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短編小説

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短編小説、ショートショート等をまとめています。
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短編小説「ヒーローソングが鳴り止んだ日」

短編小説「ヒーローソングが鳴り止んだ日」

第一章 戦えスネイクマン

俺の名前は南隼人。交番勤務をしている警察官である。しかし、俺には誰にも知られていないもう一つの姿がある。

バイクで巡回すると、至る所に同じ貼り紙を見る。
『ドラガーを排除せよ!』
龍神ドラガーはこの街に頻繁に現れる巨大怪人だ。市民からはあの怪人を早急に排除して欲しいという声が多数上がっている。
奴はこの街を破壊し、死者行方不明者も多数出ている。今もなおいつ現れるか分か

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ショートショート「Human-Being?」

ショートショート「Human-Being?」

「死んでから勝手に伝説にされるのはROCK’N ROLLERではない。生きて歌い続けて、世の中を突き動かすのが本物のROCK’N ROLLERだ。」
誰もが知るロックスター、Steve McClaneの名言だ。

知的学習ドロイドの開発者である私が、ロックスターの名言を語ることに違和感を感じる者もいるだろう。
しかし、そこには大きな意味があるのだ。
彼は27歳の若さでこの世界から消え去った。もう3

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ショートショート「五十男はよく待たれる」

ショートショート「五十男はよく待たれる」

自宅の電話を見ると、また留守電が入っている。
同じ番号、これで三度目だ。留守電を聞くと、若い男女複数人の声が入っていた。
「おーい!後藤ー!早く来いよ~!盛り上がってるぞー!」
「後藤く〜ん、早く来てね~!」
私は後藤ではない。
飲み会中のようだから、酔って掛け間違いでもしたのだろう。しかし、休日とはいえこんな深夜まで盛り上がれるとは。若さとは偉大だ。
時計の針は23時半を指している。あと30分で

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短編小説「4年のような10日間の恋」

短編小説「4年のような10日間の恋」

「もう、同じ日常を繰り返したくなかったの。あなたと付き合えば、何か変わるんじゃないかって、そんな気がしたの。」
彼女は駅のホームのベンチに座り、そう語りかけてきた。
彼女と出会ったのは13日前だ。でも、私には4年くらいの長さに感じられた。

職場の同僚が主催の花見で初めて会った彼女は、少しおどけた時がとても表情豊かで、はにかむ様に笑う笑顔がとても美しかった。人見知りしやすい私も比較的すぐに打ち解け

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ショートショート 「一生分のラブソングを」

ショートショート 「一生分のラブソングを」

その瞬間は、思っていたものとは違っていた。
自分の生命なんて普段の生活の中では意識しない。きっとほとんどの人がそうだろう。私だってそうだった。
だから、余命3ヶ月と告げられた瞬間も、私は「へぇ~。」と思った。
余命宣告というと、膝から崩れ落ちるようなショックを想像していたのだが、いざ自分が受けてみると大した感想も出ないものだ。
きっと実感が湧かないからだろう。当たり前にある物がいきなり3ヶ月後に無

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