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満を持して『フラ・フラダンス』の感想書く。

あらすじ

福島県いわき市に暮らす高校生・夏凪日羽。
卒業後の進路に悩む日羽は、かつて姉・真理が勤めていた「東北のハワイ」こと「スパリゾートハワイアンズ」のポスターを見て衝動的に、新人ダンサー=フラガールの採用試験に応募する。
未経験ながらも採用された日羽は、鎌倉環奈、滝川蘭子、オハナ・カアイフエ、白沢しおんたち同期と共にフラガールへの道を歩み始めるが、個性豊かすぎる5人の足並みはそろわず、初ステージで、ある大失敗をしてしまう。
「今までで、一番ざんねんな新人たち」と呼ばれ、落ち込む彼女たちだったが、恋、ダイエット、そしてフラ…と、いいことも辛いことも分かちあいながら、フラフラしながらも絆を深めていく―――。
それぞれの想いを胸に彼女たちは今日もステージへ
笑いあり涙ありの新人フラガール成長物語
わたし、"フラ"を仕事にします。(公式サイトより)

はじめに

2021年も残すところあと数日となってしまった。そんな今日はなんとクリスマス・イブ(記事公開は25日になってしまったけど)。今年に入ってから映画の感想を備忘録として雑多に書き散らすという行為を始めた訳だが、恐らくこの『フラ・フラダンス』が今年感想を書く最後の作品になるだろう。(もしかすると年内にもう1本観るかもしれないが、それについて感想を書く予定は無いので)

タイトルがほぼほぼコピペ形式なこのnoteのタイトルで、今回敢えて「満を持して」という言葉を付け加えた。それにはもちろん、先程も述べた「年内最後」という意味も含まれている。
しかし2021年12月3日に公開されたこの『フラ・フラダンス』という映画。この作品が自分に与えていった衝撃は、それはそれはとんでもないものだった。その映画の感想をこうして年内の忙しい時に書くことができることを嬉しく思う。

2021年の個人的アニメ映画事情

2020年に新型感染症が流行したという事もあって、予定されていた映画の公開が伸び、1年遅れて今年上映されるという事案がいくつか存在した。例えば『シン・エヴァンゲリオン劇場版』もそうだ。加えて言うなら、今年公開予定だった作品が来年公開に伸びたという事例もある(『シン・ウルトラマン』など)。

そんな中、今年も多くの素晴らしい作品が劇場で公開された。もちろんその全てを鑑賞した訳ではないが、少なくともこのnoteに感想を記した作品の多くは個人的にグッとくるものが多かったと思う。

さてここでは敢えて「アニメ映画」というくくりで話をしたい。自分が今年観たアニメ映画の中で

  • 『劇場版 少女☆歌劇 レヴュースタァライト』

  • 『サイダーのように言葉が湧き上がる』

  • 『アイの歌声を聴かせて』

この3作品は特に心に残る出来だった。『アイの歌声を聴かせて』に関しては前回感想を書いたが、前2作品を鑑賞した頃はまだこのnoteを始めていなかったので、ここで簡単に触れておきたい。

『劇場版 少女☆歌劇 レヴュースタァライト』

TVアニメ版からそうなのだが、この作品には本当に映像に力がある。正直自分は深い考察などが得意ではないので、ストーリーや演出に関して的を射た発言などはできない。しかしそれでも、この映像作品から伝わってくるパワーというのはヒシヒシと感じる。実写でも特撮でもできない、アニメだからこその映像表現というものがスタァライトには込められていると思う。アニメ作品の目指すべき到達点の一つだと自分は思う。

『サイダーのように言葉が湧き上がる』

個人的な話で言うならば、先に挙げた3作品の中ではこの映画が1位だと思っている(それはもうほぼほぼ僅差なのだが)。
かと言って、ではこの作品のどこがそんなに優れているかと言われれば、それを挙げるのは正直難しい。どちらかというと、ずっと一緒にいたいタイプの映画(?)。

この作品には、先程触れたスタァライトや、前回べた褒めしたアイの歌声をも上回る大事なポイントがある。それは『鑑賞後の幸福感』だ。

スタァライト視聴後はただただその情報量に圧倒され、何も考えられない状態が1時間ほど続いた。
アイの歌声に関しては、全体の完成度に満足はしていたものの、エンディングの腑に落ちなさがどこか喉につっかえていた。

しかしこの『サイダーのように言葉が湧き上がる』を観終わった時、自分はただただ幸せな気持ちでいっぱいだった。心の中をサイダーのシュワシュワが駆け抜けていったのだ。

その要因の一つとして特筆したいのは「悪役が一人としていなかったこと」だ。勿論物語のメリハリをつける上で、善悪という概念が非常に重要なのは分かる。ただそれでも、現実世界で毎日悲しい事件が起こっている中、創作物の中にまで悪を見出したくないという思いが自分の中にはある。それが生々しいものであるならなおさらだ。(『竜とそばかすの姫』に関しては、そういった面でも評価が低い)
ただこのサイダーという作品は、登場人物全員がいいヤツなのだ(悪ガキはいるけど)。みんなが真っ直ぐで、みんな生き生きとしている。終盤で主人公の背中を友人達が押すシーンなんかは涙腺が刺激されたものだ。

それに加えて夏らしい絵のタッチも素晴らしいと思う。それも含めてこの映画では「夏」という季節感が最大限に表現されている。そんなこの作品が夏に公開された、というのは個人的にとてもとても大きなポイントである。もしこの作品が寒い今の時期に公開されていたら評価ダダ落ち間違いなしである。

また、SNSの使い方も非常に上手かった。劇中ではTwitterやインスタライブ等が統合されたSNSが使われていたのだが、それがなんともリアルに描写されている。例えば自分のツイートが気になるあの子にいいねされた時のドキドキなど、SNSならではの青春がリアルに、かつ丁寧に描かれていた。

そしてなんと言っても終わり方が綺麗だ。流石に記憶があやふやなのだが、この映画のラストシーンはエンドロール後の一枚絵だったはず。人物は描かれてないのだが、「外されたヘッドホンやマスク」が置かれている。これらはこの作品において非常に重要な意味を持つアイテムだった。それがそっと置かれている状況、そしてそこから読み取れる主人公たち二人の成長。完璧すぎる。

そんな中やってきた『フラ・フラダンス』

随分と話が脱線してしまったが要約すると、この3作品に出会えることができて今年も幸せだったなあと思っていた訳である。しかし最後にやってきたこの『フラ・フラダンス』という作品が全てをブチ抜いていったのだ。

上映時間が108分というこの作品なのだが、初回鑑賞時、後半30分くらいずっと泣き続けていた。いやそんな事あるか? と自分でも思うのだが、実際にそうだったのだから仕方ない。ちなみに2回目の鑑賞時は流石にそこまで泣かなかったものの、それでも後半ずっと目から涙が溢れ続けていた。そんな事あるか?

ではこの『フラ・フラダンス』という作品、何がそんなに凄いのか? 正直自分にはそれを言語化する自信がない。「なんか分からんけど胸にグッときている」状態だ。正直そんな状態なので感想を書くという作業から逃げていたのだが、流石に書かないわけにもいかない。そんな理由で「満を持して」感想を書こうという訳だ。

メインテーマ

メインと言ってしまっていいのかは疑問が残るが、この作品における一つの大きなテーマが「東日本大震災」だ。福島県いわき市常磐にある「スパリゾートハワイアンズ」が舞台となっていることからも、それはうかがえるだろう。

全体的に明るい作風の今作だが、注意深く観察すると、登場人物の多くが未だ震災の傷跡を心に残していることが分かる。それは主人公の夏凪日羽も例外ではない。
そんな震災だが、作中で明確な描写自体はされていない(ズレてしまった客席くらいか)。映像描写を最低限にし、後は登場人物での発言にとどめることで、話が重くならないようにしているのだろう。とは言え冒頭も冒頭で震災が暗示された描写があるのもまた事実だが(後からそれが判明するのがまたなんとも言えない)。

世の中の様々な作品で様々な危機が訪れている。それは多種多様で、時には世界の危機だったり、なんなら宇宙や銀河のスケールでの危機だったりもする。
しかしどんなフィクションで描かれるどんな架空の災厄よりも、実際に存在した「東日本大震災」の方が心に重くのしかかってくるのではないだろうか。そう自分は思う。

5人の成長

あらすじにもある通り、この作品は主人公の日羽を含む5人の成長を描いた物語である。とはいえ尺や構成上の都合のせいか、日羽以外に関しては比較的あっさりと描かれる。ただ描写不足かと言われるとそんなことは無く、108分の映画という事を考えると、必要十分な量だったのではないだろうか。(例えばこれがTVシリーズなら、鎌倉環奈が打ち解けるのに一話が割かれただろう。それはそれで見てみたいが、その描写が無くても彼女は皆と仲良くなるだろうな、という謎の説得力がこの作品にはある)

勿論日羽がメインなのはそうなのだが、それでもその他4人の影が薄すぎる、ということはない。それは最初に5人の個性を分かりやすく描いておいたこと、加えて合間合間に挟まれる5人のふとした日常シーンのおかげだろうか。

夏凪真理

主人公日羽のお姉さんで、この作品におけるキーパーソン。この作品において言えば、東日本大震災の爪痕がこの「真理の死」という形に落とし込まれていた。あまりも巨大過ぎてそのままでは処理しきれない重すぎる過去が、分かりやすく受け止めやすいように転化されていたのではと思う。

ここからは作品の根幹に関わるネタバレになるので、嫌な方は目を閉じてそのまま映画館に直行してください。

物語中にちょくちょく喋って動いていたCoCoネェさんのぬいぐるみだが、実は真理であった事が最後の最後に明かされる。正直この部分は賛否が分かれる部分な気はする。(唐突なSF要素)

実際その原理は全く不明で、本当に真理の魂が宿っていたのか、はたまた日羽が見た幻なのか。個人的には、真理が残してくれたCoCoネェさんのぬいぐるみという思い出の品を通して、日羽が自分の心の中の真理、あるいは自分と対話していたという形なのかなあとは思う。(本当に真理がそこに居たのだとしたら、それはそれでとてもロマンチックだとは思うが)

作中で日羽がCoCoネェさんを不気味に思い、口にガムテープをしてクローゼットに放り込むシーンがあった。勿論表面上は急に喋りだす人形に恐怖を感じたという理由からだろう。ただそれだけではなく、自分の中の夢や目標から目を背けて逃げてしまった事の表現なのかなあという気もする。

メタな話になるが、夏凪真理の声優は早見沙織さんだ(透き通った声が真理のどこか儚い真理の雰囲気にとてもマッチしていたと思う)。そしてエンドロールに書かれていた通り、CoCoネェさんの声優も同じく早見沙織さんだ。言ってしまえばかなり初期の方からネタ明かしがされていたという事になる。
ただ恥ずかしながら自分は、CoCoネェさんの正体が明かされるまで、ぬいぐるみの声優が早見沙織さんだと気付けなかった。もっと正確に言うなら、正体に気付いた日羽に対して、おちゃらけながら「アロハ~」と言わせようとしていたCoCoネェさんが、一度諦めて髪飾りを着けてと言い出した瞬間に気付いた。やはり声優さんの演技って半端ない。

この作品最大の(?)仕掛け

日羽(ひわ)と、真理(まり)。二人合わせてひまわり。

勘の良い人ならあっさり気付いたと思うが、なんと自分は言われるまで全く気付かなかった。馬鹿かな? 思っていたことと言えば、「日羽ってちょっと特殊な名前だな」くらい。あたしってほんとバカ。

ただ全く気付いていなかったのが幸いしてか、この事実が述べられた瞬間、全身に鳥肌が立ったし、ガバガバだった涙腺の蛇口が更に一段階開いた。馬鹿で良かった。

正直ギミックとしてはそこまで複雑なものでもないし、このシーンでここまで感動してるのは世界で自分だけなのではという気もする。(劇中でフラフラ迷っていた日羽だが、本当は最初から紛うことなき太陽の花だったんだとか(それは彼女がフラガールを目指した原初の理由からも分かる)、これから日羽は胸の中の真理と一緒にひまわりとして人を笑顔にしていくんだとか、そういった思いが溢れ出たのだと言い訳をここに記しておく)

いついろディライト

この作品を語る上で外せないのが、作中に登場したアイドルグループ『いついろディライト』だ。このユニットはかなり気合を入れて作られているのか、いついろディライトが実在するというテイで作られた専用の紹介ページが存在する。

この5人組のグループだが、その声を当てるのは日羽達5人、それぞれの声優だ。つまり言ってしまえばこのいついろディライトというグループ、主人公たちそのものと言ってしまっても過言ではない。(流石に言いすぎかも)
個人的にこのいついろディライトは、フラダンスではなくアイドルを目標にした世界で出会った日羽達5人なのかな、という解釈をしている。別次元の自分達が手を貸してくれるって、ちょっとエモくない?

このグループを見た時、自分はなんとなくももいろクローバーZを想起した。残念ながら自分はアイドルについてそこまで詳しくないのだが、実在するアイドルグループをオマージュした存在なのだろうか。

フラ・フラダンスというタイトル

このタイトルを友人に話したら「なにそれギャグ映画?」と言われてしまったのだが、実際何をするかが伝わってきにくいタイトルだとは感じる。

この「フラフラ」という言葉自体は劇中で何度か登場している。周りと比べてダンスの技術が劣る日羽が、肉体的にも精神的にもフラフラでになってしまい「これじゃフラフラダンスだよ」と言っており、ネガティブな意味で使われていた。

しかしフラダンス選手権終了後に、彼女たちにかけられた言葉は「悩んでもいい、迷ってもいい、フラフラしてもいい」という、むしろフラフラを肯定する言葉だった。

人生において「フラフラしてしまう」事は誰にでもあることだと思う。そんな状況で「こんな事していていいのか」「こんな事をしている場合じゃない」と自分を責めてしまうこともあるかもしれない。しかしこの作品はその迷いを肯定してくれ、むしろ必要なものだとも言ってくれる。なんと暖かい作品だろうか。

ただここで忘れてはいけないのは、「日羽は自分の指針がしっかりしていたからこそ迷っても、結果的に乗り越えることができた」という点だ。彼女の場合「みんなを笑顔にしたい」という子供の頃からの揺るぎない目標があった。
何も指針がない状態で迷ってしまってはどこに行けばいいのか、どこに帰ればいいのかも分からず迷い続けてしまう事と思う。
迷った時こそ自分が本当は何をしたかったのか、何を目的にしていたのか。そういった事をじっくり考えてみるのが大事なのかなとも感じさせられた。

主題歌『サンフラワー』

結論だけ言ってしまおう。ここまで主題歌らしい主題歌はそうそう存在しないだろう。そう言い切ってしまえるほど作品にマッチした曲だと思う。

残念ながら音楽についてはマジで全くの素人なので、「この曲はここが凄い!」と語ることは一切できないが、本当に素晴らしい曲だと思う。エンドロール時、この曲を聞いているだけで涙が止まらなかった。
もちろんそれは、ハワイアンズの歴史が詰まった写真達を背景に日羽達が歩いていくという演出が寄与していることは言うまでもない。

劇場版スタァライトの『私たちはもう舞台の上』も相当に名曲だと思ったが、この『サンフラワー』はそれと同じかそれ以上だと感じる。

その他感じたこと雑記

基本的にアニメ作品の声優に関して引っ掛かりを覚えることは少ない方だが、鈴懸さんの演技に関しては正直「ん?」となったかなぁ。

その鈴懸さんに日羽が惚れていた訳だけど、スッパリ失恋して作品的には正解かなと感じた。いきなり恋愛模様が始まっても仕方ないしね。(てかこの2人、一回り以上歳離れてるよね)

いついろディライトのライブに参加した日羽。その前後ずっと暗い顔をし続けていた彼女が、そのライブの最中だけは最高の笑顔を浮かべていた。だからこそ彼女にとっていついろディライトという存在はかなり大きいのだなあと。

最近は特に劇中で動画配信サービス(YouTube)が表現されることが多くなったと感じる。今回だと日羽達のデビューが「いかにも」な編集をされて投稿されていた。時代の流れを感じる。

鎌倉環奈という人物。「実力者かつプロ意識が高い」彼女だが、いつのまにかデレデレになっていた。後半は彼女もしっかりギャグパートに参加していたし。選手権前の彼女のデレっぷりなんてそれはもうそれはもう。てかスタイル良すぎ。

選手権で彼女たちのダンスが大盛りあがりした訳だが、結局凄いのはいついろディライトなのでは…? という思いは正直多少ある。(勿論それをフラダンスという舞台で採用した彼女たちの発想が評価されたのだろうけど)

最後のひまわり畑のシーン。本当に圧巻だった。

これは本当にぶっちゃけた話なのだけれど、冷静にストーリーを追おうとすると結構粗が目立ってしまうのは事実。なのでそこが気になってしまうと楽しめないのかなあとは思う。

2回目に貰った入場者特典が、アイカツ!の星宮いちごと日羽のコラボイラストで笑っちゃった。(キャラデザがアイカツ!の方だからこそだね)

まとめ

ここまで色々と語ってきたわけだが、結局何がそこまで自分に刺さったのかは言語化できなかった。残念。恐らくこの作品の色々な要素が自分の好みにジャストミートしたのだろう。(結局こんな結論になってしまって申し訳ない)

この作品だが、残念なことにあまり人が入っていないというニュース記事を少し前に見かけた。確かに、何も知らない人からしたらそこまで求心力がある作品ではないとは思う(フラダンスだ! 観よう! となる層ってそこまで多くはなさそう)。
ただここまで熱弁してきた通り、本当に素敵な映画だと思うので、是非多くの人に観てほしい。

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