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メラミンスポンジの教え

メラミンスポンジが好きだ。
世の中で「激落ちくん」と呼ばれる、あのコである。

我が家にはいつも、プラスチックのケースに、たんまりと真四角に切り揃えられたメラミンスポンジがストックされている。

コーヒーカップの内側にこびりついた、茶渋。
フライパンの底に蓄積した、コゲつき。
蛇口の表面を覆っている水垢。
ステンレンスのシンクや、洗面所の白い陶器のくすんだ汚れ。
台所の壁にへばりついている、油汚れ。

メラミンスポンジに水を少し含ませ、指先で力加減を調節しながら、ひたすらこする。
何往復かするうちに、表面をこする感触が「ざらざら」から「つるつる」に変わってゆく。
水でさっと流すと、ピカピカ、つるつるのお肌が顔を出すのだ。

全てのものをピカピカにしてくれたメラミンスポンジは、最初のふわっふわで真っ白な出立ちとは打って変わって、至る所に茶色や黒の染みをつけて、ボロボロで薄汚れた、みすぼらしい姿になる。

相手をピカピカにする代わりに、自分の身を削るメラミンスポンジ。
よれよれになったそのスポンジを、私はポイッ、とゴミ箱に投げ入れ、また、新しいメラミンスポンジで、せっせと磨き始める。
結局この日は、4つのメラミンスポンジが天に召された。

掃除が終わり、最後のメラミンスポンジをゴミ箱へ。
原型をとどめないくらいに、くたくたになった彼らが、目に入る。

メラミンスポンジの恩恵に預かっておきながら、こんなことを言うのも失礼な話だが、こんな人生は嫌だな、とふと思う。

相手をピカピカにする代わりに、自分が擦り切れて、命を落とす。
一昔前なら、美徳なのかもしれない。
でも、それって、悲しすぎる。

使い捨ての人生。
自分を犠牲にして他人を輝かせる人生。
メラミンスポンジよ、あなたは本当にそれで、幸せですか?

同じ生きるなら、他人を輝かせて、自分も輝く人生でありたい。
最後に残るのは、虚しさや悲しさではなくて、「ああ、やりきった。いい人生だった」という穏やかな思いがいい。

自分の人生のシナリオは、すでに決まっているのかもしれない。
でも、その人生を、どんな気持ちで歩んでいくのかは、自分の心のあり方次第だ。

私の中心に何を据えて生きていくのか。
メラミンスポンジが身を挺して教えてくれたことを、ゆっくりと噛み締める。

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