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タイトルづけの苦戦、あるいは英雄の旅/まっぐすに読んでいけるように整える

Weekly R-style Magazine ~読む・書く・考えるの探求~ 2021/08/02 第564号

○「はじめに」

2021年7月23日発売した『すべてはノートからはじまる あなたの人生をひらく記録術』ですが、なんと発売一週間で重版が決定しました。

お〜〜〜〜、ぱちぱちぱちぱちぱち。

それもこれも皆様の応援のおかげです。本当にありがとうございます。

ちなみに、著者本人が一番驚いております。

〜〜〜感想〜〜〜

驚いたといえば、本の感想をTwitter上でたくさん頂いているのも驚きポイントです。

もちろん、これまでの本でも感想はいただけていたのですが、今回は見ず知らず(というのもちょっと変ですが)の人からの感想がすごく多いのです。私が告知できる範囲よりも広く、この本が周知されているのでしょう。ありがたいものです。

こういう出来事に出くわすたびに、インターネットのすごさを実感します。もちろん、その力は使い方次第で良くなったり、悪くなったりすることを忘れないようにすることも大切でしょう。

〜〜〜物書きとしての実感〜〜〜

上に書いたように、暇を見つけてはTwitterでエゴサーチ(書名で検索)をしているのですが、そうして発見する感想を読んでいると、「ああ、自分は物書きの仕事をしているのだな」という実感がじわじわ湧いてきます。

言ってみれば、普段は家に一人っきりで、パソコンに向かってコツコツ文章を書いているだけです。文字数が増える喜びや、編集者さんからのコメント返信などのフィードバックはありますが、それは「文章を書いたこと」に対するフィードバックであって、「本を書いたこと」のフィードバックではないわけです。

そして、物書きとは本を書く仕事のことです。もちろん他にもいろいろ仕事はありますが、メインストリームは間違いなく本を書くことです。そして「本を書くこと」とは、本一冊分の原稿を書き上げること、ではなく、その本を通して何かを伝えることだと私は捉えています。だから、自分が「ああ、本を書いたのだな」と実感が得られるフィードバックはたいへん嬉しいのです。

一つのイメージとして、立派なプロはそのようなフィードバックなどとは無関係に孤高に仕事をやり遂げるべきだ、みたいな価値観もあるのかもしれませんが、私はそこまで強い人間ではないので、皆様からの感想を糧に仕事を続けていきたいと思います。

〜〜〜ポッドキャスト〜〜〜

ポッドキャストが配信されております。

◇第七十六回:Tak.さんと『すべてはノートからはじまる』について by うちあわせCast | A podcast on Anchor

◇BC017『すべてはノートからはじまる あなたの人生をひらく記録術』 - by 倉下忠憲@rashita2 - ブックカタリスト

二つとも新刊についてのお話となりました。

ブックカタリストは普段「自分が読んだ本」について語っているのですが、今回は特別回として「自分が書いた本」について語りました。今後は、新刊を発売された著者さんをお招きして同様の特別回を行っていけたらな、と考えております。

〜〜〜書籍購入の我慢〜〜〜

世の中、自分に我慢を課す対象はいろいろあります。禁酒や禁煙、あるいは禁高カロリー食などが一般的でしょうか。

そういうのはなかなか我慢が難しいのですが(我慢が難しい対象だから、我慢が必要とされているわけです)、それと同種の難しさがあるのが「本を買うこと」です。今月はちょっと本を買い過ぎているから月末までは買わないようにしよう、などと決意しても、気がついたら本をバシバシ買っちゃっていることが少なくありません。

なにせ面白い本は毎月のように次々発売されますし、その感想や書評などもバンバンタイムラインに上がってきます。それらを目にして買わないなんて判断ができるだろうか、いや断じて不可能である──というほど大げさなものではありませんが、それでも抑え難い気持ちがむくむくと湧き上がってくることはたしかです。

私は今は執筆業をしていて、書籍の購入費用は経費扱いにできるので、あまり気にせずに購入できている状態ではありますが、それでも限度というものはあります。だから、ある程度は「むくむく」と付き合っていく必要があるのでしょう。

ちなみに、その際のポイントは必要以上に抑え込もうとしないことです。そうしてしまうと、余計に欲求が強くなる、というのが個人的な体験から学んだことです。

〜〜〜Q〜〜〜

さて、今週のQ(キュー)です。正解のない単なる問いかけなので、頭のウォーミングアップ代わりにでも考えてみてください。

Q. 何かを我慢するための「施策」はお持ちでしょうか。

では、メルマガ本編をはじめましょう。8月は「新刊の執筆について」をテーマにお送りします。執筆時の裏話や、何をどう考えて書いていたのかを振り返りもかねてまとめておきます。

ちなみに、直前まで今月のテーマは「現代における知的生産の技術をどう語るか」をテーマにしようと考えていたのですが、うちあわせCastで『すべてはノートからはじまる』が倉下なりの『知的生産の技術』だったのではないか、という指摘を頂き、論考そのものの前提が大きく変わってしまった印象があるので、一ヶ月先送りしました。もう一回そのことを考えてから、改めて書いてみようと思います。

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○「タイトルづけの苦戦、あるいは英雄の旅」

るうさん(@ruu_embo)より、『すべてはノートからはじまる あなたの人生をひらく記録術』のタイトル案の変遷を読みたい、というコメントを頂いたので、それについて書いてみます。

ちなみに、こうしてコメントいただけるとそれが企画として採用されることがありますので(確実に、とは言えませんが)よろしければ、#WRM感想 のハッシュタグやメールなどでお寄せください。

では本編をどうぞ。

■自分の名づけの傾向

基本的にタイトルづけの作業は好きです。言葉遊びをしょっちゅうやっているので得意でもあります。ただし、これまでの商業出版では意見を求められることはあっても、基本的には編集者(&出版社)からの提案があり、私がそれを確認してOKを出す、というやり方で進めていました。つまり、アイデアの関与の度合いはかなり低い、ということです。

一方で、自分で自分の本を作るセルフパブリッシングでは──誰かが考えてくれるわけではないので──自分で考えることになります。ちょっと見てみましょうか。

・ライフハックの道具箱 2020年版
・Evernote豆技50選 (Espresso Books)
・ドラッカーに学ぶブログ・マネジメント
・BizArts: 仕事を前に進める23の技術
・タスク管理の用語集: BizArts 2nd
・BlogArts: 書評記事の書き方
・「本」を読むことについて
・コンビニ店長のオシゴト: 〜個性的なお店の作り方〜
・「目標」の研究
・知的生産とその技術 Classic10選
・ブログを10年続けて、僕が考えたこと
・真ん中の歩き方 R-style Selection
・マシュマロを、もう一つ: セルフ・マネジメントのヒント集 R-style Selection 2
・赤魔導師の白魔法レベルぐらいまでは WRM エッセイ集
・まるで未来からやってきたかのような WRM エッセイ集
・遠くて近い場所、近くて遠い場所 WRM エッセイ集
・ゼロから始めるセルパブ戦略: ニッチ・ロングセール・オルタナティブ (セルパブ実用書部会)
・これから本を書く人への手紙
・Fount of Word -α-
・Category Allegory
・The Last Blogger
・Dr.Hack (Lifehack Lightnovel)
・書籍の解体とフラグメント・コンテンツ、氾濫するアメーバ・センテンスや、クリエイターのアイデンティティーと過ぎ去りし書店員の憂鬱、およびキュレーションの価値とホット化したメディアについての詩

自分なりに傾向を分析してみると、ほとんど事務的なまでに直球なタイトル(ex.Evernote豆技50選)と、雰囲気を匂わせて「これってなんだろう」と思わせるようなタイトル(ex.マシュマロを、もう一つ)と、あとはその中間くらいのタイトル(ex.ブログを10年続けて、僕が考えたこと)が多いようです。

個人的に好きなのは、二つ目の匂わせるようなタイトルなのですが、販売戦略からいってリスキーなタイトルでもあります。匂わせるだけだと、まったく見向きもしてもらえない可能性があるからです。現代の書籍新刊コーナーを覗いてみれば、もっとダイレクトに、もっとキャッチーに、もっとインパクトあるタイトルが並んでいることがわかるでしょう。

本は、一冊だけで販売されるわけではなく、さまざまな本と一緒に並べられて販売されるわけですから、訴えかける要素が何もなければ勝負の土俵にすら上がれません。

そこで、キャッチーなタイトルをつけることが要求されるわけですが、上のリストを眺めればわかるように私はあまり「キャッチー」なタイトルをつけるのが得意ではありません。別の言い方をすれば、そうした名づけに苦手意識があるので、十分にその引き出し(知識のパターン)が育っていないのです。

とは言え、仕事です。自分が書いた本を、できるだけ広く手に取ってもらうためには頑張って名づけをしなければなりません。しかし、何でもよいわけではなく、間違った場所には届かないように気をつける必要もあります。

実に難業です。

■タイトルづけのプロセスを振り返る

『すべてはノートからはじまる あなたの人生をひらく記録術』の名づけは、2021年の4月20日からスタートしました。実際は、その数日前から一人ブレストを行い、ブレストの成果物から「良さそうなもの」を編集者さんにメールで投げたのが4月20日でした。
*ちなみにこの段階で初稿の手前の段階まで原稿は書き上がっていました。

そのメールで取り上げた案は以下のようなものです。

・ノートと未来のつくり方
・ノートからはじめる 今から未来をつくる
・ノート的生活 普段づかいの知の技法
・瞬間と未来をつなぐ これからのノート論
・自律と逸脱 未来をつくるノートの使い方
・つくりえぬものをつくる 生きる技法としてのノート
・ノートと探求 望む未来を超えていく

今自分で読み返しても、いかにも自分が考えそうなタイトルです。ただし、この段階で一つに絞り切れずに複数の案を編集者さんに投げていることからも、「これだ!」と思えるようなタイトルが見つかっていないことがわかります。

編集者さんもその辺を汲んで、それぞれのタイトル案にコメントをくださりました。そして、上記以外のアイデアも提案いただけました。それを踏まえて、もう一度考えることになったのですが、もちろんそれがダイダロスの迷宮の入り口でした。

■方向性を意識して

タイトルを思いつくこと自体は難しくありません。いわゆる「発想法」をバンバン駆使すれば、いくらでも案自体は思いつきます。しかし、それらの発想は基本的には無軌道なものであり、どんなものが出てくるかはまったくわかりません。つまり、求めている方向性に沿ったアイデアが出てくるとは限らないのです。

そこで、アイデア発想法に入る前に、まず方向性を検討しました。この本は実に多様な話を含んでいるので、そのうちのどこに焦点を合わせるのかを考えたのです。もちろん、すぐに結論は出ません。こうかな、ああかな、と検討をつけ、それに合わせたタイトルを考えて、「いや、そうじゃないな」を繰り返しました。

そうしてできたいくつかの案を、手書きでまとめてみました。以下のページに画像をアップしてあります。

◇枠を作ってタイトル案を考える - ノートのノート

さらに、この案についての自分の考えを文章に書き、編集者さんにメールで共有しました。ひとりで考えていても埒が明かないので、検討内容も含めて編集者さんに伝えたわけです。

長くなりますが、そのメールの中身を一部引用してみましょう。

■メールの中身

その1.

まず「自律」(ないしは自律的)というキーワードを思いつきました。タスク管理など、自分で自分のことを管理するイメージと、情報の濁流から身を守って自分の領域を作る、というニュアンスが含められています。

ストレートに採用すれば「自律的に生きるためのノート」などになるでしょうか。後半の章で、「自分のため」のものが他人にも役立つ、という話をしているので「自律を超える」や「自律とそこからの逸脱」「自律的思考とその変容」のように、その後を匂わせる要素を付け加えてもよいかなと思いました。

その2.

本書の全体として「書くこと」が出てくるので、「書くことからはじめる」「書けばはじまる」「ノートからはじめよう」などもありそうですが、若干「かすっている」感じがするのと、タイトルとしての弱さはどうしても感じます。

どうせなら「すべてはノートからはじめる」や、いっそ「すべてはノートである」くらいの強調があってもいいかなと思いました。

その3.

遊び感のあるタイトルとしては、「巨人の肩に乗る方法」「あくまで脳の仕事です 〜脳とノートの相補的なダンス」「世界に贈与をバラまく」といったものを思いつきました。内容がわかりにくい感じ(読み手の疑問符を誘う)のタイトルです。

面白いのですが、ハズしてしまう可能性もあるかな、という心配があります。

その4.

ノートが、人類が手にした原初のテクノロジーであり、それが現代まで脈々と続いている、ということを打ち出して、「もっともラディカルなテクノロジー」「脳を拡張する身近なテクノロジー」「人類最高のテクノロジーを使い倒す」というったサブタイトル的なものも思いつきました。「ラディカル」は「ファンダメンタル」や「ルート」でもいいのですが、一番キャッチーなのが「ラディカル」だとも思います。

これはノンフィクション系のタイトルに寄せる感じになるかと思います。

その5.

「ノートの技法」というストレートなタイトルが、ある意味一番本書の内容を包括しているかな、とも感じます。そこに、キャッチーなサブタイトルを組み合わせるといい感じになるかもしれない、という思いがあります。

「これからの時代のノートの技法」や「シン・ノートの技法」や「うまく考えるためのノートの技法」のように、上に何かを付けると「部分的な話」に感じられてしまうので、シンプルに「ノートの技法」として、サブタイトルでニュアンスを付与する、といったイメージです。

その6.

岩波新書風に「ノートとは何か?」もかなり直球感があります。「私たちはなぜノートを使うのか?」とすると、人類史的雰囲気が付与されますし、「いかにしてノートを使うのか?」にするともうちょっとノウハウっぽい印象も出てきます。

その7.

「万脳」という造語を思いつきました。「万脳のノート」といった使い方をします。脳に関係すること、しかし単なる脳ではないこと、「万能」に関係するであろうことを匂わせる言葉です。

若干、言葉遊びの領域を抜け出られていないかもしれません。

まとめ.

以上、ぜんぜんまとまっていないのですが、自分で考えていても永久にまとまりそうにないので、感じていること・考えていることをそのままつらつらと書いてみました(これもノートの効用ですね)。

これまで考えてきたことをいくつか組み合わせると、

・「ノートの技法 思考と経験を力にかえる考え方」
・「ノートの技法 もっともラディカルなテクノロジー」
・「ノートとは何か? 書くことによる自律と逸脱」
・エトセトラ
・エトセトラ

あたりが作れそうです。

---以上メールの引用終わり---

(下につづく)

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