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さよなら検索

ググるのがうまい人と、下手な人が存在する。

実際問題、効率よく、素早く目的の情報に到達できる、検索力の高い人というのは現代の仕事の現場でも競争力が高いといえる。筆者は技術系のディレクションを生業としながらも、自分でプログラミングをすることもある。

プログラマーなんかの場合、よほどの上級者でもない限り、やったことがない実装をやるような場合、あるいは何らかのエラーでつまずいて解決できないような場合、検索で、過去同じ場所でつまずいた人がどのようにそこを突破したかの事例みたいなものを検索しまくったりもする。そういった局面でも「検索力」=「実力」になったりする。

ググるのがうまい人がいる、ということは相対的に、ググるのが下手な人がいる。

改めて、「検索」というのは、何らかの特殊スキルであり、特殊スキルであるからこそ、巧拙の格差を生む能力なのだろうなと思う。「検索力でライバルに差をつける!」みたいな身も蓋もないタイトルの記事も何度か見たことがある。

じゃあ「検索力」の正体ってなんなのかというと、それは結局、「コンピュータやデータベースの都合を慮って検索ワードを選定する能力」なのだろうと思われる。

コンピュータというものは、そもそも、曖昧な概念やはっきり定義されていない事柄を扱うのはちょっと苦手ではある。もちろん今は少しずつ検索エンジンも進化してきているので、一概にそうとも言えないが、検索の裏側で稼働しているデータベースには、検索対象のウェブページ等々の中に入っている単語などが蓄積されているわけで、その構造を慮った検索ワード選定をしてあげることで、より効率的に正しい検索結果を得やすいというわけだ。

「象」という動物の名前を知らない人が、象の特徴からその動物の名前を検索したいとする。

検索に慣れている人は、象の見てくれの形容を、瞬時に単語に小分けにして検索ワード化する。そしてそれらの単語群を複数指定することで、絞り込みを行っている。

「鼻が長い 耳が大きい 巨大 動物 アフリカ」みたいな感じだ。これで検索すると、「アフリカゾウ」が検索結果に出てくる。

検索が上手な人は、こんな感じで、複数の単語・条件を重ねて絞り込む、というプロセスをある種コンピュータの仕組みを「忖度」するような形で仕込んでおいて、「コンピュータ・検索エンジンが理解しやすい形」に加工した状態で与えることができる。

つまり、検索というのは、そもそも「コンピュータの都合」によって生み出された「コンピュータに甘い」概念・方法だとも言える。

インターネットが登場する以前のことを覚えている人もだんだん減ってきている、と言うと、すごい時代になったものだなあと思うが、実際減ってきている。

ともあれ、インターネットが登場する以前のことを覚えている人に問いたいのだが、インターネット以前って、「検索」って一般的な言葉でしたっけ? ・・・と問うと、恐らく、「図書館とかでは使ってた気がするけど、そんなに一般的な言葉じゃなかったような気がする」という答えになるのではないだろうか。

検索というのは、コンピュータ・インターネットが爆発的に広がる中で、便宜的に普及した、比較的新しい概念なのではなかったか。そしてそれがなぜ「便宜」的なのかというと、コンピュータが、抽象的な概念を理解して答えを導き出せるほど賢くなかったから、「自分たち(コンピュータ)は賢くないんで、申し訳ないんですけど、この【検索】という方法で探してくれるとありがたいっす。あざっす。」みたいな感じでひねり出された、人間とコンピュータが仲良くなるための苦肉の策、みたいなものが「検索」だったように思えるからだ。

ちょっと前まではそんなことは全く思いもよらないほど、検索という概念は私たちの生活の一部になっていたように思うが、「検索」って、実はそんなことしなくてもコンピュータと仲良くなる方法があるんだったらいらなくなるような「時代の徒花」的な概念だったのではないか。

今や、「昔、レーザーディスクっていうものがあってね」みたいな感じで「昔、検索というものがあってね」みたいなものになる可能性すら出てきている。「おじいちゃんが若かった頃は、検索の達人と呼ばれたものじゃ」なんていう昔話もすることになるのかもしれない。

むろん、ChatGPTをはじめとした、「検索に代わる情報探査手段」がここ1年で完全に実用化されたからだ。

で、ChatGPTとはいえ、コンピュータの都合で動いているものには変わりなく、まだまだその振る舞いを慮ることで、より効率的に望ましい答えにたどり着くテクニックというものは存在する。

事実、「ChatGPTのプロンプト力でライバルに差をつける!」みたいなことを言う人はたくさん出現している。

しかし今のところそこで「差はつく」のだろうけど、以前の「検索力」ほどには差はつかなくなってきているわけだし、基本的には、より多くの人が分け隔てなく情報に到達できる、「差がつかない」方向に技術は進化している。

同時に、検索のように、構造的に巧拙で「差がつく」ものは、代替手段を開発することでイノベーションになる可能性がある、というのも学びのように思う。

「○○力でライバルに差をつける!」みたいなフレーズを目にしたら、「何をつくればそれによってライバルに差をつけられない世界をつくれるか」を考えることがイノベイターへの第一歩なのかもしれない。

ともあれ、検索はまだ完全に死んではいないが、早晩必要とされなくなりそうな雰囲気はある。そんな過渡期の真っ只中の記録として、この文章を残しておこうと思う。

この記事は、Dentsu Lab TokyoとBASSDRUMの共同プロジェクト「THE TECHNOLOGY REPORT」の活動の一環として書かれました。今回の特集は『検索』。編集チームがテーマに沿って書いたその他の記事は、こちらのマガジンから読むことができます。


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