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「ハロー、レビー!!」〜2階の令美さん〜・序

Oi-SCALE2023年本公演「ハロー、レビー!!」〜2階の令美さん〜
主演佐藤正宏(ワハハ本舗)脚本林灰二
11月15(水)~19(日)・下北沢駅前劇場

2023年度の本公演、ホームグラウンド下北沢の駅前劇場での上演です。もう16回目?の駅前劇場での公演になります。もう20年下北沢で芝居をやっています。そんなかで家族の物語、親子の物語は初めてしっかりと向き合うんじゃないかと想うけど、でも、僕の中のコアなテーマはいつも変わらないです。75分間と決めて作品を創作しています。どう抗っても、変えようのない血の物語。覚悟を持って発表します。よろしくお願いします。

わかる人にはわかるけど、写真は過去公演写真でも使用したロケーションです。記憶の迷宮に迷い込んだ父親の様子を表現したくて、この場所で撮影をしました。

【物語】

「認知症の父にしか見えない幻覚の女。のはずが、僕も令美さんに会った」

父は四十年勤めた工場の仕事を定年退職して、それまでの性格が嘘みたいに物静かになった。
父の勤めが終わると、母は役目を終えたかの様に死んだ。
母が死ぬと、父は飯を食う量が減った。
それから程なく愛犬のトムも死に、父は一人になった。孤独になった父の気はめっきり弱くなって、体も痩せて、母と同じ癌になった。
手術はうまくいったけど、家の暮らしに戻って間も無くして認知症になった。
近くに住む妹に助けを求められ東京に住む兄も実家に戻り、ばらばらになった家族が再び集まった。
空き部屋になってる家の二階に、居るはずのない“知らない女”が暮らしてる。と、父は言う。

父「私は一人で死ぬのか」
幻覚の女・令美「みんなそうよ」

父に献身的に尽くし生涯を終えた母と愛犬の記憶と、認知症の父が見る幻覚。虚実がないまぜに描かれる歪な家族の絆と生死にまつわる深淵な物語。

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登場人物 

荒木家のひと
父 ・真一郎
山の田舎村の農家の家で五人兄弟の末っ子に生まれる。兄が農家を継いで、真一郎は最寄の都市に出てフェリー会社で働き始める。薫子に出会い結婚する為に造船工場勤めをして定年退職まで勤めた。家族の中では威厳がある父親の姿が嘘のように、親戚からもらった犬(いちご)を溺愛した。
母・ 薫子
看護学校生時代に真一郎とボーリング場で出会い交際し結婚した。街から出た事がほぼなく、職人の夫を近くで支え二人の子供と犬の面倒もよくみた。子供達は母の好きな食べ物もわからないくらい、薫子は夫の好みと気性にすり合わせ生きているようだった。五十歳を過ぎて、癌を患い入退院を繰り返し真一郎が定年した数週間後に死去。牧男がトムを連れて来た時、家で飼うことをとても反対した。菜子が離婚して、旦那に引き取られた初孫に会う回数が減った事に心を病んだ。
息子・牧男
子供の頃は人見知りの気弱な性格で、イジメにあっていた。工業高校時代には、不良グループとつるみ悪事に加わった。不良グループのリーダーに刃向かい車で轢いて逃走し逮捕される。高校中退後上京。仕事は長続きせずに転職を繰り返す。いちごが死んだ後に、ペットロスになる家族心配してトムを連れてくる。
妹 ・菜子
気丈な性格で行動力のある妹。人付き合いが上手く交友関係も広い。一度は家柄の良い男を見つけ嫁いだが、結婚は長続きせず、娘の親権は夫にとられ実家に出戻り薫子の看病とイチゴの世話をした。再婚し実家の近くに住み続けているが、旦那の転職の可能性があり認知状の真一郎を心配し兄に助けを求めた。
初代愛犬・いちご 
牧男と菜子が子供の頃に真一郎の親戚の家からもらった雑種犬。15歳まで生きる。
二代目愛犬・トム
いちごが死んだ翌年に牧男が連れてきて家に置いていった犬。いちごと同じ毛の色をしている。いちご(15)の次の来たことから16をもじってトムと名付けられた。
2階の女・令美
父が主張する2階に住む女。痴呆症の幻覚と想われるが、、、、。

【出演】

佐藤正宏(ワハハ本舗)  
澤井裕太 井野おりこ 横尾宏美 川崎桜 宇都宮功一
梅本伊代 田辺学 時村雄大 高森修平(劇団いいのか・・・?) 名取えりか
石井智也 林灰ニ

今作の出演陣の顔ぶれです。

痴呆症の父親を演じてもらうのは、小劇場の大先輩ワハハ本舗の佐藤正宏さんにお願いをしました。
昨年のオイスケール企画、空が飛べると想ってみる。公演「僕からと君へと」日暮里元映画館での公演前に街の散策写真を出演者みんなで撮影しているときに谷中の夕焼けだんだんで子供達を前に紙芝居をしている佐藤さんと出会いました。佐藤さんの着ているシャツはお知り合いのお子さんが描かれた魔法のシャツです。(このお話は素敵な話だから公演中でもお客様に話せる機会があればいいな。アフタートークかな)
ネットの記事で佐藤さんが紙芝居してるのはなんとなしに知っていたけどライブで青空の下で見る紙芝は、みんが童心に帰る素敵な魔法の時間でした。

夕焼けだんだんで紙芝居する佐藤さんと聞き入る横尾親娘。

「ハローレビー!!」の企画が立ち上がったとき、僕たちのまわりでリアルな年齢層で父親役をお願いできる役者さんはなかなか居なかったんだけど、佐藤さんに紙芝居を見たことをお話しして、出演のお願いしました。
他には、オイスケールの本公演ではお馴染みでいつも主軸な役をお願いしている石井智也さんに、昨年のシアタートップスでの「あの夏の暗い夜、虹の袂のエデン。」に引き続き梅本さん。他、前回現象グラデーションから継続して出演してくれる俳優たちで、僕の脚本へ初参加の俳優はいません。この13人とスタッフで時間が許す限り、間違いなく大きな難作となる本作品に挑みます。とことん本作を深掘りして風穴を開ける問題作を発表します。

【レビー小体痴呆症】

タイトルにもなってるレビーはドイツの医学博士の名前なんですけど、この病気の原因となるレビー小体の発見者です。
認知症の約10−30%を占め、中枢神経系の一部や自律神経系に、レビー小体という異常なタンパク質が出現する病気で、特徴的な症状として見えないはずのものが見える幻覚や、動きが遅く筋肉が固くなるといったものがあります。
幻覚の中でも、幻視が最も多くみられます。幻視とは、他人には見えないもの(人、動物、虫など)が見えるという症状であり、「自分の部屋に黒い服を着た人が立って、じっと自分を見ている」など、具体的な内容であることが多いです。

別にこの病気についてを知ってほしいわけでも、主体に描きたいんでもないけど、大前提としてこの病気を患った父親と家族の関係が本作で描かれています。
そもそも自分が見えてる世界が他の全員にも全く同じように見えてるって断定できる理由なんてないですよね。
僕が交通事故を起こして子供を轢いてしまたとし、「幽霊が車の窓に張り付いたからだ」って言っても、きっと誰も相手にしてくれないのに、幽霊の存在を信じてる人は大勢いる。信じることと実在性との間には距離がある気がします。
架空の物語を目の前にいる役者が演じる様を不特定多数の観客で観るのが演劇ですが、実在の証明って何をもってできるのか、嘘と本当がひしめきあって世界が構築してるのだから、あるものをあると言い切ることは難しいのかもしれない。

【公演情報】

【会場】下北沢駅前劇場
【日時・タイムテーブル】2023年11月15日(水)〜19日(日)
11月15日(水) 19:00
11月16日(木) 19:00
11月17日(金) 19:00
11月18日(土) 15:00★/19:00
11月19日(日) 15:00

開演の30分前開場、45分前受付開始。上演時間:75分予定。演出の都合上途中入退場は緊急時以外出来ない場合があります。
11月18日(土) 15:00の回終演後イベント・アフタートークあり。


【チケット予約】

全席自由券 前売5000円

【作品について、林灰二の序文】

自分なりに理由があって、今、家族の物語を書こうと想った。
久しぶりに食卓を囲んだ家族は母と犬が居なくなり、親と子のそれぞれの心持ちも昔とは違ってバラバラになってる。
同じものを見ている様でも、そもそも人の関係は共有した気になる勘違いで成り立ってる部分が多い。そう想えた方がうまくいくのならそれで構わないのだけど、真実を同じようにわかり合いたい欲求もある。
75分。中〜短編と言っていい長さの作品にする。
残酷に平等に現実を描くつもりでいるし、演劇的なトリッキーな仕掛けを企みたいとも想ってる。
お客様を笑って泣かせて、拍手と感想をもらって気持ちよくなったり、自分を良く見せて褒めてもらいたい欲求なんてとっくにないんです。
誰の真似もしたくないし、偉い誰かが既にやった物語の焼き回しのようなこともやりたくない。自分の言葉で今自分が大切だと想うことをしっかりと強引にまっすぐ言いたい。
愛のある物語を描ける作家にはいつかなれたらいい。今の僕は親への後ろめたさ、故郷を直視できない自分、情けないことばかりが積み重なっただらしのない自分でも、怒りと悔しい気持ちは抱えてる。抗えない運命の鎖を解き放つ物語を発表したい。風穴を開けたい。

犬は従順に生きて死んでいく、母もそうして死んでった。

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