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2024年の目標設定

Weekly R-style Magazine ~読む・書く・考えるの探求~ 2024/01/01 第690号


はじめに

新年です。諸々の事情で「おめでとうございます」とは言わないのが作法らしいのですが(喪中)、それはそれとして、無事新しい年を迎えられたのは嬉しいことです。そこは喜んでも問題ないでしょう。

というわけで、今年一年もぼちぼちと配信を続けてまいりますので、よろしくお願いいたします。

〜〜〜『ライフハックの道具箱2023』〜〜〜

毎年恒例の一冊が完成しました。というか、去年にもう発売されております。

◇Amazon.co.jp: ライフハックの道具箱2023 eBook : 倉下忠憲, PADAone, ゆうびんや, こなゆき, Tak., Go Fujita, タカヒロト, 大橋悦夫: Kindleストア

執筆陣の顔ぶれは変わらずで、新しい原稿がいくつか追加されております。情報も最新版にアップデートしました。もし、ライフハック・デジタル仕事術・PKM的なものに興味があるけども、どんなツールがあるのかはよくわかっていない、という方がいらっしゃったら本書をチェックしてみてください。いろいろキャッチアップできるかと思います。

あと、単にツールや技術紹介の本として読んでいても面白いです。いろいろな人が、いろいろな角度からツールについて語っているのをまとめて読めるのは、雑誌の元気がなくなっている現代では希少になりつつある体験だと思います。

それはそれとして、年末のこの本作りがちょっとした「祭り」のような感じになってきました。なかなか楽しいイベントです。今後も、続けていきたいと思います。

〜〜〜既知との遭遇〜〜〜

Scrapboxを作っていると、リンクを作ることになります。で、「ああ、この言葉は大切そうだからリンクにしておこう」と操作するときに、脳は明確に未来を予想しています。この言葉ははじめてリンクにするから、つまりはオレンジ色のリンクになるだろう、と。

しかし、私の脳はすっかり忘れているのです。あるいは、意識が記憶を十分に取り出せていないのかもしれません。ともかく、予想の中ではオレンジ色だったリンクが、実際には青色になることがあります。つまり、過去の私がその文字列を一度以上リンクにしているのです。

そのときの驚きは、数年Scrapboxを使っていても色あせることがありません。というか、ごくたまにしか起こらないから、脳が慣れることがないのでしょう。

ともかく「驚き」は重要です。対象に注意を向けようというサインとして働くからです。実際に、そうやって遭遇した既知の情報は、高確率で読み返すことになります。「読み返そう」という訓練的な命題ではなく、なんとなく気になって、ついつい読み返してしまうのです。

そういうプチ驚きに駆動されて、過去のノートを読み返す経験が起こるのは、Scrapboxならではでしょう。リンクをつなげられるツールはたくさんありますが、二種類の色によって区別されるリンクを持つツールは非常に稀です。

そういう意味でも、「リンクをつなげる」という経験をしてみたいなら、準備の容易さも含めてScrapboxがお勧めです。これはもう、間違いなくお勧めです。

〜〜〜考えたい欲〜〜〜

自分のことを振り返ってみると、あまり知識欲がありません。だから「ナレッジマネジメント」というコンセプトもそこまで心を惹かれることがありません。

ではどんな欲を持っているのかと言えば、「うまく考えられるようになりたい」という欲です。あるいは、「考える」という行為が好きで、だからこそ「どうせ考えるなら、少しでもうまく考えられるようになりたい」という構造になっているのかもしれません。

ともかく、「考えたい」という欲求が自分の中では基底に近い場所に位置していると感じます。

それをさらに敷延すると、どうも私は「オブジェクト」そのものに興味を持つことが少ないようです。それよりも、関係性や作用といったものに興味を覚えます。たとえば、立派な建物があったとしても、その建物自身よりは「そんなすごい建物がどうやって建てられたのだろうか」ということに興味を持つのです。

で、そういう風に自分の興味の持ち方について理解が深まると、ノートツールの使い方など全般的な情報ツールの使い方についても新しい考え方が導入できそうな気がしてきます。こういうのも、セルフスタディーズの一環なのでしょう。

〜〜〜ログとロギング〜〜〜

Scrapboxを使っていたら、たまたま以下のページを目にしました(そういうことがScrapboxではよく起きます)。

◇ログに対する問題提起 - タスク管理のScrapbox

3年前のページなのですが、この段階ですでに「ログではなくロギング」つまり、ログを残していくという行為そのものの重要性を指摘しているのは興味深いものです。まさにそれは『ロギング仕事術』という本の中心的なコンセプトであり、その本を書いていたときは、このページの存在などまったく頭になかったからです。

つまり、このページに書いたことは「情報/素材」として参照したわけではないが、しかしここで自分の考えを書き表したからこそ自分の考えを整理することができた、という構造になっています。まさに、ログではなくロギング。

一方で、素材として直接利用することはありませんでしたが、今回のように過去に書いたページを読み返し、そういうことを考えていた、という事実を回想できています。これは間違いなくログの効果です。

だからやはり、二つの効能があると考えるのがよいのでしょう。その両方に注目すれば「書き残す」という行為ともっと豊かに付き合えるようになると想像します。

〜〜〜面白い本を教えてくれよ〜〜〜

「現代は本が読まれない/売れない」という状況があるにしても、「面白い本を教えてくれよ」というニーズがきっとあるんじゃないかと思います。つまり、本を読むことの重要性は説かれていても、どの本が面白いのかがあまり伝えられていないのではないか、という懸念です。

実際、テレビCMを見ていても書籍(特に文学)のコマーシャルを見かけることはありません。最近の若者は新聞を読んだり、その下についている広告を目にすることも稀でしょう。そんな環境で、どうやって「読む本」の存在を知るのでしょうか。それこそ、周りの大人の誰かが本を手に取っている(あるいは家に本棚がある)場合でないと、そもそもこの世の中にどんな本があるのか、ということすら知りえないのではないでしょうか。

媒体(メディア)として見た場合の「書店」はまさにその役割を担うものですが、すべての書店がその役割を担えているわけもなく、そもそも書店の絶対数も減少中です。本についての情報不足、もっと言えば若い読み手に届く情報の不足があるのではないでしょうか。

だからこそ、「読書好き芸人」などの企画で取り上げられた本が売れたり、Tiktokで紹介された本が売れたり、ということが起こるのでしょう。それらは「インフルエンス」(つまり一時的な流行)として、本好きの人からは嫌悪されている現象かもしれませんが、第一に古い時代ですらそういう流行で本を売れたことは普通にあってそうした売り上げにより出版文化が続いてきたことがあり、第二にそうした「インフルエンス」をバカにするならば、その代わりに若者に面白い本の情報を伝えることを当人がやっているのかをまず反省した方がいい、ということは言えそうです。

その意味で、『バーナード嬢曰く。』のような軽いタッチで面白い本を紹介する漫画はすばらしいですし、ラジオ/ポッドキャスト番組「BOOK READING CLUB」のようなガッツリと文芸・書籍を紹介する番組もとても面白いと思います。

たとえば、今の日本で普通に生活していて「レベッカ・ソルニット」の名前に触れる機会などほとんどないでしょう。で、存在を知らなければ、読もうかどうかの判断すらできません。読書好きの人(あるいは権威主義が大好きな人)にしたら、「著名な作品、古典的な作品など知っていて当然」という感じかもしれませんが、これは"悪いオタク"が新参者を遠ざけるのとまったく同じ態度です。

本当に単刀直入な話ですが、面白い本があったらそれを紹介する。しかもあまりマスでは紹介されない、あるいは古くて話題に上らない本ほど、個人が積極的に紹介したほうがいいのではないか、とそんなことを考えています。

皆さんはいかがでしょうか。本の情報をどのような媒体から仕入れられていますか。積極的にそれを自分から探そうとしているでしょうか。よろしければ倉下までお寄せください。

では、メルマガ本編をスタートしましょう。新年の一発目は「今年の目標」について書いてみます。

2024年の目標設定

さて、2024年の目標設定についてです。

今年は何をしていくのか。

それについて考えていきましょう。

■目標について

まず、そもそも論からはじめます。「目標」とは何でしょうか。『精選版 日本国語大辞典』によると以下のようにあります。

>>
ある物事をなし遂げたり、ある地点まで行きついたりするための目印。めあて。
<<

とてもシンプルな意味ですね。それを設けておけば、たどり着きたい場所までのアシストになってくれるもの。所詮はそれだけのことです。

しかし、いわゆる自己啓発界隈(あるいはそれを要請する社会構造)はこの意味を特定の方向に大きくゆがめています。つまり、「その通りに達成されなければならないもの」という基準、あるいはそれを越えた規範として扱っているのです。

そうした規範が人を苦しめてしまうことが、往々にして起こります。社会の中でも起きていますし、それと同じことがフラクタルに個人の心でも起きています。

だから──自己啓発の話題が嫌いな人は特に──"計画"や"目標"という言葉を避ける傾向にあります。私もそうです。こうした言葉を使ってしまうと、忌み嫌われている概念として受容されてしまい、自分が伝えようとしていることとズレてしまう可能性が高いからです。

たとえば私も、「一年のキャッチコピー」という言い方で、"計画"や"目標"とは違ったニュアンスを持たせた技法を設定しています。

◇一年にキャッチコピーを設定する - 倉下忠憲の発想工房

これはこれで有効な戦略だと思います。それくらい「どんな言葉で表現するのか」は強い効果を持っているのです。

とは言え、です。

上記のように「一年のキャッチコピー」を設けることも、大きくくくれば「この一年はこういう年にしたい」という思いを表現したものであり、目標の設定に他なりません。あるいは、"設定"というよりも"発表"が近いでしょうか。自分の心にあるものを、端的な形で表出した言説です。

簡単にいえば、未来方向への想い(ビジョン)を一度言葉にしておくこと。

目標設定の意義はそこにあります。自分がどんな想い(あるいは欲望)を持っているのかを確認し、それを表現すること。その上で、それをより適切な形に修正(再表現)したり、一年経った後に確認するための装置。その役割が「目標」の意義です。

だから、目標を立てたからといってそれが達成される保証はどこにもありません。単に「こういう風になって欲しい」という想いを語ったものだからです(思考が現実化するパラダイムだと、この見方には立てません)。そうなると、目標が達成されなくてもなんら問題はないことになります。達成されるべきものならば未達成は問題ですが、達成されるべきものでないならば、未達成は平常だからです。

ようは"目標"や"計画"というのが問題を引き起こすのは、それが硬く運用されている場合であって、緩く運営されているならば、単に目印(マーキング)くらいの意味しかないのです。でもって、”キャッチコピー”などの表現を使うのは既存の表現との差異を設け、そこにある緩さ(柔らかさ)を強調するためだと言えるでしょう。

一方で、最近私は思うようになりました。はじめから柔らかいものを準備しておいて、柔らかいものだと認識してもらうよりも、本来硬いと思われているものが実は柔らかいんだと示すことの方が、思想的にインパクトが大きいのではないか、と。

実際、『ロギング仕事術』で一度書いたタスクを修正する方法を紹介しましたが、驚かれた方がいらっしゃったようです。一度タスクを書いたら、それを書き換えるのはご法度であるという認識があり、それがひっくり返されたからでしょう。そういう転覆こそが仕事として大きいような気がします。

だから今回は「目標」という言葉を、あえて記事のタイトルに使ってみました。

別に、皆さんが自分の領域において使う言葉は何だって構いません。目標ではなく、抱負や展望、目論見や算段、希望やウィッシュ、なんだって可能です。自分のフィーリングにフィットするものを選べばよいでしょう。なんであれ、「未来方向に向けた、自分の思い」を緩く表現できる──つまり、それを達成できなくても自罰的な心理が生じない──言葉であればOKです。

達成できなくてもいい。途中で変わってもいい。でも、現時点で自分はこう考えている、という思い。それを言葉にしておきましょう。その際は、「〜〜する」というよりも「〜〜したい」という実感に近い表現にしておくことをお勧めします。

■倉下の2024年

回り道はこのくらいにして本論に入りましょう。倉下の2024年の目標です。

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