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セルフケアとしてのノウハウ / ストレスフリーという発明 / アンビエントな物リマインダー

Weekly R-style Magazine ~読む・書く・考えるの探求~ 2023/09/18 第675号

はじめに

新刊『ロギング仕事術』が発売となりました。紙版だけでなく、Kindle版もすでに購入可能です。

◇ロギング仕事術: 課題に気づく、タスクが片づく、成果が上がる | 倉下忠憲 |本 | 通販 | Amazon

帯はなんと読書猿さんに推薦文を頂きました。びっくりですね(私もびっくりしました)。

出版されるまではどうにも不安が強かったのですが、いくつか感想もいただいており、少しホっとできている状態です。

まず、『モヤモヤの日々』や『平熱のまま、この世界に熱狂したい』の著者である宮崎智之さんが、以下のツイートで感想をまとめてくださりました。

さらにナレッジスタックでごりゅごさんにご紹介頂き、

◇記録を残す時には「うれしいこと」に注目する | by goryugo | ナレッジスタック

Tak.さんにもブログでご紹介いただきました。

◇倉下忠憲さんの新刊『ロギング仕事術』について - Word Piece

*一応注意書きしておくと、後のお二人には倉下から本を送っております(ポッドキャストの収録があるので)。

というわけで、引き続き感想をお待ちしておりますので、よければ何かしら倉下が見つけられる形で発信してもらえれば幸いです。

〜〜〜さらに次の本〜〜〜

で、新刊が発売されたばかりなのですが、その次の本の予約がすでに始まっております。

◇思考を耕すノートのつくり方 自分の知的道具を手に入れる(仮) | 倉下 忠憲 |本 | 通販 | Amazon

こちらは11月17日発売予定で、現在初稿作業を進めているところです。もう少ししたらゲラ確認作業に入るかと思います。

『ロギング仕事術』も、『すべてはノートからはじまる』からの展開/スピンオフ的な一冊だと言えるかと思いますが、こちらも別の意味でスピンオフ的な一冊になりそうです。理論編に対して実践編という位置づけですね。

「ノートの書き方」についての話をたっぷり盛り込みましたので、ご期待くださいませ。

〜〜〜ポッドキャスト〜〜〜

ポッドキャスト、配信されております。

◇第百三十四回:Tak.さんと『ロギング仕事術』について 作成者:うちあわせCast

◇BC072『ふつうの相談』 | by goryugo and 倉下忠憲@rashita2 | ブックカタリスト

うちあわせCastでは、『ロギング仕事術』についてお話しました。ブックカタリストは本号でも言及している『ふつうの相談』を倉下が紹介しました。

よろしければお聴きくださいませ。

〜〜〜動画で紹介〜〜〜

最近、Bikeというアウトライナーをよく使っているので、その特徴的な機能を動画で紹介してみました。

◇Macのアウトライナー「Bike」の二つのモード/FocusとTypewriter | YouTube

2分ほどの短い動画です。で、この動画を作るのにゆうに20分以上かかっています。

たしかにツールの動作は動画で説明したほうがはるかにわかりやすいのですが、編集コストの高さがどうしても気になりますね……。まあ、私が単に動画を作り慣れていないだけかもしれませんが。

とりあえず、この「ちょこっとツール紹介動画」はもう少し続けてみようと思います。

〜〜〜デジタル・ツール・ライティング〜〜〜

面白く記事を読んでいたら、突然自分の名前が出てきてびっくりしました。

◇千葉雅也 × 速水健朗が語る、テクノロジーと創作の共進化 「マルチウィンドウは再評価すべき」|Real Sound|リアルサウンド ブック

語られている問題意識は私も持っていて、特にスマートフォンのシングルウィンドウかつ狭いディスプレイの組み合わせは、いわゆる知的生産的な頭の使い方に影響を与えるのではないかとにらんでいます。

おそらくそういうことを考える意味でも、ワープロ・パソコン時代からここまでの"歴史"を一度振り返っておく必要があるのでしょう。そういうこともちょっとやってみたいところです。

さて、皆さんはいかがでしょうか。ここ20年くらいの「書くためのツール」の変化はあったでしょうか。それに伴って、ツール以外の変化は生じたでしょうか。よろしければ倉下にご意見をお寄せください。

ではメルマガ本編をスタートしましょう。今回は、3つのエッセイをお送りします。

セルフケアとしてのノウハウ

東畑開人さんの『ふつうの相談』を読みました。

◇ふつうの相談 | 東畑 開人 |本 | 通販 | Amazon

心のケアにまつわる知の在りようを大きく整理した一冊なのですが、本書の観点に触れたことで、最近私が考えている「ノウハウ論」にも大きな揺さぶりが生じているところです(今も揺れています)。

今回は、その揺れのまっただ中を思索してみましょう。

■書き手のノウハウ

本というのは、連続的に影響するものです。ある本を読んで感じたことが、次の本を読んでいるうちに強まってくる。そんな余波とも余韻とも残響ともつかない影響がたしかにあります。

『ふつうの相談』を読む前に読んでいたのは、ジャン=ルイ・ド・ランビュール編の『作家の仕事部屋』でした。この本では、フランスのさまざまな書き手が「自分の仕事の仕方」を語っています。それらの語りで見出されるのは、大半が共通点ではなく相違点です。皆それぞれに仕事の仕方が違っているのです。

なぜ、違うのか。

それは欠けている部分が異なるからでしょう。

・毎日同じ時間に仕事をしたいができない。だから気が向いたときにやるようにしている。
・机に向かうと原稿が書けない。だからベットの上で書くようにしている。
・家では作業ができない。だから仕事はいつもカフェでしている。
・外でなんて仕事はできない。だからいつも家に閉じこもっている。

眺めていて感じるのは、「こうしたいからこうする」とか「こうすればうまくいく」というプラス思考(加算思考)の発想ではなく、「こうしないとできない」というようなマイナスの状態をなんとかプラスマイナスゼロに持っていこうという姿勢です。

「こうしないとできない」というのは、ある種の欠損の表明であり、その欠損の形がそれぞれの書き手で違っているので、その欠損を埋めるための方法/ノウハウというのも異なってくる。そういう構図があるのでしょう。

私はこの捉え方が非常に重要であると思いました。ノウハウへの眼差しを、ラディカルに変容させてしまうインパクトがあると感じます。

■ノウハウの三層

そこでまず、この捉え方を織り込んだ構図を仮設しておきましょう。この構図がどれだけうまく機能するのかは、他の事例と合わせないと見えてこないのですが、何も仮設しないと先には進めないので暫定的な見取り図を作っておきます。

まず、マイナスの状態をプラスマイナスゼロに持っていく方法があるのだとすれば、プラスマイナスゼロからより大きいプラスに持っていく方法も想定できるでしょう。ということは、以下の二層が仮設できます。

・ゼロからさらなるプラスに
・マイナスをゼロに

これだけで十分でしょうか。おそらくもう一つの層が挿入できます。

・ゼロからさらなるプラスに
・その状態を維持する
・マイナスをゼロに

上向きの矢印ではなく、横向きの矢印の層です。ということは、下向きの矢印も想定できそうですが、意図的にマイナスに持っていく方法を人が欲するのかどうかはわかりません。仮にマイナス方向を指向するにしても、それはより大きなプラスを求めるためのマイナスでしょうから(筋トレ的なことです)、上向きの矢印に包摂して問題ないような気がします。

というわけで、まずこの三層を仮設しておきましょう。

こうやって層を分けるのは、それぞれで目指すものや価値判断の評価軸が違っていると想定しているからです。もっと言えば、その中で蠢く「方法」のベクトルが異なるのではないかと考えているからです。

どちらも矢印としては上向きなのですが、くぐり抜ける層が異なっているので、方法の内実も違ってくるのではないか。そういう感触をこの構図に託しておきます。

■ふつうの知

以上の仮設があった状態で、『ふつうの相談』を読みました。

『ふつうの相談』ではいくつかの議論がなされているのですが、私が注目したのが「知」の働きの領域的な捉え方と、その接続です。

一般的な捉え方では、「心の問題」を解決するのは、精神科や心療内科、あるいはセラピー・カウンセリングなどの専門職に就いている人間である、という理解でしょう。たしかにそれは間違いではありません。彼らが習得してきた専門知によって問題の解決を図る。そういうことはたくさん行われています。

しかし、そうした診療室の外側に目を向ければ、より大きな構図が立ち現れてきます。

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