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戯曲「リホとアズ」

【登場人物】
・里穂
・梓

クリスマスイブの夕方。
若い女性2人がロープウェイの列に並んでいる。基本的にスマホを見ながら話している。


里穂 「私は生まれ変わっても女でありたいわ」
梓  「え、何急に。」
里穂 「ていうか、ロープウェイ乗り場ってあれやんな?」
梓  「あ、そう、あの駐車場の先の。」
里穂 「90分も並んでなくない?」
梓  「50分くらいやな。やっぱりあの係員のお兄さんわざと長く言ってたんやわ。」
里穂 「まあ、それにしても結構待つけどな。」
梓  「イブの夜やもん。」
里穂 「山頂まで上がらなあかんってのがね~。」
梓  「でも夜景きれいらしいで。」
里穂 「いいやん。」
里穂 「てかウチら下調べ甘すぎな~。」
梓  「ホンマそれ!」
里穂 「前の和歌山の時もそうやったやん。」
梓  「あの、あれな。アマルフィ事件。」
里穂 「かっこいい言い方よ。」
梓  「あれどこやっけ?」
里穂 「雑賀先ちゃう?」
梓  「そうそう、日本のアマルフィな。」
里穂 「アズが行きたいって言ったんやん。めっちゃ辺ぴな所やったし。」
梓  「だって、アマルフィって聞いたら行きたくなってんもん。あたしイタリア好きやから。」
里穂 「ホンマのアマルフィ行ったことあんの?」
梓  「ないよ。てか未だ日本の地しか踏んだことない。」
里穂 「何よ、その言い方。」
梓  「海外旅行行こうよ。」
里穂 「いいよ。あたしも20歳以来行ってないけど。」
梓  「パスポートって更新せんでいいの?」
里穂 「10年やからまだ行ける。」
梓  「見せてよ。」
里穂 「何でよ。」
梓  「写真見たい。」
里穂 「絶対無理。」
梓  「20歳のリホ見たーい。」
里穂 「無理!怒るで!」
梓  「ごめんって。でもイタリアマジで行きたいんよな~。」
里穂 「アマルフィ?」
梓  「そうそう。一回生で見てみたいんよね、あの写真でよく見る景色。」
里穂 「日本のアマルフィ見たやん。」
梓  「あれとは絶対違うやろ!」
里穂 「日本の○○って大概しょぼいよな~。」
梓  「他なんかあるっけ?」
里穂 「財津和夫・・・とか?」
梓  「誰それ。」
里穂 「日本のポールマッカートニー。」
梓  「いや、知らん。知らん過ぎてしょぼいかどうか分からん。」
里穂 「父さんが好きやねん。フォークの、なんか有名な人。」
梓  「へー。全然しょぼくないやん。」
里穂 「まあ、別に雑賀先もショボくはないけど。」
梓  「アマルフィって言われちゃうとね~。」
里穂 「そうやねんな~。んで、18時半にバス無くなるとか思わんやん?」
梓  「それ。あれはびっくりしたよ。」
里穂 「めっちゃ走ったもんな~。」
梓  「うちらはもうちょい下調べした方がいいよな。」
里穂 「それあんときも言ってなかった?」
梓  「言ってたかも。」

  二人とも無言でスマホを見る。

梓  「そういえばさっきのなんやった?」
里穂 「何が。」
梓  「生まれ変わっても女でありたい」
里穂 「ああ、あれな。」
梓  「急に何?ってなるやん。」
里穂 「いや、ふと思ってさ。女の方がモテる努力はしやすいよなって。」
梓  「まあ、ビジュアルは化粧で何とかできるからね。」
里穂 「そうそう。男は化粧できひんやん?」
梓  「してる人いるけど。」
里穂 「いるけど、目立つやん。」
梓  「それは分かる。ちょっと自意識の強さが出るっていうか、個性強すぎよね。」
里穂 「そう。別にそれが当たり前の社会ならいいねんけどさ。まだちょっと目立つやん?」
梓  「そうやな~。あ、でも私はちょっと男にも生まれ変わってみたいかも。」
里穂 「なんで?」
梓  「いや、可愛い女子と付き合ってみたい。」
里穂 「別に今でもできるで。」
梓  「あ、ほんまや。」
里穂 「私が付き合ったろか?」
梓  「50過ぎた時に彼氏も旦那もおらんかったら頼んだ。」
里穂 「任せろ。」
梓  「はい、ロープウェイ乗るで。」


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