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【読書感想文と訳詩】一生をかけて内なるシヴァ神を追い求めた詩人(1529字)

”The Poem of Lal Ded”という素晴らしい本を読みました。インドの神秘主義者で詩人ララの詩集です。自らも詩人のRanjit Hoskoteが、英訳した146の4行の詩と詳細な解説が含まれています。ララはインドのカシミール地方で、14世紀に活動していたそうです。

ララの詩の特長は簡潔で力強いことです。

寺院からもう一つの寺院へ、隠者は息継ぎのために立ち止まらない
魂よ、これを掴め!お前は鏡を覗き込むべきだった
巡礼を続けるのは、遠くの草の緑に
恋に落ちるのに似ている

これが一番目の詩の翻訳です。自分の中に聖なるものがあるという確信が、この詩で語られています。2行目の「これ」は、自分の中にある神性のことです。1行はそれを求めてさまようことを表しています。

「隠者は息継ぎのために立ち止まらない」の部分は、英訳では“the hermit can't stop for breath"となっています。この部分の意味はよく分からなかったです。3行目に出てくる草は、ヒンズー教の儀式で使われるdurvaという草と解説に書いてありました。

名前から分かるようにララは女性です。解説に女性であるために苦労があったと書かれています。結婚したのですが、夫は彼女の求道の心を理解しませんでした。姑ととも不仲でした。

辛いことですが、このような日常生活や女性であることは、彼女の詩の内容を深めていると感じます。ララの詩は哲学や宗教の高度な内容を語りながら、具体的な比喩を使って書かれているので、地に足をつけた感じで理解しやすいです。上記に出てきた「鏡」は、ララの詩の中によく出てきます。

ララの詩の中には、さまざまな宗教の伝統が流れ込んでいます。ヒンズー教、仏教、イスラム教、ヨガといったものです。素晴らしいのは一つの宗教に凝り固まらずに、多くの教えを自分の中に流し込んで、ララという一つの人格の中を確立していることです。

ただ、ヒンズー教のシヴァ神には愛着があったようで、詩の中にこの神様の名前が時々出てきます。

シヴァの名前を唱えるものは誰でも、白鳥の道を歩き、
果実のことは気にしないで、木を植える
一日中多忙でも、彼は師の恩寵を勝ち取る
彼の師は神々の中で先頭に立つもの (60番目の詩)

この詩は最初の2行が特に美しいと感じます。訳者による解説によると「白鳥」は原詩で”ham-sah"で、きれいな響きを持っています。この鳥はインドのインドの知恵の伝統の中で、探求者とみなされているとのこと。

シヴァのことはよく知らなかったのですが、調べると創造と破壊の神であり、芸術を司る神でもあったそうです。求道者でありながら、詩を作り続けたララにぴったりの神様という気がします。内なる神を求める生き方は、東西の神秘主義に共通するもので、特に珍しいものではありません。

ただ、ララの場合は悟りの境地にたどり着き、それを固定化するのではなく、自分の中で絶えず葛藤を繰り返し、それを通して自分の中にある神性との絆を深めるという態度があって、私には親しみやすかったです。

生きている限り人間の悩みは尽きません。その悩みと共存しながら、よりよく生きることを目指すときに、ララの詩は支えになってくれると思います。

最後にこの詩集の中で一番好きな詩を訳して、紹介します。117番目の詩です。海が新しくなるとは、風変わりな表現ですが、神秘的で壮大なスケールがあります。もしかしたら人のことを差しているのかもしれませんが、私は澱んでいた海が澄んで輝く情景を思い浮かべて、それに浸っていました。

新しい心、新しい月
私は大きな海が新しくなるのを見た
それ以来心と体を磨き続けている
私、ララはどんな時でも生まれ変われるのだ!







 


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