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【短歌とエッセイ】秋のはつかぜ

透きとおるトンボの羽を震わせる秋のはつかぜわが頬撫でる

コスモスを花弁を揺らすそよ風は秋の訪れ秋のはつかぜ

君と見た海の青さは胸の中秋のはつかぜそれを教える

岩波文庫の『新古今和歌集』を読んでいます。一つ一つの和歌を音読しながら読んでいるので、なかなか読み進めません。今は秋のところを読んでいて、この季節に合っています。この部分に、「秋のはつかぜ」という言葉を使った和歌がいくつか出てきます。

おしなべて物をおもはぬ人にさへ心をつくる秋のはつかぜ

これは西行の歌です。こんな歌を読むと、昔の人たちの繊細な感受性が分かって、嬉しくなります。暑い夏が続いて、ある日急に涼しげな風に気付くと、季節の変化を実感するでしょう。はつかぜに限らず、秋の風を詠んだ歌が、『新古今和歌集』には多く収録されています。

四季の変化がはっきりしているところが、日本の良いところで、昔の人たちは、それを感じ取り、自分の心に重ねて生きていたのだと思います。そんな感性は、現代の日本人も持っているはずです。

今年の夏は暑過ぎて、道を歩いていると熱気が体にぶつかってくるのを感じました。今でも日中は暑いですが、朝晩は涼しい風を感じるようになりました。

私は秋より夏の方が好きで、夏が終わるのは寂しいのですが、季節が変わっていくことには、喜びを感じます。ずっと同じ状態が続くよりは、変化があったほうが心が弾みます。冒頭の短歌は、「秋のはつかぜ」という言葉が気に入ったので、それを使って詠んだものです。

詠みながら、「秋のはつかぜ」は、良い言葉だと感じました。「秋」の「あ」の音と、「はつかぜ」の「は」の「あ」の音が重なって、明るい印象を受けます。その明るさは、秋の陽射しの明るさに似ています。


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