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妊活が憂鬱

赤ちゃんのいない産休を終え、ぬるっと職場復帰した。
社員の殆どが在宅勤務をしているため、文字通り「ぬるっ」とした復帰だった。
復職前面談では、人事(女性)と上長A(女性)から

「いずみさんが長期休業をした理由、つまり死産されたことは、私たち2人と上長B(男性)、社長(男性)しか知りません。もしかしたら雑談の中で休業理由について聞かれて、辛い思いをしてしまうかもしれませんが、その時は遠慮なく相談•休憩を取ってくださいね。」

と、とてもとても優しい口調で説明された。
実際、今のところは誰にも休業について理由を尋ねられていないが、私は難病患者であることを職場でオープンにしているから、病気が悪化して休んでいたと思われているかも。


そんな訳で、何事もなかったかのように仕事をしている。私が産休中にちょうど評価期間が被っていたのだが、有難いことに昇級&昇給しており、復職後のキャリア面接でもしっかり戦力として扱ってくれた。
それがとても嬉しくて。今は新しい仕事を積極的に覚えている。


週末は入院中に電話してくれた友人らが遊びに来てくれて皆でボードゲームをしたり、鍋パをしたり、たくさんお酒を飲んだりして、私は今、普通の生活を謳歌している。楽しい。


思い返せば妊娠している5ヶ月間、これまでの人生でも稀なレベルで楽しくなかった。


母子手帳を見返せば、悪阻のこと•ベーチェット病の関節炎が痛くて辛いのにコルヒチン(妊娠中禁忌)が飲めないこと・救急車で運ばれて腎臓が腫れていると判明したこと•夫とバチクソに喧嘩したことなど、とにかく悪いことばかり書かれていた。
キラキラマタニティライフとは程遠い。
自分の子どもが産まれるかもしれない!!という好奇心でワクワクしていた時期も確かにあったが、母性は目覚めなかった。


退院後1回の生理が終わり、産科の先生からOKも出ていたし、夫からの強い希望で避妊をまたやめた。
排卵日をより正確に予想するために、基礎体温を測らない?と夫から提案されたが、そんな性行為は全然ロマンチックじゃない、エロくない、嫌だと拒否した。
あとは体温を測ることで自然と自身の難病であるベーチェット病とも向き合う事になるなと思って、想像するだけでもウンザリした。毎日毎日たくさんの薬を飲んでいて、これ以上“病人”ぽいことを日常に取り入れたくない。ついでに言うと体温は測っても無意味だろうと思っている。ベーチェット病のせいかわからないが、私は疲れるとすぐ熱が出る。


だから夫は最近、爆速定時退社を遂行しつつ、ほぼ毎日お誘いしてくる。
夫は「妊娠」を期待している。


憂鬱だ。
夫のことは異性として大好きで、夫とイチャイチャするのだって大好きだったのに。


妊娠したら仕事をセーブせざるを得なくなる。通院回数も、第一子のことがあるからきっと増えるだろう。お酒も飲めない。友達とも気軽に遊べない。腎臓に石もある。
安定期なんてものはただの神話で、医学的には存在しないと身を持って知ってしまった。


生理もなく、妊娠もせず、出産もせず、流産も死産も全部他人の身体で、「気持ちいい」だけで子孫を残せる夫のことが、ズルくて憎くて羨ましい。


夫の綺麗な顔が快感で歪むのを見下ろすのが何よりも興奮する筈なのに、最近はそんなドス黒い感情が渦巻いて、セックスに集中できない。

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