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【読書感想文】複雑な中東の成り立ちが分かる良書 (1745字)

イスラエルとハマスの対立は、日に日に悪化しています。海外の識者の中には、第3次世界大戦が始まったと考える人も出てきました。(ロシアの政治学者フョードル・ルキャノフなど)。イスラエルの爆撃によって、亡くなったパレスチナの多くの子供たちの遺体の写真をX(Twitter)で見た時は、涙が出ました。どちらにも非があり、できるだけ早く停戦すべきです。無辜の一般人が殺されるのは、酷すぎます。

中東のことは複雑すぎてよく分からないので、積読にしていた『中東の考え方』を読みました。10年以上の前の本ですが、複雑な中東の成り立ちを分りやすく解説した良書です。これを読むと、中東でなぜ紛争が絶えず起こっているのか少しずつ分かってきます。

かってフランスとイギリスが、この地域を分割して統治していました。まずこれが大きな過ちでした。アラブの人たちは、中東一帯を自らの土地とみなし、国境などは気にしないで、自由に移動していました。しかし、ヨーロッパの二つの大国により、勝手に国に枠組みに押し込められてしまいます。そこへさらにイスラエルが作られました。

現在の中東の騒乱のきっかけは、イギリスの狡猾な海外政策に端を発しています。バルフォア宣言でユダヤ人の国を作ることを認めながら、同時にフサイン・マクマホン協定で同じ地域にアラブ人の国を作ることも認めています。この協定のことは高校の世界史で勉強して知っていましたが、その頃はイギリスの帝国主義の歪みと醜さに気付けませんでした。ただ受け身の勉強であり、試験のために暗記するだけで、遠い異国のことと思っていました。

大人になり、いろいろな本を読んで欧米の帝国主義がいかにひどいものか、気づくようになりました。大本のところに人の命を軽んじる金融資本家がいて、彼らが自分たちの私腹をただ肥やす為だけに、世界の騒乱や戦争を起こしていることを理解し、憤りを感じています。本書の1章に書かれている通り、中東では石油が金融資本家の標的になっています。

本書で著者が書いているように、中東には中東の考え方があり、それは必ずしも欧米の考え方とは一致しません。どちらが正しいという事もできません。でも、欧米の考え方が正しいという押し付けが、中東の騒乱の原因の一つになっています。

本書を読んで、イスラエルができる前は、ユダヤ人もユダヤ教の信者としてアラブ世界の中で認められていたことを知りました。彼らはミズラヒームと呼ばれ、アラブ世界での生きていくことを認められていたのです。(87ページから88ページ)。なぜこの状態が続かなかったのだろうかと思います。続いていたら、今日のイスラエルとハマスの対立も起きなかったのかもしれません。

その理由の一つは、欧米の考え方が強制され、中東の考え方が退けられたことにあります。欧米の考え方が押し付けられるのは、上記に書いたように金融資本家が自分たちの利益を優先させるからです。

本書の4章はイランについて書かれています。イランの持つ可能性も書かれており、ためになりました。ご存知のように、イランは民主的ではない国とされ、アメリの制裁を受けています。女性の権利が極度に制限されているなど、確かにいろいろな問題を抱えている国です。

しかし、イスラム主義を中心に据えて、社会を変えていこうとする動きが起こった国がイランでした。イスラム主義の中には過激で戦闘的なものもあります。でも、アラブの人たちが代々受け継いできた伝統を大切にするのは、悪いことではありません。イスラム過激派が主張するジハードのような危険な行動は、伝統的なイスラム教では禁止されています。今回イスラエルとハマスの衝突が起こった時に、イランが乗り出してきたら、手のつけられない状態になると言われています。具体的に言えば、核戦争です。

裏ではハマスとつながっていると思いますが、今のところ、イランはイスラエルに国全体で闘う姿勢は見せていません。それどころか戦闘が拡大しないように、水面下で手を尽くしています。これは本書で書かれているイスラム主義の良い面の影響でしょう。好戦的なイスラエルの姿勢とは対照的です。

この一冊で中東のことが全て分かるわけではありません。でも、中東についてもっと知りたい、と思わせてくれる良書でした。




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