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椎名林檎「無罪モラトリアム」

はじめに

このアルバムの登場によって驚かされた人、心を救われた人、勇気づけられた人、色々な人がいると思う。僕も実際多くの場面でこのアルバムによって心を救われ、元気づけられ、思い出に残る時間を過ごすことができた。そんな「無罪モラトリアム」という名盤についてアルバム紹介の記念すべき第一回として書いていきたいと思う。

1.正しい街

アルバムの1曲目は力強いドラムフィルやギターのノイズから始まる「正しい街」、パワフルなロックサウンドに少女らしさを残しつつも艷やかなボーカルが乗り、このアルバムに込められたパワーを真正面から感じられる。歌詞は椎名林檎の地元である福岡(=正しい街)から上京する女性とその恋人の関係を文学的に描いている。

2.歌舞伎町の女王

正しい街から上京した椎名林檎が次に歌うのは新宿・歌舞伎町の歌。この曲を書いた当時は実際に歌舞伎町に行ったことが無かったというので驚いた。印象的なギターと刻むドラムのイントロがまるで女王が歌舞伎町を闊歩する時の力強い足取りのようなものを感じさせる。曲中の手を叩く音がスナックのカラオケで合いの手を入れているようで、より一層歌舞伎町の華やかさや怪しさを聴き手に伝えている。ここまでのイメージを脳内で描くことができ、一人の少女が歌舞伎町の頂点に座するまでの物語を3分に収められるのは邦楽界に残る事変だと思う。

3.丸ノ内サディスティック

この現代にこの曲、もしくはこの曲に影響を受けた作品に触れていない人はいないのではないか。この「丸ノ内サディスティック」は90年代の曲では初となるストリーミング累計1億回再生を突破し、この曲のコード進行が「丸サ進行」と呼ばれ、数多くの優れたポップスを生み出すなどリスナーにもアーティストにも多大な影響を及ぼしたのである。この文章を書いている僕も影響を受けた一人であり、何度かライブでコピーした思い出があります。

4.幸福論(悦楽編)

ジャジーな曲が終わったかと思えばノイズ感溢れるギターが。シングル版とは打って変わってアップテンポでパンク色が強いアレンジが施されており、その激しさはアルバムの中でもトップクラス。曲の最後には椎名林檎のシャウトも。最後の「1.2.3.4.」のカウントは謎ですが、少し可愛げがあって僕は好きです。この曲はシングル版と聴き比べしてみる事をおすすめします。

5.茜さす 帰路照らされど…

前の曲からシームレスに繋がりピアノの落ち着いたイントロへ。この曲間を作らない椎名林檎の徹底したアルバム作りの姿勢にはいつも尊敬の念を抱いている。タイトルの通り夕方、家路につく時に聴きたい曲。実際にこの曲を聴きながら家に帰っていた時、いつもは眩しくて嫌いな夕焼けもその時だけは好きになれたのを今でも覚えています。

6.シドと白昼夢

幾つかアレンジが存在する本曲。このアルバムに収録されているバージョンは荒々しさと繊細さが同居し、刺すようなボーカルが特徴的である。救いのない儚げな恋愛を歌うこの曲はこのアレンジが一番マッチしていると思う。

7.積木遊び

和風な味付けが施された「積木遊び」はファズの効いたベースのリフやザクザクと刻むギターが歌謡や演歌などの要素とロックを調和させている。楽曲後半ではノイズ、ベースのスラップ奏法、琴も加わり、音の勢いはますます強くなっていく。そして最後はフェードアウトして次のアンセムへと続く。

8.ここでキスして。

アルバムの先行シングルとしてリリースされた楽曲。印象的な英語のアカペラから始まり、ヴァイオリンの優しさとロックの無骨さが椎名林檎の女性らしさや強さを表現しているように思える。また、パートナーの事を強く思っている事が身に染みるほどよく分かる歌詞にも心が強く揺さぶられる。初期の椎名林檎の代表曲として非の打ち所がない大名曲である。

9.同じ夜

前の2曲の勢いは止み、ヴァイオリンの優雅なイントロから始まる楽曲。ワルツ調の拍子が今までとは異なる空気感を演出している。また、使われている楽器もギターとヴァイオリンのみというシンプルな構成で、より一層歌に集中でき、椎名林檎の詞世界を存分に味わうことができる。

10.警告

「同じ夜」の後は再びロックチューンである「警告」が。イントロの強烈なギターリフから始まり、どんどん先へと進んでいくような疾走感のある16分音符の細かいベースがより無骨さを全面に押し出していて聴き応えのある楽曲となっている。

11.モルヒネ

アルバムの最後を飾るのは強い中毒性を持つ薬品の名前を冠した「モルヒネ」。「あたしには鳥が4羽ついてるので」や「家には納豆があります」など今までとは段違いの難解な歌詞だと初めて聴いたときに感じた。しかしよく聴いてみると、そこにいたのは当時の等身大の椎名林檎自身なのではないかと思えてきた。アコースティックギターの音色や口笛などが可憐な少女を連想させたからだ。つまり、この曲に描かれているのは彼女の持つ狂気性というより、素直さではないかと考えた。椎名林檎にとっての名刺的役割も担っている本作に収録されるべきキラーチューンである。

さいごに

この「無罪モラトリアム」というアルバムは全編を通して5分を超える曲がなく、椎名林檎の強力な個性を高いレベルでポップにまとめ上げてられている。そのため非常に聴きやすいものとなっており、20年以上の時が経っても入門アルバムや最高傑作として選ばれているのも納得がいく。この文章を読んだ一人でも多くの人がこのアルバムの良さを新しく見つけられることを願っている。また、この記事がアルバムのリリース日である2月24日に投稿できたことを非常に嬉しく思っている。

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