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セルフ・ステアリングの三要素 / 慣れたツールで実験する / 一周回ったEvernote / Evernoteは循環型

Weekly R-style Magazine ~読む・書く・考えるの探求~ 2023/06/05 第660号

はじめに

以前、早稲田大学高等学院中学部の入試問題に倉下の文章が使われたとお知らせしましたが、その問題文がPDFでダウンロードできるようになっていました。

◇2023年度 早稲田大学高等学院中学部 入試問題 – 早稲田大学 入学センター

初っぱなの第一問目ですので、よければ皆さんも問いてみてください。落ち着いて考えないとわからない問題もあるのでなかなか楽しいです。

〜〜〜成功と失敗〜〜〜

自己啓発分野において「成功法」は常なる興味のテーマでしょう。インフルエンサーが主催するオンラインサロンでも、「いかに成功するか」が主眼になっているのだと想像します。少し前には「勝ち組・負け組」みたいな言葉も流行しました。

いろいろなところで「成功」への渇望が高まっています。

それ自体は別に悪いことではありません。欲望の在り方としてよく見られるものです。しかし、その「成功」への渇望が「成り上がりたい」という自身の欲望からではなく、「絶対に失敗したくない」という欲望の裏返しとして表出しているなら少し困ったことになります。

なぜなら失敗を避けていては、どう頑張っても成功を手にすることはできないからです。もう少し言えば、不確定性のある行為──チャレンジと呼びましょう──を避けていては、「何者か」と認識されるような社会的成功は得られないからです。

よって、「絶対に失敗したくない」と思いながら「成功しよう」とすると、屏風に描かれた虎を捕まえよ、みたいな話になってきます。そうなると、悪質な情報商材や怪しい自己啓発セミナーなど「現実にはあり得ないことを謳う」言説に引き寄せられてしまうでしょう。なにせそうしたものでない限り解決できない欲望を抱いているのですから。

妙な話になりますが、「絶対に失敗したくない」という気持ちを抱いているならば、確実な成功を手にすることよりも、気楽に失敗できる環境に身を置いてみることが有効です。そうした環境でむしろ積極的に失敗して、少しずつ慣れていくのです。言い換えれば、認知行動療法的に「絶対に失敗したくない」という気持ちそのものを緩和させていくわけです。

だって、生きていく上で何の失敗もしないなんて、そもそも不可能なことでしょう。

しかしながら、濃い自己啓発界隈以外の領域でも過剰に「失敗」が忌避され、人が失敗の経験を積まないように配慮されているものを多く見かけます。それでは、無菌室で育てられたみたいに失敗に対して免疫がなくなってしまうでしょう。

個人的に大切だと思うのは、成功を確実に手にできるノウハウではなく、失敗してもそこからなんとかやっていけるという実感です。それは「実感」なので、知識として手渡せるものではありません。経験こそが唯一の入手経路なのです。

だからこそ、「場」の設計が大切なのだなと、最近は強く感じます。

〜〜〜ライフハックの引き算〜〜〜

昨今では、意味が希薄化しすぎてもはや存在の知覚すら怪しくなっている「ライフハック」という言葉ですが、そこには当初「生産性向上」という意図が込められていたように思います。

しかしながら、自分の経験を振り返ってみると「生産性向上」を目指したことはほとんどありません。そももそ「生産性」という概念に倉下は疑問を持っています。一見、真理のように輪郭線が定まっているように思えながら、その実体はひどくあやふやなのです。

そんなあやふやな概念を向上させたところで、一体何が嬉しいのだろうか。などと傲慢な考えを持っているわけですが、だったら率直に引き算してみたらどうでしょうか。

ライフハック − 生産性向上 = ?

「生産性向上を特には目指さないライフハック」

これは自己撞着している概念なのでしょうか。それとも来るべき新しい概念なのでしょうか。

皆さんはどう思われますか。ライフハックから生産性向上を引っこ抜いたとき、そこに残るものにはどんな名前が与えられるでしょうか。ぜひ倉下に考えをお寄せください。"失敗"などありませんのでお気軽に。

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では、メルマガ本編をスタートしましょう。今回はEvernoteまわりのお話を多めにお送りします。

セルフ・ステアリングの三要素

前回は「行動法」という概念にまつわる要素を検討しました。「思考法」に併置できる要素として「行動法」を位置づけた寸法です。

ではいよいよその中身について話を進めていこうかと思っていたのですが、宿題として残しておいた「全体像」についての見通しが先に立ったので、今回はその話をしておきます。

■三つの要素

まず、「思考法・行動法」にもう一つの要素があるとしたらそれは何か、という宿題ですが、「感覚法」というのがその答えです。

・思考法
・行動法
・感覚法

思考・行動・感覚、この三つが人の「在る」を支えています。当然これらは独立していません。何かを知覚すると、そこから行動が起きたり、思考が起きたりします。それぞれが別の領域というよりは、重なりあう三つの円のイメージが近しいでしょう。非常に調和した印象です。

また、「思う」と「考える」、「行う」と「動く」、「感じる」と「覚える」のように、同質の二つの言葉の組み合わせでできている点も魅力的です。内容的にも形式的にもなかなかうまく整理できているのではないでしょうか。

■全体のネーミング

三つの要素が出そろったので、「この全体は何か」についても考えられるようになりました。

端的にまとめれば以下のようになるでしょう。

「思考・行動・感覚に何かしらの作用を与えて、好ましい結果を得ること」

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