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情報ベースと思考ベース / 間違える脳、間違えられる環境 / 著者への貢献 / 理想を現実化しない

Weekly R-style Magazine ~読む・書く・考えるの探求~ 2023/08/28 第672号


はじめに

Kindleで新しいセールがスタートしており、拙著が二冊対象に選ばれております。

◇「Kindle本ビジネス書キャンペーン」に拙著二冊が選ばれました|倉下忠憲

つい先日も似たようなラインナップだったな〜と思うわけですが、まったく無視されるよりはこうしてピックアップしていただける方が嬉しいのは間違いありません。

9月7日までですので、よろしければぜひ。

〜〜〜ポッドキャスト〜〜〜

ポッドキャスト、配信されております

◇第百三十二回:Tak.さんと情報整理ツールについて 作成者:うちあわせCast

今回は「情報整理ツール」についてお話しました。関連する内容を本号の記事でも書いておりますので合わせてお読みください。

〜〜〜Evernoteの方向性〜〜〜

Evernoteブログが更新されておりました。

◇長期的な未来を見据えた Evernote の基盤強化 | Evernote 日本語版ブログ

「ノートの保存」というコアの部分の改修が終わり、よりスムーズに使っていけるようになったと発表されています。目立つ改善ではありませんが、使い勝手に大きな影響を与えるアップデートだと思います。こういう改修を少しずつ続けてくれるならば、ノートツールとしての信頼度もきっと高まっていくでしょう。

それと並行して、「ワークチャット」という機能が削減されることも決まったようです。

◇ワークチャットが終了します – Evernote ヘルプ&参考情報

https://help.evernote.com/hc/ja/articles/18150451465107-ワークチャットが終了します

はっきりいって、すでに実装されている機能を削減するのは経営的には難しい判断でしょう。たとえほとんど使われていなくても、そのまま置いておけば誰からも文句を入れることはありません。そんなことは誰でもが思いつく判断です。それを踏まえた上で、機能の削減に踏み切ったということは、大きな展望が背後に控えているからだと推測します。

上記の二つの動きを見ていても、Evernoteは「ノートツール」という本来的な姿に回帰しようとしているのだと思います。いまさらNotionに追いつけ追い越せとやっていても意味がありません。コストがかかるだけでなく、ツールの体験自体も損ねてしまうでしょう。

Evernoteならではの価値。

そこに焦点をあててもらえるならば、もうしばらくはEvernoteとつき合っていこうと思えます。

〜〜〜iPadとの距離〜〜〜

居間というか食事をするテーブルのそばにiPadがいつも置かれています。で、食事が終わったらiPadを手に取って、SNSをチェックしたり、YouTubeをチェックしたりします。実に快適です。

でも、その快適さのおかげで、本を手に取る時間がずいぶん削られているなと最近感じていました。だから本を読もうと思いを新たにするのですが、結局YouTubeを見ています。意志の力など、そんなものです。

というわけで、行動経済学の知見を活かして(おおげさ)、iPadを棚の上の方に置くようにしました。座っている方向からすると、後方の高所になります。つまり、目に入りません。でもって、手に取るためには、一度立ち上がる必要があります。

たったそれだけのことで、YouTubeを視聴する時間が激減しました。そりゃそうなんです。だってそこまでYouTubeに見たい動画があるわけではありません。単に惰性で見ていただけです。でも、その惰性を止めるのが意志では難しいのです。

その代わり、身体的な感覚──手に取るのがちょっと面倒──に変化を加えることで、実質的に惰性を変えることに成功しました。

当たり前ですが、このような状況を無理に普遍化して「iPadと距離を置けば読書がすすむ」とノウハウにしてしまうのはよろしくありません。なぜなら、まず私がそこまでYouTubeを見たいとは思っていないことと、次にできれば読書の時間を取り戻そうと思っているからです。この二つの背景を抜きにして、iPadの置き場所を変えても記述したような変化は訪れないでしょう。

最近「助動」という概念をよく使っていますが、こうした小さな工夫には「自分が動きたいと思っている方向」にアシストする力しかありません。でもって、それで十分なのです。

皆さんはいかがでしょうか。最近行った「小さな工夫」は何かおありでしょうか。もしあればぜひ倉下まで教えてください。

では、メルマガ本編をスタートしましょう。今回は4つのエッセイをお送りします。

情報ベースと思考ベース

最近、Workflowyの新しい使い方を研究しています。

◇incシステム - 倉下忠憲の発想工房

この「incシステム」をトライアルしているときに気がつきました。こうした情報ツール、つまりデジタルノートやアウトライナーの運用においては情報ベースと思考ベースの二つのパターンがあるな、と。

情報ベースとは、情報を扱うことを主とする運用です。といっても、「情報ツール」を使っているのですから、「情報ベース」になるのは当然ではないかと思われるかもしれません。ここには注意が必要でしょう。

「情報ツール」というときの情報は、物質的でないものを扱う、という意味での情報です。つまり広義の情報を指しています。

一方で、情報ベースというときの情報は、「自分の情報」という限定的な対象を指しています。自分が扱う、資料やリストやメモの総体を指して「情報」と呼んでいるわけです。

ややこしいですね。

かといって、前者をデータベース、後者をナレッジベースと呼んでもしっくり来ません。むしろ別の印象にスライドしてしまっている感があります。

というわけで、ややこしいのは承知の上で、「(狭義の)情報ベース」というもってまわった表現を仮置きしておきましょう。で、この「(狭義の)情報ベース」は、将来的に必要になりそうな情報を保存しておき、後からそれをとり出して使うことが一番の目的になります。

対する思考ベースでは、思考することが主となります。考えることがメインであって、情報を取り出すことはそこまで大きなファクターを占めていません。もちろん、考えるためには過去の情報が参照できた方が嬉しいので、情報ベース的な要素はあるのですが、大きな機軸にはなっていません。そういう分け方です。

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