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記録と共に変化する その3 / バインダーノートとホイップ式ブログ / 二項対立の手前で考える

Weekly R-style Magazine ~読む・書く・考えるの探求~ 2023/08/14 第670号


はじめに

以前からたびたび紹介しているLISTENというポッドキャスト・プラットフォームにて、直接ポッドキャストを配信できるようになりました。

◇LISTEN、ポッドキャストを直接配信できるホスティング機能を開始|株式会社ONDのプレスリリース

これまでは別の配信サービスのRSSを登録していたのですが、以降はLISTENに音声ファイルをアップしてポッドキャストを配信する、という形態も選べるようになります。いよいよプラットフォーム感が出てきましたね。

今後のWebメディアにおいて、ポッドキャストの存在感がどうなっていくのかはぜんぜんわかりませんが、それでもこうした動きは歓迎できるものです。「人の言葉」の力って、存外に強いものですので。

〜〜〜純化するノウハウ〜〜〜

以下の記事に面白い指摘がありました。

◇「コンサル本」は成長へのマニュアルか ? | 集英社新書プラス

引用してみます。

>>
ビジネス書としての機能性を高めていけば、ドラマとしてのカタルシスや何らかの文化的な匂いは不要なものとして消滅するのが自然である、と言った方が正しいだろうか。
<<

この話は、 うちあわせCastでも何度か言及している「ノウハウ本」への指摘と重なる部分があるでしょう。記事では、ドラマやカタルシスといった「文化的な」なものがビジネス書から消えていく点が指摘されていますが、むしろ機能性を高めていけばいくほど、「ノウハウ」以外のすべての要素が抹消されていくのだ、とより広い視点で捉えられそうです。

キャッチーに言えば、「純化するノウハウ」。

あくまで根っこは「個人のノウハウ」に過ぎないものが、ノウハウ化・マニュアル化されることによって、脱文脈化が起こり、あたかも自分の人生でもまったく同じようにうまくいくのだ、という印象を与えてしまうのは、販売促進の点では効果があるのでしょうが、実際に役立つかどうかという点ではマイナスの影響がありそうです。

ここで二つの問題を提起できます。一つは、そうした純化されたノウハウに対してどのようなスタンスで接せばいいのか、というメタ・ノウハウ論。もう一つは、自分たちが提出するノウハウ本は、どのような匂いを含ませるのか(あるいは無味無臭で書くのか)というノウハウ執筆論。

たぶんこの二つはコインの裏表として論じるのが良さそうですが、かなり大きな風呂敷になりそうです。

〜〜〜『違国日記』〜〜〜

以前からタイトルは見かけていたものの、異国情緒溢れるファンタジーかなと勝手に思い込んで手を出していなかったのですが、たまたま手に取ってみたら本当に面白かったです。

◇違国日記(1) (FEEL COMICS swing) | ヤマシタトモコ | 女性マンガ | Kindleストア | Amazon

端的に言うと、家族の話であり生活の話です。ストーリーは、事故で両親を亡くした15歳の朝(あさ)を、その叔母(朝のお母さんの妹)が引き取る、というところから始まります。高代は小説家であり、一人の生活を好む不器用な人間。対して、朝は人見知りもなく素直な人間。この二人のコントラストが……

みたいな解説を始めると長くなるのでやめておきましょう。金田一蓮十郎さんの『ラララ』や、麻生海さんの『の、ような。』がお好みなら、本作品もぜひ手に取ってみてください。

さて、皆さんはいかがでしょうか。タイトルだけで「食わず嫌い」をしていたけども、実際読んでみたら(あるいは観てみたら)印象ががらりと変わった作品などはありますでしょうか。よければ倉下まで教えてください。

では、メルマガ本編をスタートしましょう。今回は三つのエッセイをお送りします。

記録と共に変化する その3

「記録と共に変化する」というテーマで連続的な記事を書いていきます。

最後となる第三回は「記録のノウハウ」です。

■記録のノウハウ

記録することが大切なのだとして、どんな風に記録すればいいのでしょうか。

もちろん、どんな風に記録するのも自由です。強い制約はそこにはありません。しかし、弱い制約、あるいはうまく機能させるための指針のようなものはあります。

まず最初の指針は、自分で書くことです。自分の手で記録すること。他人に記録を任せるのでもなく、コンピュータによる自動的な記録でもなく、自分が手を動かして記録すること。それが大切です。なぜでしょうか。

第一に、そうやって自分の手を動かすことで、頭が整理されるからです。情報を書き出すことそれ自体が、整理の効用を持ちます。コンピュータが自動的にソートしてくれても同様の効用は発揮されません。

第二に、書き出すことで注意が向けられるからです。人間の脳はおおむね無意識に情報を処理しているのですが、「明文化する」という作業を完全に無意識で行うのは不可能でしょう。書くことで、対象に注意が向きます。その上、書いたものは文字として残るので、それがよりいっそう注意を引きつけます(意識化してくれます)。

第三に、関心があることだけを残せるからです。手を動かして記録をつけるのはコストが大きく、どうでもいいようなことは書き残したくありません。逆に言えば、書き残したものは一定量自分の関心がその時点であったことを示します。一方で、自動的な記録だとそうした重みづけがまったくない無秩序な情報が残ってしまいます。

以上のような理由により、変化のための記録は、自分自身が書くことが大切になります。

ミッション・ステートメントでも、タスクリストでも、体重のグラフでも、アイデアメモでも、すべて同じです。とりあえず、自分の手を動かして書いてみる。もうそれだけで多少の効果は得られます。書いたものを二度と見返さなかったとしても、自分で書いてみたことには効果があるのです。

■書くタイミング

二つ目の指針は、書くタイミングについてです。これは既存のメソッドを分析すると見えてきます。

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