船戸さんちとやしろんち
「はい、石田くんもあげるね。クリスマスパーティーのチケット」
長い髪を巻いたおしゃれな船戸さんは、僕に1枚の赤い紙をくれた。画用紙を切り取った紙には、緑のマジックで、船戸家クリスマスパーティーしょうたいけん、と綺麗な字で書いてあった。
2学期に転校してきたばかりの船戸さんの家は、新築の大きな一軒家で、最近は玄関に豪華なクリスマスツリーが飾ってある。
「なんでウチもついていかなあかんの?ひとりで行ったらええやん?」
「いや、やって、女子の家なんて行ったことないんやもん」
「ウチんちにはしょっちゅう来とるやん」
「やしろんちは、なあ、なんか、ちっちゃい頃からいつも行ってて、なんちゅうか、親戚んちみたいなもんやし」
今日は12月24日。船戸さんちのクリスマスパーティーの日だ。家がどこにあるのかは知っているけど、ひとりで行くのはなんだか緊張したし、男子を誘うとからかわれそうなので、いつもカチューシャをつけている女子のやしろを誘った。
「まあ、ええけど……。ウチも招待券もらってるし……」
「なんや、やしろも招待されとんやん。どうせ船戸さんちに行くんやし、ええやん」
「そうやけど……。なんかムカつく!」
手提げカバンで、背中を思いっきりひっぱたかれた。僕はなにか悪いことをしたのだろうか。よくわからない。
「ちょっ、何すんねんっ!」
思わず文句を言ったら、やしろはしばらく黙ったあと、ひとりごとみたいにぼそっと言った。
「…………男子で呼ばれてんの、たぶんあんただけやねん」
やしろは小さい頃から小学4年生の今まで、ずっと家が隣どうしの、幼なじみというやつだ。
船戸さんの部屋は、ピンクのカーペットが敷かれていておしゃれだった。すみっコぐらしのキャラクターのぬいぐるみがたくさん並んでいて、小さな化粧セットみたいなものもあって、いかにも女の子の部屋という感じだった。
「よう、イッシーも呼ばれてたん?」
肩を叩かれたので振り向くと、同じクラスの明田がいた。クラスでいちばんイケメンの男子だ。
「……なんや、僕以外の男子も呼ばれとるんやん?」
ちょっとだけ、なんか残念な気持ちになって、思わずぼそっと言うと、いつのまにか現れたやしろに今度は蹴りを入れられた。どうも、今日のやしろはおかしい。
クリスマス会は1時間くらいで終わった。
よく考えたら、ジュースとお菓子を食べながらしゃべっていただけなんだけど。船戸さんちにはゲーム機がないらしいので、トランプをした。
家が隣なので、当然、帰り道はやしろと同じだ。
やしろは、もらったお菓子を歩き食べしている。大きな音を出して。上品な船戸さんとは大違いだ。
クリスマス会は楽しかったけど、もうちょっと遊んでいたかったな。そういえば、最近はやしろの家で一緒にゲームをすることもなくなったな。
「……なあ、やしろ?」
「ん?」
「クリスマス会の続き、せえへん?ひさしぶりに、やしろんちでスマブラやりたいんや」
やしろは一瞬だけきょとんとした顔をしたが、すぐににっこり笑った。
「正解!うまい棒あげるわ!」
「え?何が正解?わけわからん!」
手渡されたうまい棒はコーンポタージュ味だった。さすがやしろ、僕がいちばん好きな味を知っているんだ。でも、船戸さんみたいに女の子として意識することは……。いや、まあいいか。それよりスマブラやろう。
サウナはたのしい。