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アイデアは手広く構える / システム手帳日記 / 連載で読む、ゆっくり読む / RSP+xmlを読む / デジタルガレージとしてのTextbox

Weekly R-style Magazine ~読む・書く・考えるの探求~ 2023/01/23 第641号

はじめに

ポッドキャスト、配信されております。

◇BC055『限りある時間の使い方』から考える「時間の使い方」

『限りある時間の使い方』をテーマにして、「時間の使い方」について考えてみました。効率的な時間の使い方ではなく、そもそもその「時間を使う」という表現について考えるような、わりと根源的な話になったかと思います。

よろしければ、お聞きください。

〜〜〜AIと知的生産〜〜〜

翻訳ツールのDeepLにスピンオフツールが登場しました。

◇DeepL Write:AIを活用した文章作成アシストツール

自分の書いた文章の直しを手伝ってくれるツールです。現状は英語とドイツ語だけのようですが、今後は利用できる言語も増えていくことでしょう。

で、こういうAIツールは、本当にさまざまな場面で見かけるようになりました。最近話題のChatGPTも、使えば使うほどその便利さが感じられるようになっています。倉下の場合は、プログラミングで困ったことがあると、GoogleではなくGhatGPTさんに聞くことが増えてきています。

おそらく、FirefoxのアドレスバーにGhatGPTとのチャット機能がついているなら、今よりも利用回数は増えるでしょう。単語レベルで、しかもその組み合わせを考えてGoogleでの検索キーワードを調整するよりも、ざざっと思っていることをGhatGPTさんに尋ねる方が楽なのです。

あと、質問の形式で書くので、その過程で自分の考えが整理されている、という効能もあるのでしょう。プログラミングだと、「こういうことをやろうと思っているのだけども、どんなコードを書けばいいか」と質問すれば土台となるコードを教えてくれますし、そのコードの意味を聞いたらきちんとこたえてくれます。たしかにこれは「生産性」があがります。

一方で、じゃあ本の執筆にどれだけ役立つのかを考えると、現状はそこまで期待できません。少なくとも、プログラミングと同じ活躍は期待できなさそうです。

■ ■ ■

たとえば、今自分が仕事術に関する本を書いているとして、そこで「どんな風に書けばいいのか」で詰まっても、GhatGPTはうまくこたえを返してくれないでしょう。というか、うまく答えを返せるなら、そもそも自分がその文章を書く必要すらないわけです。

どんな漢字を使えばいいのかとか、その表現の正確な意味はとか、そういったレベルでの質問にはたいへん役立ちますが、自分がやりたい説明を代わりに書いてもらうわけにはいきません。

もっといえば、文章が書けていないときには、どのような質問をすればいいのかすらわからない状態もあります。これではどれだけ有能なGhatGPTさんでも手助けは不可能でしょう。

もちろんそうした中で、自分がぶつかっている疑問を言語化しようとする試みは有用でしょうから、そこにチャットAIの出番はあるかもしれません。その役割なら現状のAIでも十分利用可能です。

あるいは将来的には、途中まで書いた文章を読み込ませて、その文章が抱えている問題を指摘してくれる、みたいなレベルまでいくのかもしれません。そこまでいけば、たしかにそのAIは知的生産を補助してくれるでしょう。

しかし現状のレベルでは、便利ではあるものの、もう一歩足りない部分が感じられます。適切に質問できる人だけがその恩恵を受けられるツールに留まっているのです。もちろんこれは新たなギャップを生み出してしまうでしょう。

■ ■ ■

ちなみに、上の「■ ■ ■」で間で囲まれた部分をChat-GPTさんに要約してもらいました。こたえは英語で返ってきましたが、実に見事な要約です。

The passage discusses the limitations of using GPT-based chat AI to help with writing. It explains that while the AI can be helpful in answering questions about language usage and word choice, it cannot replace the writer's own understanding and creativity.

The passage also suggests that current chat AI technology is not advanced enough to be able to understand the writer's goals and provide suggestions for improvement, and that this technology is only accessible to those who know how to ask the right questions. The passage concludes by noting that while the AI can be useful, it may also create new gaps in the writing process.

本当にすごい要約なのですが、不思議なことに「機械的知性」は感じられません。高性能なfunctionがあり、それがアウトプットしている、という印象に留まります。

たぶんその印象に欠落しているものこそが、知的生産において重要なのでしょう。

〜〜〜最近作っている2ツール〜〜〜

最近倉下が作っているツールの自慢です。

一つは「ListLauncher」で、これはTextbox内に保存されているmdファイルをシュッと呼び出せるツールになっています。opiton + spaceでウィンドウが開き、ファイル名を打ち込むと検索結果がサジェストされるので、それを選べばファイルの中身が右側に表示されます。

タスクリストなどの「リスト」は、シュッと閲覧できたらそれで十分だし、むしろそれ以外は邪魔だなと思って作りました。

◇Electronでリストランチャーアプリを作る - 倉下忠憲の発想工房

もう一つは、「inputbox」でこれはTextboxの一機能として作っていますが、将来的には「ListLauncher」のように独立したツールとして切り出すかもしれません。

◇inputboxの考察メモ - 倉下忠憲の発想工房

機能は簡易メモです。入力欄に記入し、ボタンを押せばそれが保存されます。基本的にそれだけ。よくあるメモツールと違い、入力欄と表示欄が分かれていて、Twitterとちょっと似ているのがポイントです。

ちなみに保存データはmdファイルではなく、jsonファイルを使っています。当初Textboxは「mdファイルしか使わない」という理念を持っていたのですが、今回ちょっと試してみたらすごく機能の幅が広がったので、このinputBoxはjsonファイルベースで作っていこうと思います。

それぞれのツール/機能については、また機会があれば詳しく紹介してみます。

〜〜〜Q〜〜〜

さて、今週のQ(キュー)です。正解のない単なる問いかけなので、頭のストレッチ代わりにでも考えてみてください。

Q. どんな作業をAIに手伝ってもらいたいですか?

では、メルマガ本編をスタートしましょう。本号も短めの記事を5つお送りします。

「アイデアは手広く構える」

前回は、アイデアを「育てる」行為がどんな方向性を持っているのかを確認しました。その中で出てきた、「作る」という行為──細部までコントロールするの──とは違った方向を持っている、という点がここでは重要となります。

今回はその点を掘り下げてみましょう。

■精緻に決めない、枠を固定しない

アイデアを育てるとき、それがどのようなものになるのかはわかりません。というか、それがわからないことを受け入れたとき、そこに宿るのが「アイデアを育てる」という意識です。

だから何かを着想したとして、それがどんな形に発展するのかはわからない、ということがアイデアを育てる前提となります。

となると、あらかじめいろいろ決めておくことには無理が生じるでしょう。たとえば大きな箱を用意して、ここにはアイデアAに関することを入れ、ここにはアイデアBに関することを入れるといった決めごとを持っておくと、とても「整理」された気持ちにはなりますが、アイデアを育てる行為とは相性がよくありません。

この点は、すでに梅棹忠夫も『知的生産の技術』で指摘しています。そこで梅棹は「分類」という表現を使っていますが、基本的には同じことです。「整理ができている」という感覚を味わうことが目的の整理、これを「整理のための整理」と呼ぶとすれば、そうした整理は、アイデアを育てる役には立ちません。そればかりか、アイデアを育てることを疎外することすら起きてしまいます。

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