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『ライフハックの道具箱』について/セッション・ライティング/定期連絡の効用

Weekly R-style Magazine ~読む・書く・考えるの探求~ 2021/02/01 第538号

○「はじめに」

ポッドキャストが三つ(+α)配信されております。

◇第五十八回:Tak.さんとアウトライナーと思考法について by うちあわせCast | A podcast on Anchor

◇ブックカタリスト004 アフターショー - ブックカタリスト

◇音声015:倉下忠憲さんと「2021年のWebクリップ」について話す(1/3) - シゴタノ!記録部

◇音声016:倉下忠憲さんと「2021年のWebクリップ」について話す(2/3) - シゴタノ!記録部

◇音声017:倉下忠憲さんと「2021年のWebクリップ」について話す(3/3) - シゴタノ!記録部

うちあわせCastは思考法について、ブックカタリストは本を読むことについて面白い話が含まれていると思います。

シゴタノ!記録部(シゴタノラジオ)では、はじめて大橋さんの番組にお邪魔しました。音声メディアにおけるメモの有用性というところから、さまざまに話題が広がっております。

よろしければ、お聴きください。

〜〜〜ポッドキャストの感想〜〜〜

最近たくさんのポッドキャストを配信しています。でもって、ちょくちょく番組のハッシュタグでTwitterを検索しています。すると、ハッシュタグ付きで感想をつぶやいてくださっている方が見つかります。ありがたいことです。

そうした感想の中には、「番組を聞いて、いろいろ自分なりの考えた膨らんだ」という旨のものがあり、たいへん嬉しく思っています。

なにせ、私は(実利に直に結びつく)有益な情報を提供することも、成功するための方法を伝授することもできません。しかし、何かを考えるための素材は提供できますし、そうして考えることの楽しさを──話すことを通して──実演することもできます。

そうした行為にどれくらいの価値が宿るのかはわかりませんが、自分ができる(そしてやってみてもいいと思える)ことの一つだとは思います。

〜〜〜喋るカロリー〜〜〜

先週、火・水・木曜日と三日連続でポッドキャストを収録しました。で、収録が終わってみると、結構な汗をかいていることに気がつきました。たまたま横で聞いていた妻によると「テンション高くしゃべりっぱなしだった」とのことで、そりゃまあ汗もかくかもしれません。ちょっとした運動です。

もともと家で作業をしていると運動量が激減してしまうので、ポッドキャストによるカロリー消費も積極的に行っていきたいところです。まあ、たいした量ではないかもしれませんが。

〜〜〜あのイベントが関西に来る〜〜〜

なんと、あのイベントが関西にもやってきます。

ブックファーストの阪急西宮ガーデンズ店・梅田2階店にて、「『独学大全』を独学し尽くす」フェア」が展開されるというのです。

タイムラインでずっと「面白そうだな〜」と眺めていたので、今から開催が楽しみです。

〜〜〜POPに採用されました〜〜〜

『闇の自己啓発』という本の書評記事を書いたところ、編集者さんからPOPに引用させてください、と連絡があり、できあがったのが以下のPOPです。

「40代男性」が私の文なのですが、書評記事の文面からはずいぶんと(自己啓発方向に)擬態されています。さすが編集者さんですね。

この本はいわゆる「読書会」の記事がベースになっているのですが、そのまま直線的なタイトルをつけたらビジネス書コーナーに並ぶことはなかったでしょう。しかし、ビジネス書にまみれて生きづらさを抱えている人にこそ読んで欲しい本なので、こういう「擬態」は素晴らしいと思います。

〜〜〜インターネット老人会〜〜〜

「ClubHouse」という新しいSNSが人気です。すべて音声オンリーの変わったSNSなのですが、その内容はさておくにして、こういうツールにまっさきに飛び込むと、「いつも見慣れた人たち」が目に入ります。インターネット老人会です。

もう少し時間が経てば、新しい人たちが登場し、そういう人たちに紛れて老人会の皆様の姿は見えなくなるので、新しいツールの一番最初のときにしか立ち現れない「場」というものがあるのでしょう。

ちなみに、「ClubHouse」は楽しい設計のSNSですが、個人的には一日一言もしゃべらなくても精神的には大丈夫なので、いまのところ積極的に使っていくつもりはありません。でも、何かしらテーマを設定した会話(本の紹介など)ならやってみてもいいかなと考えております。

〜〜〜今月読む本〜〜〜

二月最初の号なので、「今月読もうと思っている本」を紹介します。すでに買ってあるもの、これから買うものなど入り乱れております。

『哲学トレーニングブック』(山口尚)

noteの記事をまとめた本です。いくつかの話題がありますが「行為・自由意志」についての哲学的考察が面白いです。

『ひとはなぜ「認められたい」のか』(山竹伸二)

SNS時代では切実な問いですね。承認欲求と自我の在り方。いかに私たちがメディアと付き合っていけばいいのかについてヒントが得られるかもしれません。

『妄想する頭 思考する手 想像を超えるアイデアのつくり方』(暦本純一)

2月1日発売の暦本さんの新刊です。タイトルからして面白そうですね。今から楽しみです。

〜〜〜Q〜〜〜

さて、今週のQ(キュー)です。正解のない単なる問いかけなので、頭のストレッチ代わりにでも考えてみてください。

Q.今月は、どんな本を読もうと思っていますか?

ではメルマガ本編をスタートしましょう。2月は「New/Write」をテーマに進めていきます。

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○「『ライフハックの道具箱』について」

発売して、もう一ヶ月も経ってしまいましたが、新刊『ライフハックの道具箱』について書いてみます。

■創発的企画案

2020年の12月の頭くらいに、そうだ本を作ろうと思いつきました。いつもの突拍子もない思いつきです。

しかし、その思いつきは一週間経っても二週間経っても色あせることなく、むしろ切実性を帯び始めてきました。目下、出版社さんとの企画原稿を進めているのですが、こればかりは仕方がありません。今年中にこの企画案を形にしてしまおうと、無理目を承知に決定しました。

今から振り返ってみると、そこまで強く決意したのは、それが単発的な思いつきではなかったからでしょう。

まず、長らく温めていた以下のようなアイデアメモがありました。

・『ライフハックツール基礎のき』
・『ライフハックツール5選』

タイトルだけで言わんとすることがわかります。いくつかの基本的なライフハックツールを紹介しようと言うのです。後者には、Evernote・IFTTT・WorkFlowy,Dynalsit・Scrapbox,Roam Research・Dropboxがピックアップされていて、たしかに「標準的な」ツールが揃っています。

その「標準的な」ツールが、実際には標準になっていないのが、引っかかっていたのでしょう。Evernoteは知っているけどもアウトライナーは知らない、アウトライナーは知っているけどもScrapboxは知らない。そういう状況をTwitterやBlogを見ていて感じており、その情報不足を解消したいと、そのときは考えていたのです。

■話題の欠落

ではなぜ、そのような情報不足が起きているのでしょうか。あるいは、逆に問うてみてもよいでしょう。なぜ2010年頃には、このような情報不足が起きていなかったのか。

一つには、まだライフハックツール全般の数が少なかったことがあります。ある程度調べるとだいたいのものが網羅できたのです。しかし、この10年でたくさんのツールが生まれ、選択肢は爆発的に増えました。それらを網羅するのは、Web検索を駆使しても一苦労です。

さらにです。ツールの数が増えたことで、ただ一人のブロガーをフォローしていても、それらのツールに等しく詳しくなることもできなくなりました。たとえば私はWorkFlowyを使っていますが、DynalistやRoam Researchはメインユースではありませんし、その他のアウトライナーに関してはインストールすらしていません。チェックしきれないのです。

ここでは、学問領域における「専門家・細分化・蛸壺化」と似た現象が起きています。さらに、ブロガー同士のつながりが減ったことで、情報を受けとる側にも、同じ偏りが波及しています。どういうことでしょうか。

■交流と話題

2010年頃のブロガーは、盛んに交流をしていました。その交流は、ブログ記事の中で別のブロガーの記事を言及するだけに留まりません。たとえば、Aさんの新着記事をBさんがツイートしたり、あるいはTwitter上でCさんとDさんがリプライをよく行っている、といったことです。

そうした交流があることで、Aさんをチェックしている人がBさんを「発見」したり、Cさんをフォローしている人がDさんを知り、そのブログをチェックし始める、ということが起こりやすかったのです。

しかし、最近は上記のもろもろが減ってきました。ブロガーの記事がタイムラインに流されることも減り、ブロガー同士のリプライのやり取りも減りました。もちろん、引用の形で他の記事を紹介する記事も大幅に減っています。それ以前に、ブロガーの記事更新自体が減っています。

こうした状況では、関心領域の「越境」は起きず、「自分が知っていること(だけ)は知っている」という状況になりがちでしょう。2020年のライフハックは、まさにそうした状況になっているのだと思います。

■とある本の大ヒット

一方で、2020年に発売された『独学大全』は、私が感じていたブログの(ひいてはインターネットの)閉塞感を吹き飛ばしてくれました。Twitterで読書猿さんのアカウントをフォローしていると、さまざまな人の『独学大全』の感想ツイートがRTされてきます。当然、フォロー関係にない人がたくさん目に入るわけです。

考えてみると、そうしたRTはここ最近ほとんど見かけていませんでした。政治的な発言のRTや、問題発言のRTはよく見かけるものの、単一のオブジェクトについて言及しているツイートをやたらめったらRTする行為は、「タイムラインを汚す」的に嫌われているのかもしれません。

しかし、よくよく考えたら結城浩さんも自著の感想をよくRTされていて、そこで「数学好きがつながる」ような現象が起きているのだろうと推測します。「数学ガール」というキーワードと、懸命なRT活動によって、ある共通性を持つ人たちのつながりが可視化されているのです。

現状のライフハックの衰退を引き起こしているのは、もしかしたらそうした「泥臭い」活動の欠落が原因なのかもしれません。

■先へ先への誘惑

もう一つ、ライフハックというジャンル自体の問題もあります。というか、その分野に興味を持つ人たちの傾向が持つ問題と言えるかもしれません。

「ライフハック」は、いわゆるアーリーアダプターが多く、新しいツールに興味関心を持ち、その情報を多くの人に共有する姿勢を持っています。素晴らしい姿勢です。しかし、彼らのそうした性質は、「通り過ぎてしまったもの」の扱いを軽くしてしまいます。

新機能が発表されないツールは見向きもされず、日常に溶け込んでしまって何を工夫しているのかも自分では忘れてしまっている話題はわざわざ記事に起こすことをしないのです。

結果、最新の更新ばかりが目に入るタイムラインでは、「新しいツールの新しい機能」のことばかりが目に留まります。反面、長く使っていてほぼ安定軌道に入っているツールの話題はすっかり抜け落ちるのです。これはいびつでしょう。

ビジネス雑誌が毎年毎年行っている似たような企画・特集は、こうした時系列による「フローの押し流し」に抗う力を持つと言えるでしょう。年に一回は、お決まりの手帳の話をする。毎年読んでいる人にとっては、差分くらいしか得る情報はありませんが、今年から読み始めた人にとっては、そうした定番情報に触れられる大切な機会です。

新しい情報を追い求めるライフハッカーは、そうした定番情報を抜け落としてきたと言えるでしょうし、Googleの「新しい情報ほど評価する」姿勢にすっかり飼いならされてしまったと言えるかもしれません。

結局それらは、「帰るべきホーム」を作ってこなかったことの帰結なのでしょう。

(下につづきます)

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