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ファイナンス(企業財務)の基本⑩:事業価値評価で使う「残存価値」についてまとめてみた

前回は、「NPV法とIRR法の違い」に着目して、それぞれの特徴をご紹介しました。
今回は、少し細かい話にはなるのですが、事業(企業)価値評価で使う「残存価値」について、書いてみたいと思います。

まずは、前回までのおさらいです。

前回までのおさらい

正味現在価値法(NPV法)とは

NPV法とは、ある投資案に対して、投資案から生じる将来CFの現在価値から、初期投資額を引いた差額によって、投資の意思決定を行う方法です。
NPV法による投資の意思決定ステップは、下記となります。

  1. 投資案からのキャッシュフローを予測する

  2. キャッシュフローの現在価値を求める

  3. NPVを計算する(初期投資額を引く)

  4. 投資判断する。NPV>0:投資実行、NPV < 0:投資見送り

内部収益率法(IRR法)とは

IRR法とは、「投資によって得られると見込まれる利回りと、本来得るべき利回りを比較し、その大小により投資判断する方法」です。
IRR法による投資の意思決定ステップは、下記となります。

  1. 投資のハードルレートを決定する

  2. 投資によるキャッシュフローを予測する

  3. IRRを計算する

  4. 投資判断 IRR > ハードルレート ⇨ 投資する

NPV法もIRR法も「投資案からのキャッシュフローを予測する」というステップが入ってきます。DCF法ご説明時も含め、これまでは「自分で設定した期間(例えば5年)以降のキャッシュフロー」については、特に言及しませんでした(説明を簡単にするため)。

しかし、実際には、「X年目以降、キャッシュが全く発生しない」という事業活動はほとんどありません。(X年目以降に事業売却する場合も、売却時の売却益が入ります)

そこで、今回は「投資案からのキャッシュフローを予測する」において設定する期間以降のキャッシュフローの表現方法、すなわち、「残存価値の考え方」をご紹介したいと思います。

残存価値とは?

事業活動が生み出すキャッシュフローは、未来永劫すべて同じように予測できるものではなく、対象となる事業が生み出す製品やサービスのライフサイクルに応じて、ある時点からはキャッシュフロ ーの正確な予測が困難になります。

そこで通常、キャッシュフローの予測においては、売上や費用の推移、投資の有無等である程度の確実性を持って予測可能な期間を区切ります。

そして、その期間内では各年度のキャッシュフローを個別に予測し、「それより後の期間の価値」は予測期間最終年度のキャッシュフローとしてまとめて計上します。この「それより後の期間の価値」を「残存価値」といいます。

残存価値の算出方法には、大きく分けて下記3パターンあります。

  • 継続法
    事業がその後も長期にわたって継続すると考える場合

  • 清算法
    その年度で事業を清算すると考える場合

  • マルチプル法
    その年度で他者に売却すると考える場合

残存価値の考え方

一般的には、事業の継続で生み出されるキャッシュフローを現状に基づいて想定する「継続法」の方が、 陳腐化の激しさを見越すなど事業停止による資産の清算を前提とする「清算法」よりも、残存価値が大きくなる傾向があります。

逆に、清算価値として残存価値を見積もるということは、将来像をよりシビアに見ていると捉えることもできます。

一般的にどちらの方法を使うかは、評価対象事業の特性に依ります。
長期間継続する場合には「継続法」を、プロジェクトのように事業継続期間が有限な場合には「清算法」を使うことになります。

継続法と清算法

何年目以降を残存価値として算定するかはビジネスによって異なりますが、予測期間が短い事業ほど、事業価値の算定において残存価値の占める割合が大きくなります

近年のビジネスサイクルの早まりを考えると、残存価値算定の根拠を明確にした上で、事業特性に見合った的確な残存価値を算定することの重要性は高まってきています。

特に「継続法」を使用する場合のキャッシュフローの成長率については、永久にその割合で成長すると見込むわけですから、当然、事業のライフサイクル等を考慮して慎重に見積もる必要があります。

今回は、ここまでにします。
次回は、「割引率」について、少し詳しく書いていきます。

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