戯作ファンタジー/バッカ会長狙撃!


*序
今日、じつにくだらない小説もどきが頭に浮かんだ。
それも頭から尻尾まで尾頭つきで話が降りてきた。
しかも時節もので、すぐに書かないと意味がない。
せっかく降りてきたものだから書き留めておく。

殺人がでてくるので、倫理的にどうかと思う人もいるだろう。
読んで気分を悪くされても知らない。
自己責任でお願いします。

今書き終えたけど、想像以上にくだらない。
しかし、書いてしまったのだから公表する。

この作品は当然フィクションであるので、実在の人物・団体とは関係がありません。

*************
戯作・バッカ会長狙撃!

昨日1人居酒屋で呑んでいると、「スナイパー」と知り合った。

いきさつはこうである。
私は好物の「磯辺揚げ」を注文した。
すると来たばかりでメニューを見ていた隣の男が「あ、俺も!」と叫んだ。

ごつい身体をして強面の男である。
「あ、すみません、磯辺揚げが1つで終わりなのです」お姉さんが高らかに宣告すると、男はしおしおと明らかに落胆した。

男は私のほうをうらめしげに見た。
そのガタイから脅されるのではないかと思ったが、どちらかというと、捨てられた子犬のような目であった。
私が目を合わせようとするとすぐにそらした。

私は磯辺揚げが来ると「よかったら少しどうぞ」と彼に差し出した。彼は恐縮しながらも喜んで2本取った。
それからぽつりぽつりと彼と私は話しだした。彼は熱燗を私のために注文し、「いいか」とも聞かずにアクリル板の内側に入ってきた。

彼は「自分はスナイパーだ」と語り出した。
元々ミリオタで、身体を鍛えるマニアでもあった。
その度が過ぎて長いつきあいの彼女に逃げられたのを機にヨーロッパに渡り、本格的訓練を受け傭兵部隊に入ったという。
傭兵部隊で危うく死にそうな目にあった彼は、狙撃手に転向したのだという。

「スナイパーはいいぞ。遠くから人を殺せばいいんだからな。その代わり居場所を絶対に捕捉されてはいけない。見つかって捕まってしまったら嬲り殺しにされる」

どうも話の細部が本格的で本当っぽい。
けっこう残虐行為もしているようだが、彼は普通の事柄として話す。

海外から戻ったばかりで、どうしてもこの店の磯辺揚げが食べたかったのだという。

最初は雰囲気が固かったが、話の途中で同郷とわかり、彼は焼酎のボトルをとって私にも勧めた。
ボトルが空きそうになるくらい呑むと2人とも酔ってしだいにお国言葉で話すようになると、もうべろべろである。

彼はおおきな声で「スナイパーは」「スナイパーは」と連呼しているが、周囲の客は誰も関心を示さない。
ゲームかアニメの話だとでも思っているのだろう。

「俺がスナイパーと言っているのは……」ここで初めて彼は声をひそめた。
「職業的な殺し屋のことだ」
どうも日本で殺し屋を開業するらしい。

私が感じたのはゴルゴ13とはずいぶん違うな、ということだ。

「今日のお礼にな、殺りたいやつがいたら殺ってやるぜ」
「へー、そりゃあ、いいね」
恐ろしい話だが、私にはあまりリアリティがなかった。
「誰かいるか」
「んー、考えとく」
「よし名刺を渡しとく」

彼がくれた名刺には
「砂井一夫 射撃コンサルタント❤️」とあった。
住所はないが、携帯番号やメルアドなどが入っている。
最後の❤️のセンスがまったくわからない。
殺し屋の名刺はこんなものか。

「スナイパーで砂井か。芸名だな」
「いや、本名だ」
「嘘だろ?」
「砂井がパーだからスナイパー!」
そんなことで大笑いしてボトルを2本空け、私も名刺を渡してその夜は別れた。

翌朝5時半に電話がかかってきた。
誰だこんな時間に?
私は寝ぼけながら携帯を取った。
「なんだまだ寝てたのか?」
砂井だった。
もう十年来の親友のような口の聞き方だ。

「当たり前だ。何時だと思っている?」
頭がガンガンした。二日酔いだ。
「俺は10キロのランニングを終えてシャワーを浴びたところだ」
キレのよい声が返ってきた。鍛え方が違う。
「用件は?」
俺は機嫌が悪いが、彼は気にしない。
「誰をヤる?」
「え?」
「考えとくっていったろう」
「……」

個人的に殺したい奴は周囲にいない。

昨晩思いついた名前を言った。
「……来日中のバッカ会長」
「あのバカか……」
しばらく考える時間があった。
「んー、時間がないな。クライアントに対しては準備期間を最低3週間はもらうところだが……」

しばらく沈黙が続き私が無理ならいいといおうとしたタイミングで、「なんとかしよう」と言って通話が切れた。

バッカ会長が高級車を降りたところで眉間を撃ち抜かれたのは、その2日後である。
それもテレビ中継されていて、私はたまたまリアルタイムでテレビを見ていた。
「ホントにヤリやがった……」
砂井の話が半信半疑だった私は口をポカンと開けた。

バッカは崩れ落ちて死ぬとき一匹のイボだらけの山椒魚のような爬虫類になった。

人間のふりをしていたのだ。
私は間接的に彼を殺したことになる。
しかし、少しも心の痛みや良心の呵責を感じなかった。
彼が爬虫類だとは知らなかったが、有害で空虚な存在と感じていた。人間ではないと感じていた。
あるいは彼こそが人間の行き着くところか。本質なのか。
人の行き着く先は空虚か。

日本のテレビ局は、死を映すことがほとんどないが、このセンセーショナルなシーンだけは、逃すことができない。同じ番組でも2回、3回と流され、数百回も再生された。

いわば彼は公開処刑された。
貴族のような生活を送りながら磯辺焼き2本で死んだ。

眉間を撃ち抜かれたシーンはさんざん流れたが、彼が爬虫類になった映像は何故か2度と流れなかった。

テレビでは、組織のナンバー2が「これは平和の祭典に対するテロであり、冒涜だ。我々は祭典を粛々と行う」と述べた。
タイプは違うが傲岸な態度は変わらない。
彼が次期会長になるのか。
私には彼が内心でバッカの死を喜んでいるのがわかった。深刻そうな表情の下に、悪魔の笑いが見えた。違う種類の爬虫類だろう。
続いて首相がコロナに留意しながら最大限の厳戒体制を取る、国民のために安心安全な五輪を実現し敵と戦う、と述べた。

似たような連中はいくらでもいる。
無駄な狙撃であったか。

翌日、砂井が電話してきた。
「どうだ?」
「ありがとう」
私は礼を言う立場だった。
「テレビ映えしただろう」
そこまで彼は狙っていたらしい。

「たいへんだったのではないの?」
「日本の警察は『やってる感』出しているだけだから。プロはいない。つかまることもない」
電話でこんなこと話していいのだろうか?

「おかげで仕事のオファーがいくつか来ている」
「え?」
彼がやったことだともう知られている?
警察には追われていないのに?
何か闇社会のシステムがあるのだろうか。

「では、仕事でしばらく忙しいね」
「いや、日本はギャラが安過ぎる。1桁違う。1件で1.2年は遊んで暮らせなければやる気がしない。俺はサラリーマンじゃねえんだ。もう1人誰かいないか?」
「え?」
「有名人をヤるとブランドがついて、ギャラが上がる。有名な奴がいい」

私はしばらく考え、バッカより先に言うべきだったかもしれない名前を言った。

「……竹中屁蔵」
「good choice!」

砂井は電話を切った。


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