スタバは特別な場所だった、その2
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一度スターバックスの前に行ってからというもの、どうしてもスターバックスでコーヒーやキャラメルなんちゃらや、なんとかフラペチーノを飲みたくなった。
また梅田に行く機会はあった。というよりは暇だったので、暇さえあれば電車に乗って、ウィンドウショッピングをしに梅田のHEPファイブに行っていた。赤い観覧車、赤い建物、赤いくじらのオブジェ、流行りのファッション、お洒落なショップ店員。10代最後の年齢の自分が、これでもかというぐらい色んなものを吸収して、見て、体験せよ、と自分の本能が言っていた。これから楽しく生きていく為には、自分自身で色んな事に目を向けよ、と。
が、スターバックスでコーヒーを飲む事は未だにできなかった。何度か目の前まで行ったけど、満席だったり、あと一歩の勇気がでなかったり。情報はある程度浸透していたけど、今現在の恐ろしいほどの情報網に比べると、不十分だったと思う。なんせ「ググる」なんて言葉がでてくるのは、遠い未来の話だからだ。
友達の体験談で「スターバックスはこんな所だったよ、よかったよ」という確かな答えがない事には、踏み出せなかった。19歳、色んな事をしたいのに、そこは踏み切れなかった。
何度目かのスターバックスに挑戦。店の前まで行っては、諦める日々。優柔不断、石橋を叩いて叩きまくって割ってしまうような性格が、前面に出てしまっている。
やっと、スターバックスのコーヒーを飲む日がきた。いつものようにヘップファイブに行った。目的は「スターバックスのコーヒーを飲む事」
お店の前で、まごまごしていてもしょうがない、やるっきゃない。吹っ切れたのかなんなのか。空席が多少あったら、という自分の中での条件付きで、エスカレーターを何度も折り返し、スターバックスコーヒーのある7階に向かった。エスカレーターを昇りながら、赤いくじらのぶらさがっているオブジェをがだんだんと下になる。ああ、大きいな、親クジラと子供のクジラ・・・とか、どうでもいい事を思う。
少し年齢に不釣り合いな、ヒールの高いミュールをカツカツ鳴らしながら。心臓の高鳴りを誰にも知られないように、颯爽と歩いて7階のスターバックスの前にやってきた。普通に歩いているつもりだが、内心は仁王立ちで「たのもーーーーーーーー!たのもーーーーーーー!」と道場破りの気分である。
「ほな行くで・・・!」と心の中で唱えた。少し硬いオークブラウンのフローリングに足を踏み入れる。コツン、と控え目にヒールが鳴った。
コーヒーのいい匂いが漂う店内。レジにはお客はが2組か、3組か。席は十分に空いている。すっと、昔からそうしていたようにレジに並んだ。前の前のお客と店員のやり取りを目を血眼にして観察する。ああ、店員の緑のエプロンがまぶしい。
ほうほう、オーダーをしたら、レシートを持って右のカウンターに移動して、ドリンクが出来上がるのを待つんだな・・・全く新しいスタイルの受け取り方法なのでドキドキした。
自分の番がきた。
「あ、アイスゥショートスターバックス、ラテ」
しまった・・・声が裏返った。緊張しすぎや。
「アイスショートラテ1つでよろしいでしょうか?」
「は、はい・・・」
良かった言えた。第一の関門突破である。お会計を済ませる。
緑色のエプロンをつけた、キレイなお姉さんが「アイスショートラテェ!」
と元気な声で言った。おおおおう、アイスショートラテェ!かなるほどなるほど。
「レシートを持って右側のランプの下でお待ちください」
レシートを握りしめて、言われた通りに待つ。待った・・・ほんの少ししか待っていないけど、自分のオーダーしたのがきちんと受け取れるか、と席はあるだろうか、という不安が募り、長く感じた。
「アイスショートラテ一つですね、お待たせしました」
的な事を言われて、受け取った。
横にナプキンや、スプーンや、緑色のストローやなんかフレッシュ、とか低脂肪乳とか書かれたポットが置いてあるのが見えたが、マナーがよくわからないのでスルーした。牛乳は入っているし、ガムシロップもいらない。
幸いにも端の席が空いていたので「アイスラテ」をこぼさない様に気を付けながら歩いて席に向かう。椅子に、腰をかける。カバンは横に置いた。
やっと飲める。スターバックスコーヒーのコーヒーが。
緑色のストローに口をつける。すぅーとコーヒーを飲む。
美味しかった、本当に美味しいと思った。
もうこれでスターバックスを一回経験済みの19歳だ。
もし2回目来た時は、なんとかフラペチーノを頼もうかな、なんて考えた。
ズーーーーーっと飲んで、飲み干した。ゆっくりと。
周りを見渡すと、本を読んだり、テキストを広げて勉強をしたりしている。
私は何も見るものがなかった。でもそれでよかった。コーヒーを一口飲むたびに目の前の景色をただ、ぼーっと見る。
これからも何度か、スターバックスに行く事はあったけど「スターバックスラテ」一辺倒だった。ほかの飲み物を頼むという冒険と、カスタマイズをするという冒険ができるのは、もっともっと先の話。
今は情報がすぐに手に入る。知りたいと思えばすぐに検索できる。カフェでお茶をしていて、手持ち無沙汰になる前にスマートフォンを見て、何かできる。
昔とはだいぶ様相が変わったな、とスターバックスに来ると思う。店舗の数も段違いに違うけど、より地域密着型になって身近なものになった。私の住む町にも何店舗かある。
でも私は初めて行った、赤いファッションビルのスターバックスが一番好きかもしれない。
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