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てんぐのノイエ銀英伝語り:18話「流血の宇宙」の場合

 日テレで放送してるノイエ銀英伝ですが、三期「激突」編のテレビ初放送も間近になっております。
 そんなわけで、最近は既に視聴済みの二期の方も見るようにしています。習慣付けておかないと、ついうっかりをやっちゃいそうですし。

 で、せっかくなので、今週放送回のサラっとしてるようで情報量の多い第18話「流血の宇宙」の解説みたいな記事を書いてみることにしました。


賊軍のガバガバガバナンス

 リヒテンラーゼ=ローエングラム枢軸による帝都制圧クーデターを搔い潜り見た目がポケモンボールに似てる気がするガイエスブルグ要塞に参集した賊軍ことリップシュタット貴族連合の決起集会から今週回はスタートしましたが、これがまあ実にひどいんですわ

  • 決起集会の席で具体的な作戦案を披露する盟主

  • その盟主の提案を万座の席で全否定する艦隊総司令

  • その艦隊総司令の作戦案を押しのけて自分の作戦をプレゼンする理屈倒れ提督

  • その理屈倒れ提督の作戦案に無邪気に乗っかって連合軍の統制をかき乱すとっちゃん坊や

  • とっちゃん坊やとは別枠で美人のねーちゃんと一緒に理屈倒れ提督に接待攻勢をかけるネオリベ財界人めいた貴族

 まず盟主も帝都クーデターで動揺してるであろう諸侯を掌握するためにそうだYes俺たちならやれるWe can(ってタイトルの公式シナリオがサタスペにもあったなあ)と発破を掛けるのは良いんですよ。
 でも、決起集会なんて公開の場でそんな具体的な作戦案を披露して、情報が洩れたらどうするんですか。
 しかもその作戦案、メルカッツ提督たち専門家とも打ち合わせしてないでしょ?

 で、そのメルカッツ提督にしても、盟主の発言をなんだって、これまた公開の場で全否定するかなって思うんですよ。諫言ってことなら、非公開の舞台裏で一対一かそれに近い状態でやるべきなんです。でないと上位者の面目や権威を潰して、ひいては統率力を損なうことにもつながりかねない。それじゃ本末転倒ってもんです。
 任官して平民兵士と触れて初めて自分が貴族という特権階級育ちだったということを知ったと語るメルカッツ提督ですが、中身以上に言い方ややり方の方が重要視されることもある“社交”というものと無縁でいられる“武人”の特権性については無自覚なようです。

 理屈倒れのシュターデン提督にしても、ノイエ版の1話目、アスターテ会戦でラインハルトの作戦案に「勝算がおありか!」と厳しく問う姿には用兵術のプロとしての気迫を感じさせました。
 なのに、なんだってヒルデスハイム伯爵の微妙に成金臭い接待攻勢に鼻の下伸ばしちゃうかなあ。

 この賊軍のガバガバガバナンスに何とかタガを嵌められる、爵位に由来する貴族社会での権威と軍事の専門知識と政治力を併せ持つ人物がいるとしたら、それはミュッケンベルガー元帥くらいのもの。
 そこから考えると、元帥が参加しなかった時点で、賊軍の命運はとうに尽きていたんでしょう。

用兵家“疾風ウォルフ”の本質

 その賊軍との初戦となったアルテナ星域会戦に出陣したミッターマイヤー大将ですが、ノイエ版での戦い方がなかなか面白く、そして用兵家としての“疾風ウォルフ”の本質が見て取れました。

 前面に機雷源を敷設し、敵艦隊に左右への展開を強いた後に、その機雷源に開いていた極細の啓開航路を通って左右に分かれた敵の片側の後方へ展開する。
 この戦術機動って、アスターテ会戦でラインハルトがやったものとほぼ同じなんですな。

 シュターデンはアスターテの成功を、「まぐれにすぎない!」と決めつけていました。実際、アスターテ会戦で同盟軍が行おうとしていた外線作戦は軍事的には定石とされています。
 アスターテ会戦のラインハルトの戦術は「内線作戦によって敵陣の後方に展開することで行動の自由と攻撃権を獲得する」という、銀英世界における新しい基軸を打ち立てたとも言えます。

 ミッターマイヤーの用兵家としての本質は、パイオニアではなく、それをより洗練させ実践してみせることにあります。
 さらにそれを理屈だけで終わらせることなく、艦隊の指揮命令系統を整備し、個々のクルーや軍属に至るまで徹底的に訓練を積み重ね、“群れ”としてのレベルそのものを底上げし続ける。
 だからこそどんな敵と戦っても高い勝算を常にキープできる
 戦場における“神速”の艦隊運動などはその証明にすぎない。

 これが“疾風ウォルフ”の真に恐ろしいところなんですな。

“野蛮人”の烙印を捺された男、オフレッサー

 装甲擲弾兵総監オフレッサー上級大将も、実は媒体によって色々な描かれ方をしてきました。
 フジリュー版では人間の言葉を発しただけで読者が驚くほどのモンスターとして描かれてました。
 一方、石黒版では当時の名レスラーだったブルーザー・ブロディがビジュアル的なモデルだったそうです。それに見合うワイルドな雰囲気と粗野なプライドの持ち主でした。
 ちなみにブロディについてはこちらを参照してください。
 てんぐくらいの世代だと、印象に残るレスラーでした。

 さてノイエ版ですが、初登場時は「え、これがあのオフレッサー?」「石器時代人に見えないよね」って思ったものでした。
 その内面も、それこそブロディの、神経質なくらいのクレバーさとプライドの高さなどファンに語り継がれる人柄を彷彿とさせる、むしろ知性的な面がありました。
 レンテンベルク要塞第6通路の攻防戦にしても、ゼッフル粒子を高濃度散布することで装甲擲弾兵以外の彼我のユニットを非戦力化することで数的な不利を無効化し、その白兵戦でも危機に瀕した部下を助けるためにトマホーク(というかハルバードですなアレは)をブチ込んだ敵兵を投げつけるというかなり荒っぽい手ではありますがカバーリングができるなど、流血と疲労の中でも失われないタフな知性の持ち主でした。

 そんな知性的な男が、何だってまたあそこまでの反ラインハルト派となったのか。
 血と泥に塗れる陸戦部隊の最高権威者として宇宙艦隊勤務のエリートに対するジェラシーかな、とも思ったんですが、そのラインハルトとキルヒアイスも、この回で文字通り刃を交えた双璧も陸戦経験はあります。
 そもそも、組織としての帝国軍は宇宙軍と地上軍という具合に軍種が別れていない統合軍である可能性が高いんです。
 従ってキャリアによる差異が理由という線は薄いですし、ついでに言えば彼自身も下級貴族出身なのでラインハルトとは同族と言えます。
 ではなぜ、と考えて頭に浮かぶのは、ミュッケンベルガー元帥との関係性
 ノイエ版では彼とミュッケンベルガー元帥との関係は良好そう、それも階級を越えた戦友愛すら感じさせるものがありました。(石黒版では逆に、「俺は本来ミュッケンベルガーとは同格なんだ」くらいの横柄なプライドを感じさせてました)
 そのミュッケンベルガー元帥の牙城を姉の美貌に魅入られたフリードリヒ4世の寵愛のおまけで出世したような“金髪の孺子”によって突き崩され、ついには退役にまで追いやられたと考えれば、そりゃ“金髪の孺子”嫌いの急先鋒にもなります。

 そんな彼に対しては、どこまでも孤立と孤独を余儀なくされた、「野蛮人」の烙印を理不尽に捺された男という印象が強いです。

 ノイエ版は、“英雄”に敗れ斃れていった者の姿が印象深くなる傾向があります。
 オフレッサーもそのひとりですし、だからこそ激突編でのあのシーンは胸が静かに熱くなったものでした。


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