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クジラの増加とアニサキスの生態系の因果関係/ブラックライトでアニサキスが発光する原理

はじめに


アニサキスとは何か、その生態について

アニサキスは、回虫目アニサキス科アニサキス属に属する線虫の総称で、非淡水魚・回遊魚など海洋生物に寄生する寄生虫です。体長は2〜3センチ、幅は0.5〜1ミリ程度で、白い糸のような見た目をしています。

アニサキスの生態 ・・・

アニサキスの生活環は複雑で、卵から成虫になるまで、食物連鎖の中で宿主が変わっていきます。成虫は最終宿主であるクジラ類(クジラ・イルカ・シャチなど)に寄生し、その排泄物とともに海中に卵が放出されます。卵は海中で孵化し、オキアミなどの甲殻類に食べられ、その体内で第3期幼虫まで発育します。その後、魚類やイカなどが甲殻類を食べることで、アニサキスは魚の体内に移ります。

アニサキスと人間 ・・

人間がアニサキスに感染するのは、この第3期幼虫が寄生している魚を生で食べたときです。アニサキスは、人間の体内では成虫にはなれず、数日で死ぬか排泄されます。しかし、その間にアニサキス症と呼ばれる食中毒を引き起こすことがあります。

「クジラの増加とアニサキスの関係性」

クジラの増加とアニサキス クジラの個体数が増えている事は事実で、その一因として乱獲を防ぐ規制があると言われています。

アニサキスはクジラを終宿主として、魚の間を幼虫のままで移動しています。クジラの排泄物とともに海中に卵が放出され、オキアミなどに食べられて体内で感染型の幼虫となり、その後、オキアミを食べる魚へと幼虫は移り、その魚がクジラに食べられて成虫となります。このように、クジラが終宿主であるため、クジラが増えればアニサキスが増える可能性はあります。

https://www.natureasia.com/ja-jp/research/highlight/14136

これにより、クジラの個体数が増え、アニサキスの増加に繋がっていると専門家の間で、言われることが増えています。

南極海でのクジラ増加は、主に生態地域の関係で、我々が食べる魚に付着しているアニサキスとの因果関係があるとは断定できませんが、全体的なクジラの個体数増加は、アニサキスの大量発生につながっていると考えられています。

南極海でクジラの数が増えているという報告はいくつかあります。2022年1月には、南極海で約1000頭のクジラの大群が観測されました。また、ナガスクジラの生息数が回復しているという報告もあります。

アニサキスの生態個体数が増加しているという一般的なエビデンスも存在しており、米国ワシントン大学の水生水産科学学科のチェルシー・L・ウッド助教らの研究チームは、すべての魚介類に寄生する寄生虫アニサキスが、1970年代以降、283倍にも増加していることを報告しています。

ただし、一概にクジラの増加がアニサキスの増加と、直接的な因果関係があると断定することは現段階では出来ません。

以下に、アニサキスの個体数が増加しているというエビデンスを示すリンクをいくつか紹介します:

■「Jpn. J. Food Microbiol., 37(3): 122-125 (2020) - J-STAGE」では、アニサキス食中毒の報告数が増加していることが示されています。

Jpn. J. Food Microbiol., 37(3): 122-125 (2020) (jst.go.jp)

■「寄生虫「アニサキス」が過去40年間で283倍に増加していた - ナゾロジー」では、すべての魚介類に寄生する寄生虫アニサキスが、1970年代以降、283倍にも増加していることが報告されています。

報告の詳細は3月19日、「Wiley Online Library」誌に掲載。
It’s a wormy world: Meta‐analysis reveals several decades of change in the global abundance of the parasitic nematodes Anisakis spp. and Pseudoterranova spp. in marine fishes and invertebrates

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1111/gcb.15048

■「アニサキスによる食中毒の増加 - 一般財団法人 東京顕微鏡院」では、アニサキス食中毒の報告数が増加していることが示されています。

https://www.kenko-kenbi.or.jp/columns/food/1795/

アニサキスの食中毒事例の急増

また、アニサキス食中毒の報告数が増えているのは、2007年に食品衛生法でアニサキスが食中毒に指定され、医師は24時間以内に最寄りの保健所に届け出ることが必要になったためとも考えられます。つまり、アニサキス自体が増えたわけではなく、報告が増えたという見方をする専門家も多くいます。

一方、アニサキスによる食中毒の報告数については、2007年まで年間10件以下であった発生件数が、2008年以降次第に増加し、2017年には230件に急増し、2018年もさらに増えています。

2021年には344件のアニサキス食中毒が報告され、その後も増加傾向にあります1。また、2022年には566件のアニサキス食中毒が報告され、これは2012年の届け出義務化以降、過去最多の件数でした。

厚生労働省の統計

この食中毒事件数の増加は、医療関係者の間でアニサキス食中毒の認識が普及したことや、生鮮食品の低温流通システムの発達により、遠隔地で水揚げされた新鮮な生の魚介類を容易に食べることができるようになったことなどが要因と考えられています。ただし、具体的な原因については、さらなる調査が必要とされています。

「ブラックライトとアニサキスの検出」

ブラックライトの原理について

ブラックライトは、特定の波長の紫外線(UV光)を放射する光源です。この光は、特定の物質に当たると、それらの物質が可視光を放出するという特性があります。これは「蛍光」と呼ばれる現象で、物質が吸収した光(この場合はUV光)を別の波長(可視光領域)の光として再放出するものです。

ブラックライトとアニサキスの検出について

https://www.youtube.com/watch?v=7L7kENvrroc

アニサキスは、ブラックライトの下で特有の蛍光を放つ物質を持っています。この蛍光物質はアニサキスの体内に存在し、UV光に反応して可視光を放出する性質があります。したがって、ブラックライトがアニサキスに当たると、これらの蛍光物質が活性化され、我々の目に明るく映るのです。

この性質を利用して、魚の身体の中に潜んでいるアニサキスを効果的に見つけ出すことができます。この手法は、アニサキスが原因となる食材感染を防ぐための有効な手段として認識されています。

ブラックライトの選び方

ただし、ブラックライトと名の付くものなら何でもいいわけではありません。アニサキスの発光に最も効果的なのは、UVA領域(約365nm周辺)の紫外線です。商品の仕様をチェックし、この波長を放出するものを選ぶことが望ましいです。また、UV光は人体に有害である可能性がありますので、安全に使用できるモデルを選びましょう。

注意点について

すべてのアニサキスが同じように反応するわけではないため、ブラックライトを過信するのは危険です。また、白身の魚やイカなどは、アニサキス幼虫と同じような乳白色なことから、ブラックライトの光でも識別しずらいです。

したがって、ブラックライトはアニサキスの検出に有用ですが、その使用には注意が必要とされています。

アニサキス、ブラックライト、そしてクジラの増加:予想外のつながり

アニサキスは、海洋生物に寄生する線虫で、特に生魚を食べる際に注意が必要です。ブラックライトは、アニサキスを見つけるための有効なツールで、アニサキスが持つ特定の蛍光物質を活性化させ、我々の目に明るく映るのです。

一方で、クジラの個体数が増えているという事実があり、アニサキスの生態個体数の増加は、海洋環境の変化、魚類の移動、魚類の種類の増加など、多くの要素によって影響を受ける可能性があります。

アニサキスやクジラ、一見すると関係ないように見える生き物たちは、私たちが生きるこの地球の生態系の一部として、繋がっているのです。だからこそ、私たちは自然と共生し、そのバランスを保つことが大切なのかもしれません。


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