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2023年の読書の振り返り / 小説部門 / アニメ部門

Weekly R-style Magazine ~読む・書く・考えるの探求~ 2023/12/18 第688号


はじめに

ポッドキャスト、配信されております。

◇第百四十二回:Tak.さんと今年の情報整理ツールまとめについて 作成者:うちあわせCast

今回は、二人が最近どういうツール構成で作業を進めているか、というお話でした。倉下は、少しずつ脱Evernoteを進めており、Tak.さんは脱Wordを進めている、という共通点が面白かったですね。

よろしければお聞きください。

〜〜〜一呼吸の文字数〜〜〜

最近、Twitter以外にも、Treads・Bleusky・MastodonなどのSNSをちょこちょこ触っております。それも、クロスポストするのではなく、それぞれのプラットフォームで違う内容のことをつぶやいています。

で、それぞれのプラットフォームはだいたい似た機能を持っているのですが、文字数制限は違っています。140字、300字、500字。些細なようですが、この違いが存外に大きい感じます。

たとえば、わたしはTwitterに浸かりっきりなので、何かしらの言いたいことを140字以内で表現することに不自由はありません。それでも、省略されるあれこれはとうぜん出てきます。副詞や形容詞を削るだけでなく、主語や必要な補足を削ることも珍しくありません。

一方で、400字前後の文字数があれば、そうした省略なしにだいたい「言いたいこと」を一つ書き表すことができます。これがなかなか快適です。

でもって、よくよく考えてみると、京大式カードに普通の文字サイズで書ける文字数もだいたいこれくらいです。共通点があるわけです。

ちなみに、ここまでの部分でだいたい450文字ほど。短いエッセイが一つ収まる分量ということです。

おそらく日本語の平均的な文の長さがあり、一つのトピックを構成するために必要な文の数があり、そこからワントピックの平均的な文字数、みたいなものが割り出せるのかもしれません。エッセイの統計学、なんていうのも面白そうですね。

〜〜〜フラッグとしてのEvernote〜〜〜

Evernoteフリープランの機能制限の発表があった後、さまざまなところで「どうしよう」という話題を見かけました。普段はぜんぜん違うことをツイートしている人たちが、「Evernote」という共通のキーワードによって一時的にクラスタを形成したかのようです。

考えてみると、業界や興味の垣根を越えて、多くの人が話題を共有していたのがEvernoteでした。フリーランス物書きだけでなく、会社員・コンサルタント・士業・先生・医者・学生、エトセトラ、エトセトラ。他に有用な選択肢がなかった時代だったからこそ、皆が同じツールを使い、同じ話題に乗っかれていた時代があったように思います。

同様に、Twitterでもブログ(特にWordPress)でも、インターネット人口における「マス」があり、そこに入ることで話題を共有できてきた環境がありました。昭和の日本において、テレビが日常の文脈を構成していたのと同じような力学が働いていたのだと推測します。

しかし、Twitterは(いろいろな意味で)Xに代わり、Evernoteからはユーザーが離れようとしています。しかも、皆の行き先は一つではありません。選択肢が多様になった現在では、SNSもノートツールもいくらでも選びようがあります。皆はバラバラの場所へと旅立っていくのです。

考えてみると、「ライフハック」という分野でも、ずいぶん違う方向性の人たちがこの言葉のもとに集まっていました。効率を求める人、自分で環境を作るのが好きな人、会社員的規範性に我慢ならない人……。黎明期ならではの「ごった煮感」があり、そうであるがゆえのパワーがあったのでしょう。

残念ながら、今の「ライフハック」にはそのようなごった煮感はありません。それぞれの人は自分の分野を確立して、旅立たれていきました。喜ばしいことだと思います。

そんな風に当たり前になりつつある分断をどう受け入れるのか。分断の中に少しでも越境を取り入れるのか。それとも再び大きな旗を探すのか。なかなか難しいところです。

皆さんはいかがでしょうか。普段ぜんぜん触れ合わないような人と共通する「大きな話題」をお持ちでしょうか。それとも、できるだけ小さな話題に限定しようとしておられますでしょうか。よろしければ、倉下までお寄せください。

では、メルマガ本編を始めましょう。今回は、一号まるまる使って2023年の倉下の読書を振り返ります。

2023年の読書の振り返り

今年も終わりが近づいてきたので、一年間の読書を振り返ってみます。

まずは、ざっとしたリストから。

◇2023年の読んだ本リスト - 倉下忠憲の発想工房

去年まではTextboxにテキストファイルベースの履歴を残していたのですが、今年の途中からJSONベースに切り替えたので連続的な記録がありません。その代わり、ブックカタリスト読書会のために毎月書き留めている読書ログメモを利用しました。

■年間の目標

まず一年間通しての目標ですが、「モンテーニュの『エセー』を読む」とあります。で、見事にエセーは一冊も読んでいません。その代わりに、

『モンテーニュ 人生を旅するための7章 (岩波新書)』

を読んで非常に楽しみました。むしろ、ここからモンテーニュの『エセー』の読解そのものよりも、「エッセイ/エセー」という表現形式が持つ可能性の探求に興味が移り変わったようなところがあります。

モンテーニュのエセーや、アランの『幸福論』など、エッセイ形式で書かれた文章が持つ力。そういうものと、現代のノウハウ本の在り方を交差させられないか、という観点を今年の後半はずっと考えていたかもしれません。その意味で、『文學界 2023年9月号』もずいぶん参考になりました。

2023年の10月に出版した『考えの育て方』という本が、ああいう形になったのも、そうした思索の一つの成果だったと言えるでしょう。

この探求はまだ始まったばかりなので、来年以降も引き続き「エッセイについて」を考えていくことになりそうです。

■びっくら本

ということで、好例のびっくら本です。頭をがっつんとやられるくらい面白かった本を紹介します。ふつうにやるとさすがに際限がないので、血の涙を流しながら10冊に絞ってみました。順番は読了日順です。

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