地獄と言わずして何を地獄というのでしょうか。

結局のところ、裁量労働制みたいなものが機能するためには、雇用の流動性が担保されることが必要でしょう。それがない状況では、働き手の方が一方的に不利になることが、容易に予想できます。

新卒一括採用、みたいな文化が消え去った後にようやく、裁量労働制について検討できるのだと思います。

〜〜〜ページの機能と横幅〜〜〜

最近Scrapboxでは、

・文章を書く
・デイリータスクリストを作成する

の二つをやっているのですが、それぞれでページの横幅が違う方が良いな、ということに気がつきました。

文章やメモを書く場合は、通常サイズで良いのですが、デイリータスクリストの場合はむしろ、ぎゅっと狭い方がいいです。タスク名はそんなに長くならないですし、長くすると扱いづらくなるので、横幅はややタイトなくらいで十分です。

というわけで、以下のUserScriptを使わせてもらっています。

ちなみに、さらに以下を併用すると、ものすごくリーガルパッドっぽくなります。

これはまあ、趣味みたいなものですので、オススメはしません。

〜〜〜Q〜〜〜

さて、今週のQ(キュー)です。正解のない単なる問いかけなので、頭のストレッチ代わりにでも考えてみてください。

Q. 普段使うエディタやワードプロセッサの横幅はどんな感じでしょうか?

では、メルマガ本編をスタートしましょう。

今週も「考える」コンテンツをお楽しみくださいませ。

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2018/10/01 第416号の目次
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○「欲しいと思った本をそのときに買っておくこと」 #情報摂取の作法
 電子書籍時代に本を買うことについてです。

○「Scrapboxで情報カード」 #新しい知的生産の技術
 Scrapboxで行う知的生産についていろいろ書いています。

○「『ホモ・デウス』を読む 第三回」 #今週の一冊
 『ホモ・デウス』を読み込んでいく連載です。

○「執筆と魔術回路」 #物書きエッセイ
 物を書くことや考えることについてのエッセイです。

※質問、ツッコミ、要望、etc.お待ちしております。

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○「欲しいと思った本をそのときに買っておくこと」 #情報摂取の作法

先日、以下のツイートを拝見しました。

今回は、これについて少し考えてみます。

■いつでも買える

電子書籍が登場したことで、本の買い方が一変しました。

紙の本 + リアル書店だと、返品や売り場行方不明問題があるので、見つけたうちに買っておく判断が有効です。特に最近では、書店の返本サイクルが早いので(発売される新刊の数が多いからでしょう)、手早く買っておかないと、「あれっ、もうない?」みたいなことになりかねません。

そしてもちろん、長いスパンで、絶版の問題もあります。見つけたら、買っておけの指針はやはり有用です。

しかし、電子書籍では、そのような購買行動を取る理由はあまりありません。「この本を買おうと思った」という記録さえ残っていれば、その情報を元にいつでも本を買うことができます。

よって、読み終わってから次に読む本を買う、という購買行動が可能です。

同様の話は、以下の記事でも書きました。

この考え方を用いれば、「まだ読んでない本があるから新しいのを買わない」が間違っている、と断じるのは難しくなります。
※もちろん、すべての本が電子書籍化されているわけではないので、そうしたものについては依然適用できますが、そういう話はさておき。

ここで、「じゃあ、そういうことでいいか」と思考をストップしてしまうのは面白くありません。電子書籍的購入環境においてもなお、「まだ読んでない本があるから新しいのを買わない」が間違っていると断じられる要素があるとしたら、それはどういうことだろうかと考えてみるのが、思考のトレーニングになります。

■かつて買うと決めた本

仮に、”「まだ読んでない本があるから新しいのを買わない」が間違っている”、が電子書籍においても真だとするならば、「読むタイミングになってから買うメソッド」では、実現されない何かが、あるということになります。

それは一体何でしょうか。

シンプルに考えれば、次のような状況でしょう。

ある時点で買おうと思っていたけども、時間が経つにつれそれを買おうという気持ちが徐々に減退してしまい、積ん読本の空きができたタイミングではまったく買う気がなくなってしまったにも関わらず、そのときに自分が読んだら役に立つ本がそこにあった。

なかなかややこしい状況です。逆向きに整理してみましょう。

ある時点の自分が、その本を読みたいと思い、お金を出してその本を買った。しかし、なかなか時間が取れずにその本は本棚に長期的に置いておかれた。しばらく時間が経ってみて、たまたま目に入ったので、読んでみたらすごく面白かった。でも、その時間が経った状況なら、お金を出してまで買う判断をしたかどうかはわからない。

こういうシチュエーションが起こりうるかどうか、そして、そこで読んだ本に価値を認めるかどうかで、電子書籍環境における「読むタイミングになってから買うメソッド」の評価はわかれるでしょう。

■揺れる「買う」気持ち

ポイントは「買う」という行為の敷居です。どれだけ本好きの人であっても、気になった本をすべて買うということはありえず(例外は認めましょう)、何かしら買う/今は買わないでおく/買わないのジャッジメントが存在するでしょう。

問題は、そのジャッジメントが固定的なものではない、ということです。自分という存在があり、本という存在があり、その両者の関係は永続的で変わらない、というわけではありません。状況に強く左右されます。

極端なことを言えば、「ちょっとした気の迷い」で本を買うことは起こります。365日中、364日はその本を買おうとは思わないのに、何かにあてられて本を買ってしまう、ということはあるわけです。

もちろん、たいていその場合は、「ハズレ」の本を引くことになるわけですが、「極めて強いアタリ」の本を引く可能性も皆無ではありません。

無論、上記は極端な例にすぎません。ただ、人間の「買う」という気持ちが安定的なものではなく、永続的に継続するわけではないにも関わらず、「買っておけばよかった本」というのが存在しうることは十分予想できます。

結局のところ、新しく本を買うという行為は、一種の博打です。経験則や立ち読みやレビューなどの情報収集によって、そのリスクを減少させることは可能でしょうが、皆無になるわけではありません。

だからこそ、本を買う行為全般に関しては、「論理的に説明しようとすると行き詰まってしまう」のでしょう。そこには「賭け事」に共通する、合理的な要素だけでは説明しきれないものがついてまわります。

ただし、面白いのがKindle Unlimitedです。

現在はラインナップが非常に少ないですが、少なくともこのサービスでは「買う」というジャッジメントを働かせることなく、本を読むことができます。

仮にこのサービスが拡大した未来を思考実験的にイメージすると、そこでは「買う」のジャッジメントの揺れ、といった現象は起きません。その本を買うことと、その本を買いたい思ったことを記録しておくことの差異は極めて小さくなります。

ただし、その場合は、「読みうる本が桁違いに多すぎる」という別種の問題が起きるかもしれません。きっとそこでも、何かしらのリスクとの付き合いが必要になってくるでしょう。

読書の悩みは、尽きません。

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