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デザインプロセスや方法論の捉え方とチームでデザインするということ。

この記事は "Goodpatch UI Design Advent Calendar 2019" 22日目の記事です。

GoodpatchではUXデザインの基礎としてのデザイン思考や、UIデザインの基礎としてのOOUIなどを私たちなりの手法とするために、膨大な試行錯誤を続けています。

プロセスや方法論にまとめるという言葉になんとなく拒否反応が出てしまう方も多いかもしれませんが(自分も間違いなくその一人でした)組織として再現性をもった状態にする努力をあえて実行し続けなければ、職人志向が強い人が多いこの業界においては、属人性が高すぎてとても安定したクオリティを供給をすることができません。僕らを信じてプロジェクトを依頼するクライアントに対して、品質担保の努力を放棄し、無責任ではいられないのでなんとかしないといけないのです。

プロセスや方法論は作るだけでなく、社内外に広めていかないといけないのですが、受け取る側としてもどう受け取ったらいいのかわからなくなってしまう事もよくあります。「そっくり真似をすればいいの?」「これの通りにやったら美味しいお料理ができるの?」などいろいろな疑問が出てきてしまうでしょう。なので、こう言ったデザインに対する方法論的なものについて、どう捉えていけば良いのかを個人的にまとめてみたいと思います。

長くなってしまって上手く纏まらなかったのですが、「デザインって居合切りみたいなものだよ」ってことと「デザインってチームでやらないとダメだよ」ってことが言いたかった。

レシピではなく、ツールボックス

デザイン思考やOOUIなどにおいては「これをやるべきだ」「この成果物が必要だ」と様々なものが定義されていきますが、結局はこれは「ただのツールボックス」であることを忘れてはいけません。プロセスの順番に物事を進めていけば素晴らしいものが出来上がるということは保証されていないのです。自分たちのシチュエーションに合わせて選び取れるように各成果物の効果やかかるコストを理解しておきましょう。

デザイン思考で提示されている成果物だって、「これを全部実行すれば誰でもイノベーションが起こせますよ」ということではなく、原則に則ってこのツールボックスから好きなものを適切に選んで使ってくれよという話でしかないのです。この誤解は何も「マニュアル思考で真面目な日本人」だけではなく、海外系デザインファームの文脈でもそこそこ聞く話で、最近は「あんなにお金を欠けて長大なプロセスでやっても意味ないから独自のプロセスを作っているんだ!」と言い出した人たちが増えている感覚があります。

全てはパラレルに進行する

「全部ではなく、適切なパーツを選んで使いましょう」という点と併せて、もう一つ、「プロセスを順番に行なっていけば答えが出るという誤解」が挙げられます。デザイン思考においては大前提として各ステップにおいて適宜フィードバックを行いながら前のプロセスに戻り、ブラッシュアップしながら進んでいこうと言われているのですが、これを実際に実行できているプロジェクトもなかなかないのではないでしょうか。(いや、納品ベースの請負契約でやってるともう本質的にこれを実行するのが無理だということはわかります。なので、僕らは契約からデザインする、場合によっては法律にアプローチするくらいのことをしなければいけないと思うのですが、長くなるのでまた。)

プロトタイプを作りながら「なんか想定と違ったな」と思ってペルソナに手を加えていくこともありますし、ワイヤーフレームを引きながら「そういえばこんなデータもあるなぁ」とデータモデルをいじっていくこともあるでしょう。結局、マクロとミクロの行き来や具体と抽象の行き来、ストラクチャードケイオスと言われるように、「複数の視点を行き来しながら最適な状態を探すこと」が重要なわけです。それを数個以上の観点で同時に行わなくてはならず、その難易度はものすごく高いです。目前で起こり続ける組み合わせ爆発をある程度は「意思(勇気)の力」で切り拓きながら前進していく実行力と胆力が必要です。

この複数要素が絡み合う状況を本当に体現しようとすると、「私たちは今このステップを実行している」というプロセスの中の現在地を認識することすら間違っているのかもしれません。「プロセスAが終わったらプロセスBに進みましょう」というよりは「すべてのプロセスが徐々に解像度を増していき、色づいていく」くらいで全体を眺めながらプロジェクトを進めていく必要があります。

その先の深淵…。

おそらく達人級(日本に何人いるのかというと数人くらいしか可能性がない気もします)の人たちはこの複雑な要素の膨大な組み合わせの中から最適なものを見抜く力があります。すべてを高い解像度と感性で俯瞰しながら、薄目で眺めながら複雑に揺れ動く各要素の本質を見抜き、針の穴を通す精度で一瞬で切り裂くような緊張張り詰める居合切りのような名人芸が必要とされているように感じられます。こういったことをナチュラルにやってしまう人たちからすると、僕らのやっていることはチープに見られてしまうのかもしれませんね…。

しかし、そう言った能力を持つ限られたカリスマデザイナー一個人や、少数精鋭のデザインブティックや既存のデザインファームで世の中を変えるというならきっともう世界は変わっているはずなのです。否定も肯定もするわけではないのですが、この世界を変えるためには、きっと圧倒的に量が足りないのではと考えています。世界にインパクトを与えるためには、全員が達人じゃない世界で、どうしても「量」にアプローチをしていきたい。

VUCAな世界は超ハードモード

そんな状況下で更に事態をややこしくするキーワードが出てきてしまいました。「VUCAな世界」です。テクノロジーの進歩やインターネットによって、変化が激しくて予測不可能、多くの要因が複雑に絡み合っているし、善悪や成功失敗の価値判断も曖昧な状況を指します。当然のように、VUCAな世界は前述の名人芸をさらに難しくします。その瞬間の世界のスナップショットに対する最適解は得られるかもしれませんが、それを正解とする状況が何秒(極論)続くかがわからない世界になってしまったわけです。名人芸を極めた先に、それでも太刀打ちできない世界が出てきてしまった…。

いや、そのスナップショットに対する正解を見つける作業だって、デザインはデザイナーだけがしょいこむには重すぎるってジョン前田先生も言っているように、デザイン活動はそもそも「一人ではできない」という当たり前の事実が突きつけられているんです。いやほんとに、ソフトウェアデザインやサービスデザインは絡み合う領域が広範に渡りすぎて一人で制御しきるのなんて到底無理なレベルですし、いやいや、そもそもたとえ家具とか作るにしたって職人との本気のコラボレーションが必要だって柳宗理先生も言っているのに僕らはそれを超えられているのかって問いかけ自体がおこがましいんですけど…!!!

話が逸れました。

だからこそチームで戦う

ということで、一人では難しいのだから、チームでデザインをしていかねばならないと考えています。いろいろ話をしてきましたが、僕らがデザイン思考やOOUIに組織として取り組んでいる意味もここにあると考えています。

各々が達人を目指すのではなく(とはいえ否定はしないです)、共通言語を整えて効率の良い道具を使いこなす仲間を増やすことを目指すべきじゃないかと。それが外界の情報を得る目や耳を増やし、思考を具現化して前に進めるための手を増やし、考える頭を増やし、それを実行する手を増やします。「チームとして、変化する状況に対して正しい判断ができるような状況をどのように作るか」に注力した方が成功する可能性を見出せるはずです。

Anywhereにおけるデザインチーム

Goodpatchの中でもAnywhere(フルリモートのデザインチーム)ではかなりラディカルに「チームでデザインする」ことに取り組んでいます。Goodpatch(渋谷)のチームでは1プロジェクトにUXデザイナーとUIデザイナーが一人づつアサインされるのが基本で、これが「圧倒的なコミット」を生み出し、クライアントからの信頼が厚いのですが、Anywhereではあえてハーフコミットを中心としたメンバーで5−6人のデザインチームを作っています。(デザイナーが一人のプロジェクトも多い中、一人で声を上げていても聞いてくれない状況も多いでしょう。デザイナーチームと非デザイナーチームの発言量を均等化するという目的もちょっとあります。量は事実としてパワーです、デザイナー一人でやっていても大抵うまくいきませんし、それはデザイナーだけのせいじゃない。)

この Anywhereチームが、FigmaやMiroなどのオンラインツールを駆使し、チーム全体を巻き込みながら、デザインを行っていきます。

チームの原則

そして、チームとして正しい判断ができるような状況を作るために、チーム作りの原則として、プロジェクトのキックオフの時点で、クライアントを含めたチームメンバーに
・ターゲットに対する学習速度が最速なチームを作る
・そのための心理的安全性の確保された状態を全員で作る
と宣言します。(このあたりはまた別途書きますのでお待ちを)

プロトタイプを作っているときにたとえペルソナが(もちろんその状況の合理的理由によって)変更されたとしても、それがきちんと伝達されて、納得のできるチームのコミュニケーションを確保しておくこと。さらにはその変化についていける意思決定プロセスをチームに組み込んでおくことが重要です。(デザインスプリントにおいて意思決定者をチームに含めることがマストとされているのも同じ要因だと考えています。高度な判断や複雑なコンテクストをチーム外に伝えることは比喩でなく本当に困難であり、さらにはそのシチュエーションは無限に発生するので、「その都度エスカレーション」で乗り越えられないことを前提に考えておいた方が良いです。意思決定者のチーム参加か権限移譲以外の解決策はほとんど無いでしょう。)

最終的には、「変わり続ける状況を常に感じ取る」「その変化に合わせて正解を読み続ける」「それを状況の変わらないうちにデリバリー出来る」能力を備えたチームを作って、やっと世界と対話するスタートラインに立てるくらいの気持ちが必要だと考えています。僕らはサービス(企業)と世界(ユーザー)のインターフェースをデザインしているので、対話が無ければユーザーのことを理解できず、何も学ぶことができません。この対話による学習こそがデザイン活動の目指すものであるし、逆にいえばこの一連の対話に関わる人は全てがデザイナーと言っても良いと思います。本質的には全員がUXデザイナーやインタラクションデザイナーであるべきだとかいう発想はこの辺りにあると思っています。

最後に

クリエイティブ色の強い今までのデザインの世界では、どうしてもチームによるデザインが受け入れられ難かったように思います。所属が事業会社だとしても、よほどの大きな所でなければ一つのプロダクトにデザイナーが一人いれば良い方だという実感もあります。エンジニアは多くのプロダクトで、チームとして活動しているのに、複数人のデザイナーを雇うというのは現在の業界常識からかけ離れたものに感じてしまうかもしれません。何が正解か分からない状態で自信もなく、デザインの名の下に期待と責任が重く寄せられる中で、弱い立場のままデザインを続けているという話を本当によく聞きます。

まずは一人でも多くチームでデザインすることが当たり前だと思うデザイナーを増やすこと。これがデザインの常識となるように活動していきたいと思っています。

そして、そんな世界を一緒に作りたいと思う方はぜひAnywhereに応募してくださいね!!お待ちしております!(Goodpatch AnywhereはGoodpatchで昨年立ち上げたフルリモートのデザインチームで、フリーランスや副業といった形で参加することができます。)


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