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2021年の振り返り

Weekly R-style Magazine ~読む・書く・考えるの探求~ 2021/12/27 第585号

○「はじめに」

ポッドキャスト配信されております。

◇BC027 2021年を振り返る - ブックカタリスト

年末恒例の「一年の振り返り」です。今年一年で配信された回を二人でざっと振り返ってみました。バックナンバーへのリンク集にもなっていますので、よろしければお聴きください。

〜〜〜新刊情報〜〜〜

何もトラブルが起きていなければ、このメルマガが配信されている日に、以下の電子書籍が発売になっていると思います。

『ライフハックの道具箱 2021年版』(倉下忠憲 編著)

去年も発売した本の2021年版です。基本的には同じですが、新規コンテンツの追加および最新情報へのアップデートが行われています。ご興味あればご覧ください。Kindle Unlimited にも対応しています。

〜〜〜どちら側?〜〜〜

あるときから、「人はhogehogeが8割」のようなタイトルのビジネス書を見かけることが多くなりました。きっとすごく売れている本があり、その名前にあやかろうとしている本がたくさんあるのでしょう。

たしか最初は「8割」くらいだったのが、いつしか「9割」になり、最近では「10割」を見かけることも出てきました。インフレです。

もちろん、タイトルが「盛られる」のはよくあることなので、別段どうとも思わないのですが、それよりも気になるのがその割合はどちらなのか、という疑問です。

つまり、パレートの法則のレバレッジが効いている方なのか、そうでない方なのか、ということです。

たとえばあるお店の売り上げの8割は2割の商品が生み出している、というのがパレートの法則なわけですが、逆に言えば、8割の商品は2割の売り上げしか生み出せていないことになります。そう考えたときに、「人はhogehogeが8割」の8割は、利益構成の方なのか、商品構成の方なのかが気になるのです。

もし後者であれば、「人はhogehogeが8割」だけども、重要なのは残り2割の方ですね、みたいなことになりかねません。大惨事です。

もちろん、有益な情報を発信するのがこうした本の役割なのですから、利益構成の方だとは思うのですが、もしそうでなかったとしらひどい骨折り損になってしまいます。慎重に見極めたいところです。

〜〜〜最近の倉下のメソッド〜〜〜

ふと思いました。最近の自分のメソッドは、わりとオリジナルだな、と。

・DoMA(/注意オブジェクトモデル)
・Link-based Note Taking
・知営活動
・バザール執筆法
・文芸的タスク管理
・アイデアリコーリング

この中で唯一「Link-based Note Taking」だけが、まだパクリの域を出ない(というか、オリジナリティーの獲得に至っていない)のですが、それ以外はわりと「どの本にも書いていなかったこと」をやっています。

そう考えると、数年前までは知的生産の古典的なメソッドを現代風にアレンジしたものを「自分のメソッド」としていたわけで、どこからかそれが崩れ始めてきたのでしょう。守破離の「離」の段階にいるのかもしれません。

こういうのもまるっとまとめて本にしてみたいものですが、まだまだ道は遠そうです。

〜〜〜Q〜〜〜

さて、今週のQ(キュー)です。正解のない単なる問いかけなので脳のウォーミングアップ代わりにでも考えてみてください。

Q. 今年一年はどうでしたでしょうか。(目標ベースではなく)実績ベースで考えてみてください。

では、メルマガ本編を始めましょう。今回は、今年一年の倉下の仕事を振り返ります。

○「2021年の振り返り」

さて、今年一年を振り返りましょう。基本的には「仕事」を主題にして振り返っていきます。

いかにして振り返りを「起動」させるかは、以下の記事をご覧ください。実際に私が行ったものです。

◇一年の振り返りもノートからはじまる|倉下忠憲|note

記事にも書きましたが、今年のはじめに立てた「目標」だけを振り返りの対象にしないのが吉です。それだと見逃すものが数多く出てきます。なので、一年を終えようとしている今の自分が持つ「自分がやってきたこと」をベースに対象項目の洗い出しをやっておきましょう。

もちろん、今年のはじめに立てた「目標」を無視するわけでもありません。現時点からの振り返りと、目標の振り返り、その両方から迫っていくのです。

■3大項目

さて、振り返りたいのは基本的に「仕事」ですが、それとセットになってくるのが「健康」と「日常」です。健康でなければ仕事を回すことが難しくなりますし、その上私は「病み上がり」です。健康には十分な注意を払いたいところ。

加えて言えば、私の仕事は「毎日同じことを繰り返す」ことで成立しています。一年に何日か特別なことをやればよい、というものではありません。よって、日々をどう過ごすかも「仕事」には関係してきます。

よって、仕事・健康・日常の3項目を対象としましょう。

■キャッチコピー

ちなみに、今年の頭に立てた目標(というかキャッチコピー)は以下でした。

◇本を読み、本を作る一年 - 倉下忠憲の発想工房

このページはScrapboxでPin留めされており、折りに触れて私の目に入ることになりました。もちろん、「本を読み、本を作る一年」というキャッチーなフレーズは、このページを目にしなくてもときどき思い出されました。これはたいへんよかったと思います。何かしら難しい判断を迫られたとき、「いや、今年は"本を読み、本を作る一年"なんだから、この仕事は諦めよう」といったことが決められるようになったわけです。

ポイントは、これが人生のモットーではない、ということでしょう。あくまで「一年」という時限式の目標であって、「今年は諦めるけども、もしかしたら来年は」という余白のニュアンスがあります。逆に言えば、そのニュアンスがあるおかげで諦めやすいのです。

というわけで、おそらく来年も──何か思いつけば──このようなキャッチコピーを作ることでしょう(今、"一年のキャッチコピー"という装置の振り返りをしています)。具体的な数値目標でもなく、何か達成したいことでもなく、「このような一年にしたい」というやや漠然とした思いを、一行程度の文章で表すこと。これは有益なライフハックかもしれません。

■一年はどうだったか?その1

では、「本を読み、本を作る一年」はどの程度満たせたでしょうか。

まず、本を読む方ですが、冊数ベースはともかくとして、たしかに「本を読めた」一年だったと思います。

・本以外の文字メディア(ようするにWeb記事)の摂取を減らした
・毎日"課題図書"に取り組む時間を設けた
・気になる本をバンバン買った
・ブックカタリストをはじめた

以上の影響があるかと思います。とはいえ、もう一度言いますが冊数ベースで劇的に読了数が増えたわけではありません(数えていませんが)。むしろ、一冊の本を時間をかけて読めるようになった、というのが正確でしょう。

一時期は一冊読み終えたらすぐさま次の本を手に取って、それも読了したらさらに次の本、ということでチェーンスモーカーならぬチェーンリーダーみたいな読み方をしていましたが、やはりそれだと「頭に残る」率は著しく低くなってしまいます。入門書などでさらっと読みたい場合はそれでもよいのですが、いわゆる「知的生産」の一環として読み込む場合はそれではとても追いつきません。

必要なのは、「手間をかける」ことです。

そこで、本を読みながら気になったところでノートを書いたり、あるいはブックカタリストに向けて自分なりに内容を整理する行為が役立ちました。

前者は、たとえば本を読みながら感想をツイートしたり、あるいは作業記録に書いたりして読み進めていく行為で、これをやっていると読書のスピードが著しく減少するのですが、その分、箇所箇所について頭に残りやすくなる効果があります。

また、後者は本の内容を他の人にもわかるように説明するための準備が必要で、結果的にそれは「再読」を促します。面白い未読本が本棚にあふれ返っている状況において、「読んだ本を復習のためにもう一度読む」という行為の優先順位はなかなか上がらないものです。しかし、「ポッドキャストでやるから」というある種社会的な約束がもたらす強制力が、その優先順位が変えてくれるのです。読書会などの効能も似たようなものでしょう。

ともかくとして、「本を読む」ことに関しては、十分満足できる一年だったと言えそうです。読書メモなどの作り方は、今後さらなる検討が必要そうですが、それでも「ベースライン」は固まりつつあるように思えます。

唯一の心残りは、今年中に読了しようともくろんでいた『ゲーデル,エッシャー,バッハ: あるいは不思議の環』がせいぜい半分くらいまでしか読み切れなかったことです。たしか今年の6月頃に購入し、3ヶ月で読み切って、残りの3ヶ月で続編にあたる『メタマジック・ゲーム』を読もう、という野心を抱いていたのですが、結局その計画は頓挫しました。なにしろすばやく読み進めるのがもったいないくらいに面白いのです。来年にかけてじわじわと読み進めていきましょう。

■一年はどうだったか?その2

続いて後半の「本を作る一年」です。これについては「仕事」でもありますから、思うところはたくさんあります。

まず、不調で長らくろくに文章が書けていなかった状態から、とりあえずは文章が書ける状態になった嬉しさがありました。これは何ものにも変えがたい嬉しさで、それを再確認できたのが今年一番の「成果」なのかもしれません。ある種、原点とも言えるその"嬉しさ"を確認できたことで、私はどこか吹っ切れたようなところがありました。

世間一般の「こういう本は、このように書かれるべきだ」という期待に沿うのではなく、自分が「どう、これ、面白いでしょ」と思えるような本を書くこと。

究極的に言えば、私はこぢんまりと文章を書いて、それをブログなどにアップして、数十人の人に読んでもらえて、面白いと思ってもらえるならば、もうそれで十分満足なのです。だから、最悪の場合はそこに戻ってくればいい。だったら、せっかく本を書く仕事をさせてもらえているのだから、全力で──というよりも、自分が使える力と技のすべてを使って──本を書こう、という決意が静かに生まれました。器用に「合わせる」ことをしなくなったのです。
*業界的に「うまく」立ち回るのを諦めた、とも言えるかもしれません。

そういう想いをもって望んだ今年一年だったわけですが、具体的な成果物として世に出せたのは以下の3冊です。

・2021年7月『すべてはノートからはじまる あなたの人生をひらく記録術』
・2021年8月『かーそる 2021年7月号』
・2021年12月『ライフハックの道具箱 2021年版』

それぞれ(順不同で)みていきましょう。

■『かーそる 2021年7月号』

第3号からかなりの期間が空いてしまった『かーそる』の第四号が無事出版できました。遅れていたのは完全に私のせいなので、だいぶ肩の荷が下りた次第です。

とは言え、じゃあ第五号以降をどうしようかは、まだ具体的には見えていません。いまだにテーマを模索している状況です。他のプロジェクトの動きも視野に入れながら、今後の展開の検討が必要そうです。

ちなみに、もともと大勢の人に読まれることを期待している雑誌ではありませんが、この号はそこそこの「売り上げ」がありました。たぶんテーマが「ノート」だったからでしょう。テーマ設定は大切ですね。

(下につづく)

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