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最近怒鳴られた話。

今週は2回も怒鳴られた。
しかも見ず知らずのおじさんに。

大人になって大人から怒鳴られるってのは
そんなにあることじゃないと思っていたけど
そうでもないみたいだ。

最初に怒鳴って来たのは野外音楽フェスの
駐車場の案内をしていた方。

関係者駐車場に行こうとしていた僕を
「止まれ止まれ!」と赤い棒を振りながら
「こっちは関・係・者!」と叫んでいる。


僕は車のダッシュボードに関係者用の駐車パスを
置いていたのだがどうやら見ていなかったらしい。

「あ、いや、関係者ですよ」と告げると
ダッシュボードのパスが置いてあるのを見て

「ちゃんとダッシュボードに置いておけや!
見えへんやろ!!!」
と怒鳴られた。

「え?」置いてたけど。
おじさんは怒りに任せてブンブン赤い棒を振りながら
こっち!」とまたしても怒鳴る。

僕は普段から大きな声を出す人が苦手で、
驚いて思考が停止してしまう。

無事に車を駐車して、一息ついてから
フツフツといや、ブクブクと
先ほどのおじさんに対して怒りが湧いてくる。

自分は悪くないのに、理不尽なことで怒られる。
ここで「はぁ?何を抜かしとんじゃおら!」と
ブレイキングダウンな展開に出来たら
思いながらも

そういう風に僕が見えないから
あのおじさんも怒鳴ったんだろうな、、、
と思う。

悔しい。
が、仕方ない。
こういう時に僕は
妄想をすることにしている。


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大津敏夫(仮名)推定年齢60歳

「う”ぅぅ〜眠ぃぃなぁ〜」
敷きっぱなしの布団の上にあぐらをかき
横に倒れている4リットルの
ペットボトル焼酎を見るとほぼ空になっている。

「くぅああああ」とあくびをしながら頭を掻く。
チッと舌打ちをしながらスマホを見る。

「あー、現場か。めんどくせーな」
タオルを持ち、仕事場へと向かう。

登録している警備派遣会社からの
連絡によると今日の現場は
コンサート会場の導線案内。

現場に到着すると作業着に着替えて
誘導棒を持ち持ち場の確認に行く。

現場を仕切っているのはという
30代の社員だ。

バイトの名前が書かれたボードを持ちながら持ち場を指示している。

大津は「チッ」と小さく舌打ちした。
泉が仕切っていた前回の現場を思い出した。

オープンしたての商業施設の警備、大津は
外の入り口の車が入ってくる駐車場案内の誘導役だった。
オープンセールを目掛けて来る多くの車、
そして大雨。
雨が降る中の誘導は本当にしんどい。


「あー大津さんは、、、駐車場案内ね」
またかっ!という顔をして泉を見ると
「どうしたんですか?早く支度してください。
はーいダッシュ!」

何が「はーい、ダッシュ」だ。
少し高い声が馬鹿にしている。

ゴールデンウィークの中日。
楽しそうなヤツを見るだけで腹が立つ。

何がコンサートだ。しかも野外で。
好きなら家で聞け!家で!
流れ作業のように誘導棒を振る。

「関係者駐車場」と「一般駐車場」の案内がこの日の仕事だ。

ドンドンジャーンと遠くの方から花火のような音が聞こえる。
「あー、音楽なんてしばらく聞いてねぇな。
何が良いんだか」
と、大津は舌打ちしながら呟く。

気温は上がりはじめ、ヘルメットの中は汗でじんわりとして来た。
音楽を全く聞かなかった訳ではない。
10代の頃はレコードも買った。

「あー、百恵ちゃんは良かったな、、、」
当時のテレビやラジオ、電気屋さんからクールな山口百恵の声が
聞こえてくると思わず口ずさんだことを思い出した。

あの頃はまさか60歳になって外で
駐車場の誘導をするとは思ってもなかったな。


「大津くん?」
「え?」この声は!
中学の同級生だった恵ちゃん。

「大津くん、ここで働いているんだ!
ビックリしたー!」
いや、ビックリしたのはこっちだ。

中学の時に好きだった恵ちゃんが
まさかコンサート会場に、、、

「何やってんだよ!!!」

大きな声にハッと我に帰る。

「関係者駐車場はどっちだって聞いてんだよ!!」
しまった、ボーッとしてた。

「こ、こっちです」慌てて赤い棒を振る。
チッ!と大きな舌打ちをしながら赤い車は通り過ぎて行った。

「バカにしやがって」
大津は声に出し唾を吐いた。

「大津!」とレシーバーから泉の声がする。
「はい」
「はい、じゃねーよ!さっき赤い車、関係者じゃねーだろーが!」
「え?」
「大津さん、確認したんすか?ちゃんと?ボーッとしてんじゃねーぞ!」

すいません、と小さく謝り
「なんでオレが」と心の中で毒づいた。

大体さっきの車の運転手が関係者って言うから通したのによ。
ふざけんな。
大津の中で怒りが込み上げてくる。

一台また関係者の方に進もうとしている車が来た。
「止まれ止まれ!」
赤い誘導棒を勢いよく振りながら止める。

サングラスをした色白のイケ好かない男が運転している。
窓が開くと
「関係者なんですが」と言ってきた。
ふん、そうはいくか。
「関係者はパスが必要なんですよっ!!!」
大きな声で言ってやった。

「あ、いや、これ」と男はダッシュボードに置いてある駐車パスの紙を見せる。

そういえば関係者はダッシュボードの上に
駐車パスの紙を
置いていると言ってたな・・・これだったのか・・・
と頭で考えながら口では
「見えるとこに置いておかなきゃ見えないだろ!!!」
怒鳴ってやった。
運転手の男はビックリして声も出ない。

けっ!情けないひ弱なヤツだ。
必要以上に勢いよく誘導棒を振りながら車を移動させた。

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と、言うのが僕のこのおじさんの妄想。
(長いよ!怖いよ!)
可哀想な人なんだな、と勝手に思うことで
自分の気持ちを成仏させる。

そして、野外で聞く、見る
アーティスト達のステージに
心癒され、嫌なことも忘れた。

まぁ腹が立つには立つが、
それに対しての反射神経が悪いので
すぐに言い返したり出来ないことが多い。

「ふーむ」と考えてしまうのだ。
損している気がする。
しかし、そこで怒鳴っても
何も生まれない。

それどころか
ヘタに喧嘩とかなり
殴られたりするのは嫌だ。

言葉は目に見えない
暴力にもなる。
でも
誰かを守る盾にもなる、
と思う。

さて、もう一人の
怒鳴ったおじさんの話、、、は
また今度。


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