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私と同じ名前の彼女へ

 名前で呼ばれる機会があまりないので、清水富美加ちゃんの話題にいちいちドキッとしてしまう。名は体を表すというけれど、彼女はその名のとおり「ゆたかで、うつくしく、あたえる」人だった。

 昨年、彼女にインタビューをさせてもらったことがある。こんな無名のライターから同じ名前とか言われても困らせちゃうだけだよな…なんて思ったので黙っていた。しかしマネージャーさんとご挨拶したときに「ぜひ本人に教えてあげてください、絶対喜ぶと思います〜!」と笑顔で言ってもらえたので、勇気を出して「実は私もフミカって名前なんです」と名乗ってみた。

「えっ、本当に!?すごい!!!嬉しい!!!どんな漢字で書くんですか!!?“文”に“香”ですか??」

 富美加ちゃんは語尾に感嘆符と疑問符をいっぱいくっ付けて、まん丸の瞳をキラキラ輝かせた。「いえ…ちょっと難しいんですけど…」と差し出した名刺を彼女は両手で受け取り、漢字ひと文字ずつの意味を噛み締めるようにゆっくりと丁寧に発音した。

「芙、実、香……わぁ、きれい!私もこの漢字がよかったぁ!」

 その表情や口ぶりは真剣そのもので、思いもよらないストレートな褒め言葉に、私はすっかり照れてしまった。取材相手に褒められて舞い上がるなんてプロ失格だと分かっているけれど、本当に、本当に嬉しかったのだ。

 たとえば私たちの名前がユキだったら、アヤだったら、トモコだったら、こんなやりとりはなかったかもしれない。フミカという名前で、しかもちょっぴり珍しい漢字を持って生まれた私たちに訪れた、ささやかな奇跡みたいな瞬間だった。
 宗教だとか芸能界だとか難しいことはよく分からないけれど、どうか同じ名前の彼女が、これから先ずっと笑顔で、健やかでありますようにと祈らずにはいられない。

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