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『思考のエンジン』第七章「情報を俯瞰する装置 アウトライン・プロセッサーを使う」のまとめ

『思考のエンジン』第七章のまとめです。

この章には何が書かれているのか?

著者が実際に自分の書いたものをリ・ライティングしていく過程を通して、アウトライン・プロセッサーの使い方やその意義が確認される。

まず、アウトライン・プロセッサーは役立つツールだが誤解されている点が強調される。つまり先にアウトラインを作り、それに沿って書くための道具であると理解されるが、実はそうではなく、むしろ思いついたことをとりあえず書いてしまえ、というプロセス・ライティングを支援するためのツールである、と。

で、MOREというアウトライン・プロセッサーは「アイデア・プロセッサー」という呼称も提案していたが、それだって誤解を呼ぶと著者は指摘する。そもそも、「アイデアを思いつくために使っても効果的ではない」のだと。

項目をアウトライン上に並べ、なんとなく関係があるような気持ちで記述していくのではアイデアは加工されていないのである。どれだけ面白く美しい形で項目の構造が工夫できるかが、アイデア加工の妙味である。

アウトライン・プロセッサーでは項目が並べられる。で、そこに関係ありそうなことを並べてはいどうぞというのでは「加工」が足りていない。むしろ項目の構造を面白く、美しく見せる工夫を通してアイデアが加工されていく。そのような「プロセス」の意識を持って使う必要がある、ということだろう。

中盤以降は、グランド・ビューという実際のツールを使う例が出てくるのだがすこしややこしい。というのも、著者は、このツールを「アウトライン・プロセッサーではなく、複雑な電子仕掛けの情報を俯瞰する装置」と呼んでいる。ふつー、この流れだとアウトライン・プロセッサーの話が続くと予想するのだが、そうなっていない。

で、グランド・ビューに著者が書いた文章を読み込ませ──その裏で涙ぐましい努力が行われている──、その文章を再検討する具体的な思考の流れが開示される。ここが抜群に面白い。

手順はこうだ。まず、すでに書かれてある文章に見出しをつける。そのようにして、書かれた文章の構造を把握できるようにする。そして、詳細な中身を検討する前に、アウトラインだけを見てその文章の論理の「具合」を確かめる。

ここで検討されているのは、いわゆる見出し部分だけで実際の文章は一旦脇に置かれている。しかし、実際の文章を無視していいわけではない。著者は、「パラディグムとシンタグム」という概念を用いて、文章を構成している要素を二軸に分けた。前者が論理的構造で、後者が文章の流れだ。今回検討しているのは、概ね前者である。最終的にはその両方を検討するわけだが、まず先に構造だけを確認して、論理構造の不備を点検している。

しかし、実際の文章を確認しないでそんなことが可能なのだろうか。

著者は実際にそれを行っている。一番わかりやすいのが二項目の大項目を確認した部分だ。そこには項目が10項目あり、それは他の大項目と比べて明らかに数が多い。だから修正の余地がある。著者は判断している。

興味深いのは、ここではなんら「内容」についての検討が行われていない点だ。文章レベルの確認もなにもない。ただ「数が多い」というある意味で「見た目だけ」の判断が行われている。しかし、たしかにこの判断には有無を言わさぬ説得力がある。10項目は多過ぎる。

そんな感じで、アウトラインという「形」を見据えながら、どこにどんな修正を加えていくのかという予測を立てるのがこの段階で行われていることだ。もちろん、内容(というよりも議論の組み立て)に踏み込んだ検討もあり、形だけですべて決まっているわけではない点には注意が必要だろう。

本章において、一番面白い指摘が以下だ。

資料(データ)をつなぎあわせているのは、アウトラインよりも複雑な論理の連鎖である

しかしながら、うまくできた文章は、振り返ってみるとアウトラインとして単純な形式を備えていることが多い

ここにある種のダイナミズムを感じることができる。データをつなぎ合わせ一つのテーマ(主張)を構成しうるのは、アウトラインよりも複雑な論理の連鎖である。しかし、うまくできた文章は振り返ってみるとアウトラインとして単純な形式を備えていることが多い。

だから、先にアウトラインに当てはめるやり方ではうまくいかないが、一度書き上がった文章をアウトラインの形式で点検すると不備を見つけることができる。

つまり、先に使うと役に立たないが、後に使うと役に立つものがある、ということだ。

その差異を生み出すのが、執筆という「プロセス」で発生するものであり、それは一度複雑なうねりを組み上げて、その後それをシンプルに整え直したものがだけが持てる性質なのであろう。

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