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君はギターソロなんて聴かない

ギターソロを飛ばすのだそうである。
なんのことかというと、音楽を聴いていて途中でギターソロが始まったら次の歌まで飛ばすのだそうだ。
ソロがいいとかわるいとか以前に、楽曲とはそもそもメロディーや歌詞や演奏やアレンジやその他もろもろ全て合体した形で完成品なわけで、途中を飛ばして聴かれる時点でもはや邪道としか言いようがないとは思う。でもギターソロ以前に実はいわゆるロックがチャートで目立たなくなって久しいのだ。僕はベストヒットUSAを毎週楽しみに見ているけどカウントダウンUSAのコーナーで現在のトップ20をみてもそこにいわゆるロック系が入ってくることはほぼない。ヒップホップやEDM、ファンク&ソウル、R&B、あるいはテイラー・スウィフトやアデルのようなディーヴァたちの新作とかは話題になるけれど、ストーンズやブラッククロウズみたいなのが入ることはない。もうかれこれ20年以上はロックが売れない時代なんですよ。

ジェフ・ベックがなくなった。すっかり白髪のおじいちゃんになったジミー・ペイジやエリック・クラプトンに比べ、体型も変わらず常に新しいチャレンジをし続けるジェフは3大ギタリストの中で一番長寿だろうなと思えた。皆そう思ってたはずだ。なのに突然の訃報には驚いたし悲しい気持ちになった。めちゃくちゃベック好きというわけではないしアルバムも全部持ってるわけではないが、なくなった日からは毎日聴くようになった。
しかしもっと驚くべきで悲しむべきことは実はこの訃報そのものではなく、世界で最も偉大なロックギタリストの早すぎる死に対して世間で衝撃を受けているのはほぼ50代以上に限られると言うこと。ショップで追悼コーナーがつくられても立ち寄っているのはおっさんばかり。若い音楽ファンにとって大したヒット曲もなくフュージョンやロカビリーやギターインストなどのマニアックな世界をひた走る孤高のギタリストはほとんど認知されておらず、訃報が話題にすらなっていないのが現実なのだ。

そういうこともあってもうロックは時代に必要とされる音楽からは後退したんだなという事実の前には「ギターソロを聴かずに飛ばす」人が続出するのもほぼ当然のことだとあきらめの境地になっている。かくいう僕だって長いだけのソロは昔も今も嫌いだ。クリームみたいなライブで延々ソロを弾いているのはこりごりで、同じ曲でもソロが短いからライブよりスタジオテイクの方が好きだという曲はいっぱいある。たとえばZEPの狂熱のライブとか映像なしで延々アドリブを聴かせられるのは確かにつらかった。名曲「天国への階段」は完全に計算された史上最高のギターソロの一つだけどあれだってライブでは冗長にジミーはアドリブを弾きまくるだけなのでいつも途中で飽きてたもん。

それでもロックには基本的にはギターソロが必要だと思ってたし、お、ここでソロだなというタイミングで低音を震わせるサックスとかキイキイしたハーモニカとかのソロが入ってくると「うえぇー」とか思ってた。サックスはなんかナイトクラブっぽくなるし、ハープはカントリーみたいで嫌だなと思ってた。やはりロックとはギターなのだ。

ドン・フェルダーのソロはどれも緻密でテクニカルでメロディアスで音色も太く官能的でいつもワクワクする。「呪われた夜」や「ホテル・カリフォルニア」なんて何度CDに合わせてコピーしたことか。「グッバイエレノア」や「ロザーナ」などのソロでスティーブ・ルカサーはロックギターのスリリングな魅力を提示してみせた。「クロスロード」や「リトルウイング」は完コピでないと人前で気軽にひいてはいけないと言われるくらいシグネイチャーな曲。いつだって良質なギターソロは僕らの胸を熱くした。

しかし。しかしなのですよ。
もう時代は変わった。ライブで対バンのアマバンを見ててもソロをかきならしているのはおっさんギタリストばかり。若い人はコードやリフしか弾かない。メンバー募集のサイトでロック系のバンドを見つけて音源が置いてあるYouTubeを見に行くとロン毛で革ジャンきたおじいさんがここぞとばかりにソロを弾いていて暑苦しくて見てられなくなってパタンとPCを閉じることも増えた。僕自身、バンドでソロを弾くときには周囲の目を気にするようになった。「長すぎない?」「早く終われとか思ってない?」と。まるでどこまでがセクハラやパワハラのラインかわからずおどおどしている中間管理職のようだ。そんな言葉があるのか知らんがソロハラになってないかやたら神経質になってしまう。

ユキヒロがなくなった。こちらも本当にショックだった。彼こそ騒々しいギターソロが鳴りまくるロックから暑苦しさを抜いたおしゃれで涼しげなポップを世に出した才人だった。THE BEATNIKSとか本当によかった。ソロの「音楽殺人」は今でも聞く名盤。テクノポップの旗手が、テクノロジーに音楽センスを載せて世に送り出したエバーグリーンだ。YMO以降、80年代、90年代においてもすでに冗長で重苦しいロックやロックギターソロではない音楽がどんどん支持されてたし、僕もそういったクールな音楽のファンだった。なので今に始まったことではない。違いといえば、当時は様々なジャンルが共存してたがいまでは一方が排除されているだけに過ぎない。ロックはいま恐竜のように絶滅しようとしている。

でもね。フワフワしたシンセ音や電子ドラム音やボコーダーによる人工ボイスなどが溢れかえるポップの玉手箱のようなあの「音楽殺人」で実は僕が一番心をつかまれたのは大村憲司や鮎川誠や佐久間ハジメなどの奏でるギターだったことは書いておきたい。歪みまくったギンギンのギターソロなどはないけれど、リバーブとコンプが効いたクリーントーンのソロのかっこいいことったら。

これからロックは、ギターソロはどうなるのか、まあ衰退していくんだろうな。それでもいつか、あの軽い音楽ばかりがヒットチャートを賑わせていた時代にガンズが突然現れスラッシュがオールドスタイルなハードロックギターの魅力を一気に復活させたみたいな歴史的な事件がおこるかもしれない。そのことに期待したい。


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