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時間と空間を伴う音楽体験に魅了された話

※固いタイトルですが、ただのライブレポートです。
※敬称略

  先日、須田景凪氏の単独ライブ「須田景凪 LIVE 2022 "昼想夜夢"」の大阪公演が、大阪・オリックス劇場にて開催された。

須田自身初のホールツアー「須田景凪 HALL TOUR 2021 "Billow"」以来約1年振りのライブ。2022年に入ってから怒涛の勢いで楽曲公開される中、1年振りの今須田景凪は何を語り、聴き手に何をもたらしたのか。

午後18時前、オリックス劇場前には、ライブをいまか今かと待ち望んだ過去のライブグッズや先行販売された昼想夜夢のグッズを身に纏ったファンが溢れかえっていた(虫の数はそれ以上にいた)。入り口に入ると、来場者に検温・消毒が行われ、客席は私語厳禁、一席空いた状態でソーシャルディスタンスを取りながらも、ファンの熱量が劇場を覆っていた。

注意:以下セトリ・演出等ネタバレを含むので、東京公演を控えている方は閲覧を控えることを推奨します。また脚色かかった表現・誤った表現をしている場合があります。あらかじめご了承ください。


1.Alba  
 
開演時刻を過ぎると今回のキービジュアルである昼想夜夢を模様した映像がスクリーンに流れ出し、スクリーンの裏には、サポートメンバーである、モリシー(Guitar/Awesome City Club)、雲丹亀卓人(Bass/Sawagi)、矢尾拓也(Drums/Nanakamba)と白いガウンを羽織った須田景凪の姿が。自然と立ち上がる観客達が拍手で迎える中ライブの幕開けを飾ったのは、ポップ調の楽曲「Alba」。いつも画面上で聞こえてくる声が、くっきりと張り出す声で聴こえてくる。以前のインタビューの中で須田が「百人百様の日々を肯定する楽曲にしたい」と話していたこの曲のポジティブな印象が1年間のタイムラグを埋めるかのように会場を包み込む。 

2.ノマド?  
「Alba」が終わり、ノマドのイントロが聞こえてくる中、「須田景凪です。今夜めちゃくちゃ楽しみにしていました。とラ感謝の言葉を観客に投げかける。「ノマド」はプロジェクトセカイ(通称、「プロセカ」)に楽曲提供されたバルーン名義の楽曲であり、Youtube上ではミリオンを迎えている。ノマドのイントロが終わる中、須田の口からは、

「思い出すのは 砂を噛む様な 茹だった焦燥と」

2.MOIL
  
まさかの「MOIL」。大人になってしまったみたいだ。子供から大人になっていると、裏でかかっていたノマドの音源がうっすらと消えている。須田マジック。なんと「MOIL」のR &Bセンスあるグルーヴィーな曲へと移り変わっていた。粋な演出をする須田が憎い。ハンドマイク一本で語る須田の姿は1年振りのライブを心待ちにしていた観客に応えるようだった。
また「どんな形で どんな言葉で」と曲の特徴でもある掛け合いの部分では、雲丹亀・モリシーによるカバー。熱気が会場を包み込む。

3.鳥曇り                                                                                                                        須田名義での初のアルバムである「Quote」収録曲であり、須田オタクから絶大な支持を受けている一方で「須田景凪 TOUR2019 追加公演 "teeter"」以来ファンの前で演奏されることはなかった「鳥曇り」。また聞けると思わなんだ。モリシーのジャキジャキとしたエレキギターの音が鳴り響き力強い音と共に響いてくる。会場からは手拍子自然と湧き起こり、ソリッドでグルーヴィーなナンバーをアグレッシヴに繰り広げる須田は笑みを浮かべながら歌い切る。
(哀愁漂うラスサビの「あー↑あー↓あー→あー↓あー↑」が聞けて大満足。)

4.雨とペトラ
 
間髪入れず流れてきたのは、バルーン名義の代表曲「雨とペトラ」の印象的なイントロ。点滅する青い照明に照らされながら歌う須田。Cメロの「雨が降ったら 雨が降ったら」のフレーズでは白い照明が須田を局所的に照らし一気に視線を集め歌い上げた。(鳥曇りの衝撃であまり覚えていない。)

ーMCー

須田:「改めまして須田景凪です。めちゃめちゃめちゃ楽しみにしてました。あっという間ですが全力で楽しみましょう」とはにかむ須田。
どこまでも聞き手を大切にする須田の音楽のポリシーが感じられる物腰低い挨拶であり、観客からは自然と拍手が巻きおこった。

5.アマドール  
「今は黙っていよう 君が苦しいのならば」

そんな温かなMCを経て歌われた楽曲は「アマドール」。須田名義で初めて発表された楽曲であり、モリシーとのハモリによって重厚感を増したサウンドがよりこの曲の切なさを生み出す。それに応えるかのように、会場では拍手がリズムを生み出し、会場がしんみりとした雰囲気に包まれる。っぱQuoteよ。

6.Vanilla
「Billow」でのリリース以降すっかりとライブの定番曲となった落ちていく音が印象的なナンバー「Vanilla」。センセベースで繰り広げられるサウンドと矢尾のドラムパッドの融合が、須田の歌声と混ざり合う。また背景のプロジェクターには文字が次々と映し出され「Vanilla」の幻想的な雰囲気を一気に作り上げる。サビの独特の音階上昇がライブ音源によりクリアかつ濃厚に聞こえてくる。

7.終夜
 現在公開されている『"Dog Star 君と見上げる冬の星座たち"』の主題歌として書き下ろした楽曲「終夜(よもすがら)」。「月明かりに 消えそうな」とそっと告げられた声とともに、一人の少女が映像に映し出される。??? 

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「この夜は 二人だけのものだ」

良すぎる。今回のライブで演出含めて一番良かった。須田の丁寧な音を汲み取る歌声に観客誰もが自分のために歌ってくれていると思ったのではないだろうか。少なくとも自分はそう思った。バンドの静かなサウンドと映像の幻想的な雰囲気が会場を包み込む。あまりに良い。これまでのどの楽曲よりもシンプルなサウンドで構成された曲であり、須田の唯一無二のクリアな歌声と映し出される映像に観客は釘付けにされた。もう胸を締め付けとるが。

8.ノマド
 
今回はちゃんとノマド。「終夜」の幻想的な雰囲気を引き継いだまま「ノマド」のイントロへ。アボガド6制作のPVが映し出され、初公開となるセルフカバーの優しい歌声に観客を虜にしていく。(聞き入ってて覚えていない。)

-MC-

  須田:「楽しんでおりますでしょうか。ワンマンライブから1年が経ちました。この間皆さん元気でした?」と、はにかむ須田。
須田:「去年との明確な違いがあって、すごい最近とても(かわいい)、人生で一番ピュアに音楽を楽しんでいるなと思っていて、皆さん今までで一番楽しんでもらいたいなと。
これからうるさい曲や早い曲をやるんですけど、自分の形でバグってもらえればなと(笑)」

一同拍手。                               「自分の形でバグってもらえればなと」←この言い回し須田景凪過ぎる

9.無垢
 
会場に鳴り響くノイズ音が開け鳴り響くのは、先日公開された『神様のえこひいき』主題歌「無垢」。須田の楽曲には珍しいEメロまであるが、男女の両者のぶつかりやフラストレーションが表されている。矢尾の強いドラムのリフと合わさって一気に引き込まれる。焦燥感が照明と共に強く感じられた。

10.ポリアンナ
 
すかさず手を上で叩く雲丹亀による手拍子を促す煽りに釣られ、繰り広げられたのは再び「teeter」公演以来となる「ポリアンナ」。楽観的で、自分が抱える想いに気づかないあなたを嫌おうとしても、どうしても手放せない好意が残り、完全に否定できずに複雑化する内面を歌った一曲。まさか再び聴けるとは。照明による激しいライトアップと須田の吐き捨てるかのような歌声、会場の手拍子が合わさってボルテージが最高潮を迎える。一生分の「嫌いだ」を摂取できる良曲。

11.レド
 須田は休ませない。間髪入れず再びアップチューンな楽曲「レド」。「レド」の力強いロックンロール感が、ライブ空間を高揚感に包み込んでいく。須田の過去のライブ参加者は知っていると思うが、雲丹亀の1番終了リフ「正解などないな」に合わせたギターを合わせた大ジャンプがある。参加するライブによって個人差があるが、昨日はアルファベットの「C」に限りなく近く、丸みを帯びていた。

須田:「楽しいですね。皆さんが知っている曲をやるので、声は出せないんですけど、心の中でぶち上がってください」

12.シャルル
 バルーン名義での代表曲「シャルル」。モリシーのゆったりとしたリードによって歌詞が紡がれていく。余韻がゆったり取られ、これまでのどの曲よりも丁寧に濃密に歌い上げる(Billowの時の比じゃない)。一小節最後の「笑って」を皮切りに矢尾がカウントを鳴らし、一気にダイナミックなサウンドへ。1オクターブ異なる音程差を12曲目にして完璧に歌いこなす須田。

13.パレイドリア
「シャルル」の最後の音から矢尾のドラムを中心に途切れないまま繋がったのは、疾走感溢れるビートが感情を揺さぶらせる人気曲「パレイドリア」。この「シャルル」から「パレイドリア」というムーヴは頻出である。会場の躍動感はさらに高まり、観客の手拍子はより大きなものへ。

ーMCー

須田:「最近見てられない様なニュースとかいっぱいあるじゃないですか、とはいえでも声が出せないだとか世界が不気味な状態になるとか、いずれなんとかなると自分は思ってる。」
須田:「仮になんとかなったとしてそれ以降の世界になっていくじゃないですか。前にもどることは絶対ないけども、自分は多分ほとんど絶対音楽をつくっているので、なるべく全員その時にあったことや経験が混じりあってければいいなと思っていて。ほんとに共に行けていけたらいいと思うので、ハイこれからもよろしくお願いします。」

どこまでも聴き手を思いでありながら、音楽をつくり続ける野心家としての須田の本音が聞こえた。以前のインタビューでも話していたが、『来てくれた人たちとしっかり対話をして、少しでもいい形にしたい。コロナ禍でも全力で楽しめるものにしたい。』というライブに向ける思いはひしひし伝わってきた。

14.猫被り
 MCで語った思いを吹き飛ばすほどの清々しい一曲「猫被り」。Aメロとサビで一気に曲調が変わることが印象的な楽曲。自分には謙虚に振る舞う須田の一面と音楽家としてコロナ禍であってももっと自分の道を広げたい・共有したいことが二面性として、猫を被っているのではないかと考えた。あなたの語る美しさを少し分けて欲しい。

15.パメラ
 
間髪入れず流れ出したのは、昨年秋の『The VOCALOID Collection~2021 Autumn~』(通称「ボカコレ」にてバルーン名義で発表した楽曲「パメラ」。ダイナミックな歌とアンサンブル越しに、須田の音楽とアボガド6の大画面な映像が融和され力強いサウンドが会場を満たす。
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ここでモリシー・雲丹亀・矢尾が舞台袖へ退場。須田は両手に手を合わせ(ライブ中めちゃくちゃこの仕草多かった)「ありがとうございました(小声)。」と一言述べてからゆっくりと退場。すると会場からはアンコールを求めた手拍子が‥

3分ほどアンコールを求める手拍子(手がありえない程痛い)の後、今回のツアーグッズのTシャツを身に纏った4人の姿が!!!

須田:「うにさんのアンプが壊れたっぽい」
須田:「本番でうにさんのアンプが壊れてしまってね。リハでアンプが壊れ、僕のピックが割れ。」
須田:「怖いっすね」
雲丹亀:「怖いねんなー」
ー20秒ぐらいウニさんのアンプを直す作業が公開される(この間沈黙)
モリシー「(ギターを鳴らして)ウェーイ」
須田「いぇーい」
っぱモリシーよ。
須田「改めてあと数曲やらしてください。」
16.メーベル                                                                                                           矢尾の激しいドラムを筆頭に繰り広げられたのは、バルーン名義の代表曲「メーベル」。ギターのジャンキーな音色がとてもライブ映えする。(聞き入っててあまり覚えていない。)
17.veil
 「メーベル」の終わり音とともに、アッパーな疾走感が印象的な楽曲「veil」へ。モリシーとのハモリは言わずもがな、バンドとしての一体感は一番感じられた。(聞き入っててあまり覚えていない。)

ーメンバー紹介ー
須田:「ギター AwesomecityClub:モリシー〜」
モリシー:小さくお辞儀。(これまではギター鳴らしていた希ガス)
須田:「ベース 雲丹亀拓人ー」
雲丹亀:すかした顔で一礼。 
須田:「ドラム 矢尾拓也ー」
矢尾:軽い会釈
変に飾らない感じバンドマンでとても良い。

ーMCー
須田:「北海道とか仙台とかいけなくなってしまって〜 去年ぐらいからライブがピュアなもの、自分もライブみたいでやることがすごく楽しみになってきた。バンドのようにやることがとーっても楽しい。どこでも行きますので、時間があったらこうして、また一緒に共にライブともにつくってください。
本当にありがとうございました。」

18.密
 とてもシャープでニュートラルな切り口で奏でられたのは、1stアルバム「Quote」でもトリを飾る楽曲として採用されている「密」。初ライブと重なってうるっとくる。2番「また 大嫌いな 夏が来る」では声が震えて聞こえてきた。

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須田:「皆さん帰り気をつけて帰ってください。
また 必ず 会いましょう。
ありがとうございました。   」

 「さよならを 誓った」 後に「また  必ず会いましょう」はずるいね。 

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タイトルについて
 現代の音楽においては、時間や空間を誰かと介することなく、聞くことも楽しむこともできる。サブスクなんてはその典型例でCDを買わずとも、音楽アプリ一つでどこでも音楽を楽しめる。自分はこれまでライブとはこの範疇であって、アーティストへのある種の還元の様に思っていた。ライブグッズを購入する・足を運んで生の音楽を聴いてその対価としてお金を払うものだと感じていたし、それがアーティストとファンの関係性の一つの形だと思っていた。ただライブはアーティストとファンが一緒に作るものだった。その限定性というか時間と場所を介することの喜びとか楽しさを体感することがでできてよかった。

 この日に披露したのは全部で18曲。そこにあったのは、聴き手を尊重する姿勢を崩さずに、自分自身の可能性を切り開いていく須田景凪の今でしかなかった。聴き手の内側に寄り添う音楽は、4年前の東京・WWWでのライブから変わっていなかった。誰かとの共通言語になりたいという須田の音楽的なポリシーは揺らいでいない。

 ライブ終了後には、サプライズで5月13日に「ノマド」のself coverのリリースが発表された。音楽の在り方を見直すと共に、新たな音楽シーンを描き出していく須田景凪の音楽をより楽しみにさせる一夜だった。
 感動をありがとうございました…

「須田景凪 LIVE 2022 "昼想夜夢"」 5月6日 大阪公演 セットリスト 
1.Alba
2.MOIL 
3.鳥曇り
4.雨とペトラ 
5.アマドール
6.Vanilla
7.終夜
8.ノマド
9.無垢
10.ポリアンナ
11.レド
12.シャルル
13.パレイドリア
14.猫被り
15.パメラ
ーアンコールー
16.メーベル
17.veil  
18.密