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インド系文字における借用語表記用のDとT

4/26の【Dな日】にちなんで、インド系文字のDとTについて取り上げます。
インド系文字では《D》と《T》における借用語・固有名詞表記の使い分けがあり、そり舌音グループのDDA》[ɖ ダ]とTTA》[ɖ タ]は英語由来の借用語に多用される傾向にあります。
インド系文字におけるそり舌の字母を取り上げます。

そり舌音 : ダ【ɖ】/タ【ʈ】

英語からの借用語では、インドの諸言語のほとんどではそり舌音系の字母が使用されます。

■ダ【DD】/タ【TT】: ユニコード式ラテン翻字
■ダ【D・d】/タ【T・t】: ラテン - フィジー・ヒンディー語とディベヒ語。英語からの借用語は原則的に英語と同じ綴りで表記。
■ダ【Ḍ・ḍ】/タ【Ṭ・ṭ】: パーリ・ラテン - 日本ではインド諸言語表記用ラテン文字を用いる。
■ダ【】/タ【】: デーヴァナーガリー - サンスクリット語では語末が子音のみの場合、ヴィラーマを付加して《-ड्》[-ɖ ド]/《-ट्》[-ʈ ト]で示すが、ヒンディー語やマラーティー語などでは語末のヴィラーマは表記されない。
〔例:〖एंड्रॉइड/अॅन्ड्रॉइड/एण्ड्रोइड्〗Android - アンドロイド: 左からヒンディー, マラーティー, サンスクリット。〕
■ダ【】/タ【】: グルムキー - パンジャブ語アラビア文字では、ダ行は《ڈ》, タ行は《ٹ》に対応。
■ダ【】/タ【】: ベンガル - アッサム文字では歯音系列と同じ発音に変化している。マニプーリ語ではそり舌音が存在しないため、英語D由来は《》[d ダ], T由来は《》[t タ]で表記される。
■ダ【】/タ【】: ゾンカ・チベット - インド系文字とは、そり舌音系列子音字を使用して示す方式は共通。
〔例:〖ཝི་ཛརཌི།〗Wizard - ウィザード〕
■ダ【ᰃᰥ】/タ【ᰀᰥ】: レプチャ - そり舌音系字母が存在しないため、Kグループの字母と介子音記号RAとの合成で示す。ダは〈GRA〉, タは〈KRA〉が字母名。
■ダ【】/タ【】: マニプーリ - そり舌音が存在しないため廃字となった。現行表記では英語D由来は《》[d ダ], T由来は《/》[t タ/-t ット]で表記される。
■ダ【】/タ【】: グジャラート
■ダ【𑂙】/タ【𑂗】: カイティー
■ダ【】/タ【】:オリヤー - 語末は《-ଡ୍》[-ɖ ド]/《-ଟ୍》[-ʈ ト]と示すが、ヴィラーマが省略される場合がある。
■ダ【³・ட】/タ【】:タミル - 他のインド系文字と異なり、正書法上では有声・無声音は字母的に区別されないが、語中のタ行音は連字《ட்ட》[-ʈːa- ッタ]で示し、語末は《-ட்》[-ʈ ト]と示す。サンスクリット転写の場合、ダ行は有声音を示す上付き数字3³》または下付き数字3》を付加して示す。
〔例:〖டிராகன்/டி³ராக³ன்/டிராகன்〗Dragon - ドラゴン〕
■ダ【】/タ【】: テルグ - 語末は《-ద్》[-ɖ ド]/《-ట్》[-ʈ ト]と示す。
〔例:〖డెవిల్‌〗Devil - デビル〕
■ダ【】/タ【】: カンナダ - 語末は《-ಡ್》[-ɖ ド]/《-ಟ್》[-ʈ ト]と示す。
■ダ【】/タ【】: マラヤラム - 語末は《-ഡ്》[-ɖ ド]と示す。
■ダ【】/タ【】: シンハラ - 語末は《-ඩ්》[-ɖ ド]/《-ට්》[-ʈ ト]と示す。
■ダ【】/タ【】: パーリ - 同ルーツのビルマ文字では英語D由来は《》[d ダ], T由来は《》[t タ]で表記され、語末は[-ə ア]音を伴う。但し、パーリ語版ウィキペディアではデーヴァナーガリー文字で表記される。
■ダ【】/タ【】: オルチキ
■ダ【ޑ】/タ【ޓ】: ターナ - 右から左に表記され、英語DU由来のダは《ޑަ》[ɖə ダ], TU由来のタは《ޓަ》[ʈə タ]という風に母音記号が必ず付加される。語末は《ޑް》[-ɖ ド]/《ޓް》[-ʈ ト]と示す。
■ダ【ڈ】/タ【ٹ】: ウルドゥー - 現行字母に統一されるまでダ行は《ڐ》, タ行は《ٿ》と表記されていた。
■ダ【ڊ】/タ【ٽ】: シンド - デーヴァナーガリー表記で、ダ《》/タ《》に対応し、語末はドゥ《-डु》[-ɖʊ ドゥ]/トゥ《-टु》[-ʈʊ トゥ]とウ段音を伴う傾向が見られるが、アラビア文字表記では示されない。
■ダ【ټ】/タ【ډ】: パシュト

歯音 : ダ【d̪】/タ【t̪】/タハ【t̪ʰ】

日本語からの借用語はインドの諸言語のほとんどでは歯音系の字母が使用されますが、ダ行は英語の有声〈TH〉[ð ザ]に由来する借用語表記に用いられる言語が多数です (例外: グジャラート文字DHA》[d̪ʰ ダ])。
デーヴァナーガリー翻字ではエスペラント語なども歯音系で当てられますが、ドラビダ語族の各種文字体系はそり舌音系が使用されます。

■ダ【D】/タ【T】/タハ【TH】: ユニコード式ラテン翻字 - 英語の無声〈TH〉[θ サ]は、インド系文字体系では原則的に無声有気音のタハ[t̪ʰ タ]を使用。
■ダ【D・d】/タ【T・t】/タハ【TH・th】: ラテン - フィジー・ヒンディー語。英語からの借用語は原則的に英語と同じ綴りで表記。
■ダ【DH・dh】/タ【TH・th】/タハ【TTH・tth】: ラテン - マラヤラム語及びディベヒ語。ディベヒ語では英語からの借用語は原則的に英語と同じ綴りで表記されるのがルール。
■ダ【D・d】/タ【T・t】/タハ【TH・th】: パーリ・ラテン
■ダ【】/タ【】/タハ【】: デーヴァナーガリー
■ダ【】/タ【】/タハ【】: ベンガル - アッサム文字ではそり舌音系列と発音が区別されない。
■ダ【】/タ【】/タハ【】: グルムキー - パンジャブ語アラビア文字では、ダ行は《د》, タ行は《ت》, 有気音タ行《تھ》に対応。
■ダ【】/タ【】/タハ【】: ゾンカ・チベット - インド系文字とは、歯音系列子音字を使用して示す方式は共通。
〔例:〖ཝིལ་ ཨོ་ ད་ ཝིསིཔ།〗Will O' The Wisp - ウィルオーウィスプ〕
■ダ【】/タ【】/タハ【】: レプチャ
■ダ【】/タ【】/タハ【】: マニプーリ - インドの諸文字と異なり、英語からの借用語であっても、歯音字で表記される。
〔例:〖ꯀꯦꯂꯥꯏꯗꯣꯁꯀꯣꯞ〗Kaleidoscope - カレイドスコープ〕
■ダ【】/タ【】/タハ【】: グジャラート
■ダ【】/タ【】/タハ【】:オリヤー
■ダ【³・த➡த】/タ【】/タハ【²・த➡த】:タミル - 他のインド系文字と異なり、正書法上では有気・無気音は字母的に区別されない。語中のタ行音は連字《த்த》[-t̪ːa- ッタ]で示す。サンスクリット転写の場合、有気音[-t̪ʰa- タ]は上付き数字2²》または下付き数字2》を付加して示す。
■ダ【】/タ【】/タハ【】: テルグ
■ダ【】/タ【】/タハ【】: カンナダ
■ダ【】/タ【】/タハ【】: マラヤラム
■ダ【】/タ【】/タハ【】: シンハラ
■ダ【】/タ【】/タハ【】: パーリ - 同ルーツのビルマ文字では英語TH由来は《》[t̪ タ/d̪ ダ]で表記される。
■ダ【】/タ【】/タハ【ᱛᱷ】: オルチキ - 有気音は無気子音字のあとにオホ《》を付加して示す。
■ダ【ދ】/タ【ތ】/サ【ޘ】: ターナ - 英語THと同じ音を示す字母に《ޘ》[θ サ]と《ޛ》[ð ザ]があるが、英語由来の借用語及び固有名詞での使用はまれ。但し“The”は原則的に《ޛަ》[ザ]と表記。
■ダ【د】/タ【ت】/タハ【تھ】: ウルドゥー - 英語の無声TH[θ サ]に対応するアラビア文字《ث》[s サ]は英語借用語表記に使用されず、タ行《ت》にヘー・ドゥーチャッシュミー《ھ》を付加して示すが、パシュトー語では《ت》[t タ]をそのまま用いる。同じく英語の有声TH[ð ザ]に対応する《ذ》[z ザ]ではなく《د》[d ダ]を用いる。
■ダ【د】/タ【ت】/タハ【ٿ】: シンド - デーヴァナーガリー文字のダ《》/タ《》/タハ《》に対応する。