京の街で一番の美女

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十市媛「そなたに恋しい人はいるのですか。そなたの言葉づかいにはどこかみやびな所がある。素性を話しなさい」―火の鳥 太陽編
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9月下旬

「嘘つきはるの上手やね。」

彼女と出会ったのは、9月には珍しい暑さを感じさせる昼間の京都だった。

火の鳥は用事があり、この街にやってきた。
もう何年も来ていなかっただろう。

車で用事のある場所へ向かったが、
1時間ほど早く着いてしまう。
昼食でも食べようかと思い、最寄り駅の近くに車を停め、飲食街を覗くもたくさんの人で行列が作られており断念。

何をするでもなくその場で突っ立ていると、
人混みの中で一際目立つ彼女が、火の鳥の目に飛び込んできた。

綺麗な顔立ち、
華奢で小振りなスタイル。
上品な服装で早速と歩く彼女は
火の鳥の好みの真ん中をいくものだった。

3秒ルール。深呼吸。

後方から追いかける。
あまりにも早速と歩くので
声をかけても無駄だろううと
一度諦めかけ、足が止まりそうになるがなんとか並行。

「めっちゃ可愛いですね。目ん玉飛び出るかと思いましたよ。」

火の鳥はなぜか台詞とは裏腹に真剣な表情。
ミリオンダラースマイルが出せなかった。
極度に緊張していたためだろう。

「ふふふ。飛び出はったんですか?」

微笑んでくれた彼女にホッとし、
ビタ止め。
そこからは何を話したかあまり覚えていないが、番ゲに成功する。
気付けば15分たっていた。

「もう行かなきゃいけない。京都にはよく来るからその時よろしくね。」

微笑む彼女と別れて車へ。
胸の大きな鼓動、ドキドキを感じながら用事を済ませに車を走らせる。

スト高に対して足を止めずに行けた自分に、よしっと小さな独り言すら呟きながら。

そして意外とあっという間に用事は終わる。
火の鳥の想像では2.3時間要すると思っていたものは、ほんの15分で解決する。
遠方まで足を運んだ事に、先方は納得したようだった。

時間が空いた。
やるべき事は解っていた。
しかし少し躊躇う。
果たして、今の火の鳥に倒せる相手だろうか?
圧倒的なAFC的思考。
指を震わせながらLINEする。
用事が思ったより早く終わった事。
今から全く予定がない事。
もしまだだったらとランチの打診。

「出勤まで暇だったんです。ランチなら良いですよ。」

意外にもOKの返事。
そして予想外な【出勤】という単語。
火の鳥は彼女の持っている物や服装、
振る舞いや言葉遣い、
あと少し自分の事を話しただけで
それ以外の事は何も知らなかった。

全く彼女からイメージできなかった夜の色。
それは吉なのか凶なのかわからなかったが、
火の鳥は胸の鼓動を早まらせた。

先ほど出会った駅に車を走らせる。
またもや独り言を呟きながら。

「さあ、ゲームのはじまりだ。」

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待ち合わせ場所にすでに立っていた彼女は
あいかわらずの透明感、オーラを放っていた。

道行く男が彼女を見ていた。
また彼女も見られている事が
まるで当たり前の日常かの様に凛としていた。

「めっちゃ可愛いですね。目ん玉飛び出るかと思いましたよ。」

今度はミリオンダラースマイル。
彼女も笑った。
火の鳥は勝利するイメージを膨らませた。
この後打ちのめされるとも知らずに。

彼女のオススメするおばんざいを食べるながら、色々話を聞いた。
彼女は京都の高級クラブで働く23才。
とても派手に見えなかったが、俗にいうナンバーワンだった。

高いコミュニケーション能力。
品のある所作振る舞い。
おどけない笑顔。
そして読書が趣味らしく、
数多くのジャンルの本やブログ記事を読んで手に入れたという知性。
彼女が1番たる理由はすぐに理解できた。

いや、理解できたどころから気付けば魅了されていた。

火の鳥は彼女との時間が心から楽しかった。
そしてこの後、彼女の服を脱がせられる事に喜びすら感じていた。

ランチを終え、近くのカフェへ。
その後川沿いで和み、携帯でこっそり近隣のラブホテルの場所を確認する。

ここで最近の勝ちパターンをなぞる様に、
フェイズシフト。
仕上げに掛かろうと動いた。

「あきませんよ。この後悪い事しようとしてはるでしょ?」

その台詞をはく彼女も綺麗だった。
形式的なグダと判断し、さらに進める。

しかし全く仕上がる気配がない。
おかしい。いつもならうまく行くのに。
少し強引に押し引き。軽いキノ。

それでも彼女はまるで羽衣のように、
フワフワと火の鳥の攻撃をかわす。

埒があかないので、
ストレートに気持ちを伝える。

「俺は君の事が良いなと思ってる。たがらもっと知りたい。いや抱きたいなと思ってるんだ。身体の相性も含めてお互いを知りたいんだ。
俺はいつもそうしてきた。人生においても、恋愛においてもいつも自分で決めてきた。
そして良いなと思った人にはこうやって、自分からアプローチしてきたんだ。
前の彼女の時もそう。でも3年続いた彼女以来良いなと思う人には出会えていない。でも今日出会えたかも知れないんだ。結論を急ぎすぎてるのは知ってる。でも俺はもう良い年だから時間がないんだ。」

たくさんの凄腕達が使い古した言葉達。
色を使っているかどうかギリギリな力技だろう。しかしやはり効果絶大だ。

火の鳥に取っては最終奥義的な扱いのルーティーンで、食いつきのある案件に対して絶対的な実績を誇っていた。
そして今回も勝利を確信した。

しかし彼女からは予想外な言葉が出てきた。

「火の鳥さんはどこかの社長さん?もしそうだったらお店に遊びに来て。そして他の社長さんの様に私を手に入れようと頑張ってみはったら?でも私は抱かれないと決めてるの。ごめんね。」

ここでようやく火の鳥は間違いに気付く。
実は終始楽しかったが、何か少し違和感を感じていた。

会話が面白い様に弾む事。
彼女からのIOIのわかりやすさ。
そして彼女のどこか寂しそうな顔。

だから火の鳥は先に仕上げにかかった。
まず車をラブホテルに向かわせても良かった。
しかしどこか確信を持てなかったのだ。

そしてその答えは本当に単純なものだった。

彼女からのIOI、いやクソテストも全て作り物だった。

火の鳥は街で一番の美女に接客されていただけだったのだ。
彼女が毎晩行っている様に。
それに気付けないほど、
彼女は何枚も上手で、火の鳥は手の平で踊らされていたのだ。
圧倒的敗北感。
自分の力を過信していた。

うなだれている姿は彼女にはバレているだろう。
いやもしかしたら彼女にとっては、ナンパされた相手のこの姿を見る事が一種の趣味で快感なのかもしれない。
必要以上に勘ぐる。最悪な思考。

「ちょっと仕事の電話が入った。」

逃げる様にその場から火の鳥は去った。
彼女から見えない場所に座り込み、煙草に火をつけた。
本当に情けなかった。
火の鳥は裸の王様だった。

ぼーっと見つめた京都の夕日はとても綺麗だった。

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「ちょっと一つ聞いていい?」

3本の煙草を吸い終え、その場に戻った火の鳥は彼女に尋ねた。

待たされて少しだけ機嫌の悪い彼女に、続けて尋ねる?

「運命の相手って信じてる?」

夕日を見ながら、一服し火の鳥の思考は回復した。
いや人から見たら可笑しくなっていたかもしれない。

どうせ負ける。ならば嫌われても良いからやりきろう。

彼女が幼いという同世代にも、尊敬できる人が多いという4.50代にもいない異質な存在になろう。

彼女の心を動かせ。イメージするんだ。

するとひとつ可笑しなストーリーが湧いてでてきた。成功する確信など持てない様な筋書きだが成功を強くイメージする。
開き直って、やりたい様にやってやろう。

「信じてるよ。小さい頃からね。」

彼女からは予想通りの答え。
食い気味で火の鳥が返す。

「俺はきっと君にとって運命の相手ではないけど、それを探す手助けは出来る。」

彼女の顔がポカンとする。
そうだ不思議だと思え。
興味を持つんだ。
まだゲームは終わっちゃいない。

「その運命の人はどんな人だい?目をつぶってイメージされる彼は本当に運命の人かい?君はまだまだ子供だから良く解っていないかもしれないね。」

軽くネグ。
どの女性にも目をつぶれば、思い浮かぶ男性がいる。それが恋人なのか、元彼なのか、片思いの相手なのかは人それぞれだ。

ここで火の鳥は何も喋らず黙り込む。
彼女からの質問を待つんだ。

そうすると少し長い沈黙の後、彼女が答えた。

「そうだよね。自分でもそれが彼じゃない事は解っているんだけどね。」

彼女が微笑みながら呟いた。
出口の光が見えた瞬間。

しかし呟いた意味は全くわからなかった。
これまでの恋愛の話では一度も登場してこなかった【彼】の存在が初めて出てきたのだ。

「素直で良い子だ。ゆっくりでいいから、誰にも話せていない秘密をここで話してみたら?俺たちは今日出会ったんだ。共通の知人もいないんだ。言いやすいだろ?」

昔どこかの本で読んだ心理学では、人は誰にも言っていない秘密を2つ話すと、その話した相手の事を好意的に思う。と書いてあった。

火の鳥の最後の作戦は2人で秘密を共有する事。
さあゆっくり聞かせてくれ。

今度はかなりの時間を空けて、ゆっくりと彼女が口と心を開いた。
それは3分だったか、10分だったか、もしかしたら30分だったかもしらない。

火の鳥はその間、また敢えて黙り込んだ。
チラッと見た夕日に照らされた彼女の顔はとても綺麗だった。

「実はね、、」

2人だけの秘密の共有。
彼女が話してくれた恋愛の話は、火の鳥の想像を超える物語だった。
また、彼女が本気で京の街で一番の美女なのかもしれないと思わされる内容だった。

そして火の鳥も墓場まで持って行こうと思っていた事を2つ話した。

嘘でも良かったのだが、彼女のカミングアウトしてくれた事はとても心を打たれたので、火の鳥も本当の事を話した。

もちろん秘密なので詳しく書けないが、
彼女がどうしてそこまで男性を信じないか、或いは綺麗でいたいと思っているのかが心から理解できた。
まるで映画の世界の様な話だった。

「話せてスッキリできた?とても良い顔をしてるけど。」

彼女が微笑む。
さっきまでとの作り物の笑顔とは違った笑顔。
実年齢以上に幼く、あどけなく照れた表情にとても魅了された。

「ワンクッション恋愛方式って知ってる?次の恋に行く為には誰かに抱かれなきゃいけない。
でもその関係はすぐに終わるんだ。でもまたその次の恋愛を長く続ける為に必要なワンクッションなんだ。そして俺がその役目を引き受けるよ。」

そこからは言葉はいらなかった。
車に乗り込みホテルに。
彼女は意を決した様に、自らの行いが正しい事であるのを確認するかの様にうなづき、火の鳥を受け入れた。

そしてベッドへ。
彼女が気にしてたもうひとつの事は、
全然気にしなくても良い事だった。

また彼女との行為は、これまで経験したどれよりも素晴らしかったかも知れない。
本当にいい女だった。

「また会えるかな?」

「また会えるよきっと。」

「嘘つきはるの上手やね。」

感が鋭い彼女は気付いていたのだろう。

でももう1つ言ってないことがある。
火の鳥の3つ目の秘密はPUAであるという事。

近づき魅了し抱いたのも、
全て自分の目標を達成する為。
下衆い理由で君に近づいたんだ。

車を走らせ、彼女を街まで送る。
そしてコンビニへ行きコーヒーを買い、
駐車場でTwitterへ即報を流す。
達成感と疲労感を味わいながらの一服は、
最近のお決まりパターンだ。

その時ふと助手席に違和感を感じる。
そこにはレシートがあった。
火の鳥はコンビニのレシートを持って帰らないのに可笑しいなと思い手に取る。
するとそれは先ほど行ったカフェのレシートだった。

そして裏にボールペンで、とても綺麗な文字で一言メッセージが書かれていた。
火の鳥はその一言を見て驚愕する。

「楽しかったよナンパ師さん。ブログ楽しみにしておくね。」

全て知っていた。
やはり彼女の方が何枚も上手だった。
ルーティーンも何もかも、解っていた事なんだ。

それなら何故彼女は火の鳥に抱かれたんだろう。
最近思う事がある。
抱けば抱くほど、どんどん女性が解らなくなる。。

火の鳥もブログ始めるよ。
そしてこれからは火の鳥独自性を追求していくよ。

また会える日まで。

ありがとうドキドキできたよ。

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