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【サビ(た)小説】迷いし、タケシ

朝8時。ここは北千住駅。
JR、東武、東京メトロ、つくばエクスプレス、と4路線が交差する、東京都内のターミナル駅である。
有名アーティストのあいみょんが「ハレノヒ」という曲で歌った場所としても知られている場所だ。

「はぁ、朝早いとつらいなぁ」
声にならない声。つまり頭の中の独り言だ。

JR常磐線を降りて、東武の改札を通って、エスカレーターを登って6番線のホームに上がると、タケシはさらに憂鬱な気分になってきた。

地下鉄の日比谷線に接続するこの路線、北千住駅からは始発電車も出ている。座って通勤したい人たちが個性のなさそうな顔つきで、スマートフォンに指を這わせながら、下を向いて並んでいるのだった。

並ぶといっても、電車のドアの前に2列で並んでいるわけではない。
6列になってホームに列をなしている。一番右の2列が、電車の到着とともに吸い込まれていった。
すると、残りの4列が右にずれていく。ベルトコンベアのように。

ベルトの上のモノのように移動するタケシは、このひとときがたまらなく嫌だ。
隣の7番線からは、埼玉県方面からやってくる電車に乗れるから、並ばなくても乗車できるんだけど、車内はすし詰めだ。タケシは座って通勤したいのだ。

行く先は六本木。
それなりに時間がかかるから電車の中で寝たいのである。

寝て移動したいがためにホームで20分待っている。2本の始発電車を見送って、ようやく座れた。ベストポジション、端の座席だ。よっかかって寝れる。

おもむろにカバンからブルートゥースのイヤホンを取り出し、スマートフォンで音楽を聴き始めた。
聴くのはいつも同じプレイリストだ。うとうとするような曲が続くけど、六本木の手前、神谷町あたりで目を覚ますべく、元気が出るような曲が再生されるように、お気に入りの曲を並べている。

落ち着いた雰囲気の、アコースティックギターの優しい曲が耳を伝わってくる。タケシの好きなヒーリングナンバーだ。後ろには大きな海を感じさせるような心地よいバックサウンド。歌詞はない。

ノイズキャンセリング機能がついてるから、地下鉄のうるさい音も心地よい音に抑えられている。
いつものように、一気に眠りに誘われ・・・

たかのように思えた、その時だった。

「・・・より・・・かなく・・・」

夢心地の中、いつもと違う、かすかな歌声が流れてきた。

ん?と思ったタケシは瞼をあけようとすると・・・

「だめ・・・」

確かに聞こえた。聞き覚えのない、女性の声だ。
でも、電車の中の乗客の誰かとは思えない。

アコースティックギターの音はいつしか、浜辺のさざ波のような音になっていた。
そして時折、断片的なギターの・・ん?ギターじゃない。これは・・・ハープの音だろうか。

タケシは、声の主が気になった。
薄れかけたメロディが、気になった。

いつしか、夢の中にいる自分に気が付いた。
青い空、青い海、そして白い砂。
ここは浅瀬みたいだった。

そのメロディが聴こえる方向へ、感情の赴くままに足を運んだ。
その歌声は、どこか切なくて、何かを探しているようだった。

少し遠くに、ポツンと岩のようなものが見えてきた。
そこに、誰かがいるようだった。

その姿が確かに見えたとき、今歩いてきた後ろ側から、また違う音が聴こえてきた。
元気な男性ボーカルの歌声の、軽やかなポップスだ。

「待ってくれ! 今聴きたい音楽はお前じゃない!」

タケシは叫んだつもりだった。
あと300mくらいだろうか、ぼんやりと薄れかけていく光景の中で、タケシは声にならない声をあげた。

金色の長い髪・・整った顔・・・そして・・

「・・・人魚?」

気がつけば、タケシがお気に入りの、朝のナンバーが耳を覆っていた。
そしてその奥から

「The next station is Roppongi...H-04...」

夢の中の声とかけ離れた、機械音の、はっきりした女性っぽい音声で、自分の居場所をタケシは認識した。

タケシは名残惜し気に瞼を開けた。スマートフォンをタップして、音楽再生アプリを止めた。
画面左上に小さく書かれた時計は、いつもと変わらない朝の時を刻んでいた。

いつしかもう、電車の中は空いていた。途中の駅で、おおかたの乗客は降りたのだろう。
目の前の光景は、緑色の7人掛けの長いすに数人が腰かけている、いつもの風景だった。

あの娘に、会いたい。

タケシは心から思った。


なんか界隈、人魚姫ブームのようですね(笑)
そしてまさかの、note初の小説の投稿です。

いや、これ小説です、とかいうのもおごがましいし、普段書かないので、これは「作文」みたいなものです。
なんとなく「サビ小説」ならぬ「サビた小説」ってことで(笑)

タイトルだけは拙作オリジナル曲「迷いしマーメイド」のパクりです。

サビ小説とはもはやまったく関係ないのですが、サビ小説に関わるクリエイターさんの熱量に影響を受けて、普段やらんことをちょっとだけやってみたくなりました。

いつもの脱線お遊びですので、マガジン追加等は不要です。
続きがあるかは、分かりません(笑)

ボキャブラリに乏しいど素人の駄文です。なので、つまらんとか言葉が変とか、いじめないでください(笑)
こんな文章でも最後まで読んでくださった方がいましたら、ありがとうございました^^


追記
マガジン追加ありがとうございました!m(_ _)m

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