2人で取材ごっこ

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ロビタ「遊ビナンテ ナラウッテモノジャアリマセン ジブンデカンガエルノデス」―火の鳥 復活編
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「最後に教えて。君のアナザースカイは?」

「大阪です笑」

バスが行く。

窓からこちらに手を振る彼女。

299円のワインで少し酔い、
頬を赤くした彼女はとびきりの笑顔だった。

さようなら、気をつけて。


11月某日
20:30

「すっかり寒くなりましたね。」
「えっ?.....あ、はい........」

スーツを着た男が自然にオープンするには?
火の鳥は仕事終わりに、自らのストのスタイルを模索すべく街に出ていた。

この日の自分ルールは敬語で話す事。
俗にいう誠実系ナンパが上手くなりたかったからだった。

1人目
会話は少し続いたが、待ち合わせとの事。
待ち合わせ場所まで並行するが彼氏との約束で、その彼の姿が遠くに見えた為すぐにバイバイ。

2人目
すごくタイプで声掛けないと後悔すると思ってとオープン。
笑ってくれるも、アパレルの仕事中なのでと言われ店内に入っていく。

3人目
さっきと同じオープン。
ガンシカ。こちらを一切見てもらえず。

4人目
顔、スタイル共に最高級。
追いかけイヤホンを外してのジェスチャーをすると外してくれる。
彼女の自信に溢れた目線に少し怖気好きそうになるが、なんとか声を出す。

「今夜はパーティーでもしてたんですか?」

パーティーオープナー敬語版。
頭が真っ白になって、たまたま出てきた言葉がそれだった。
失笑。何ですか?と彼女。
いや実はナンパなんですけど。
私彼氏いるんで。
ですよね。でもまあ話しましょう少しだけ。
いや、そこにいるんで。

またもや数メートル先に彼氏の姿。
外国人の彼はこちらを見て笑っていた。
「ありがとね。」
その場を去る。
なかなか上手くいかない。

一休みとコンビニへ入り、コーヒーを頼む。
ホットSサイズ分の豆を挽く音。

少し退屈な数十秒間。

ぼーっと店内から外を眺めていると、一人で歩く女性がコンビニ前を通り過ぎるのを確認する。

たくさんの荷物
キャリーバッグ
キョロキョロと周りを見渡す視線

チャンスだ。
間違いない。

確実に彼女を見て、これから何かが展開されていく近い未来を容易に想像できた。

急げ。
コーヒーはまだ出来上がらない。
早く。もう置いていくか
まだか早く。

出来上がったコーヒーの蓋もせずに走る。
手にこぼれ、熱さを感じるも気にせず。
せっかく見つけた自分だけの獲物を追う狩人の様に。
それは見失いたくなかったからか、誰かに取られる事を嫌がったのか。

「すごい荷物だね。どこか探してるの?」

息を切らしながらオープン。
敬語ルールなんてもうどうでも良かった。
とにかく集中しよう。

「あの...夜行バスの乗り場に行きたいんですけど、携帯の充電が切れてしまって...。」

確実に関東圏のイントネーション。
スマホで検索するからと、通行人が行き交う歩道から、ファッションビルの前まで誘導。

立ち止まって会話しながら、バス停を検索。
今いる場所からすぐ近くだった。
そしてバスの出発時刻を聞く。

「23時頃だったと思います。」

時刻を確認。
現在20時45分。
あと2時間。

「わかった。それまで俺が時間潰しに付き合うよ。」

彼女は少し考えた後、満面の笑みを浮かべながら、お願いしますと可愛いジェスチャーで頭をさげた。

その時の彼女の笑顔は、とても輝いて魅力的に見えた。

それは彼女の後ろに光るイルミネーションがそうさせたのか。
それとも大阪の最後の思い出を見つけた、彼女自身が発した光だったのか。

時間がない。
イメージしよう。
火の鳥はPUAだろ。
結果に拘ろう。
自分を追い込む為に、Twitterに連れ出し報告。

さあゲームの始まりだ。
タイムリミットは2時間。

ただの誠実な男との思い出では終わらせない。

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「どこか良いお店に連れていってくれるんですか?」

もう既に晩ご飯を食べ、お酒も少し楽しんだという彼女が尋ねる。

彼女は関東から大阪へ一人で旅行に来ていた大学4回生。酒造関係への就職も決まっている。

今回は大阪へお酒の勉強も兼ねて、旅行へ。
3泊全てを1人で過ごすという、行動的な女性だった。

彼女のイメージでは後2時間どこかのお店で飲みながら過ごす。
今日はまだワイン飲めてないなとの言葉がそれを表していた。

「まあまずは念のため、バス停まで行って場所を確認しとこう。」

歩いて2.3分の場所にあるバス停まで歩く。
最後送る時に場所を間違えたくないので、下見しておきたかったのと、どうやって限られた時間で結果を出すかイメージできていなかったので、思考したかったから。

「あとで良いお店に連れて行くから、楽しみにしておいて。」

直LHの口実は?
やはりカラオケか?
どう誘う?
どんなルーティーンがあったっけ?
そんな思考をぐるぐると回しながら、
彼女の話を聞いていた。

するとわかった事。
彼女はとてもよく喋る人だった。

自分の現在の状況、未来の設計図。
お酒に関する知識、お酒への考え方。

それはまるで、文化人の話を聞いている様な気分にさせたし、実際彼女の話は知らない事ばかりで面白かった。

また今回の一人旅の思い出を話す事を、渇望している様な雰囲気でもあった。

決めた。無駄なルーティーンはいらない。
今夜は火の鳥がインタビュアーになろう。
彼女は話したがっている。

今彼女が興味のある事は彼女自身の事だ。
その対話がきっと2人の距離を縮めるはすだ。

バス停に着く。
正確な出発の時刻は11時20分だった。

「君の話はとても面白いね。有名人と話してるようだよ。だから今から情熱大陸として君に密着取材させてもらうね。」

「何ですかそれ笑?」

「ちょっと歩きながらの絵も欲しいから、もう少し歩いてインタビューさせてもらうよ。」

「ふふふっ笑 面白い人ですね。わかりました。私はどうすれは良いですか?」

「なりきって。美人過ぎるお酒のプロに。」

「美人じゃないですよ笑」

「いいから、いいから。あっじゃあ一つ目の質問。初めてお酒に出会ったのは?さあ行こう。」

歩き出す。
とりあえずLHのある方向へ。
ここから15分はかかるか?
この15分で関係を築こう。

大の大人は同行D兼カメラマン、
旅行者は出演者になりきった遊びが始まる。

とても楽しい時間が過ぎていく期待に、2人は胸を弾ませた。

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「フランスでは入院中でも、毎日グラスワイン2杯までなら飲んでも良いの。」

沢山の質問と答え。
彼女はいつからかエンジンがかかり、もう敬語も使わなくなっていた。
そしてこの遊びを楽しんでいる様だった。

「なるほど。じゃあ君の思うお酒と芸術の関係とは?」

そんな質問をしていた時には、もうLH街近くまで来ていた。

「私、学生時代に1年フランスのブルゴーニュに留学していてね・・」

「ちょっと待って、その話の前にそこの花壇に座ってもらえる?その絵も欲しいから。」

「わかった笑 それでね、ブルゴーニュっていう所は・・」

彼女の話が続く。
面白いけど、このまま終わったら意味ないぞ。
相槌を打ちながらタイミングをはかる。
目の間にはコンビニ。
近くにはLH。

「じゃあ君のアナザースカイはブルゴーニュなんだ?」

「情熱大陸なんでしょ笑」

「ごめんごめん笑
じゃあ次、お酒とSEXの関係は?」

「んー。やっぱりお酒もSEXも精神的には必要なものじゃないかな。人間らしく生きるには。」

「人間らしくね。」

そんな会話が続く。
時間は既に21時30分。
逆算するともう勝負かけないと。
取材ごっこで終わっちゃ意味ないだろ。

「ちょっとこのまま座ってて。そこのコンビニで買いたいものあるから。後でインタビュー再開させてね。」

「オッケー。」

コンビニに入る。
酒コーナーへ足早に。
あるか?
あった。
300㎖程の299円のワイン。
これが今夜の武器だ。

「お待たせ。これカリフォルニアワインなのに、フランスっぽい名前の安物のワインなんだ。世界中のワインを飲んだ君に敢えてテイスティングしてみてもらいたいんだけど。」

「さすがに世界中のは飲んでないよ。でもいいね。面白そう。飲んだ事ないわ。」

「だけどラッパ飲みという訳にはいかないから..」

「私グラス持ってるよ。このバッグの中に笑」

「凄いね笑 じゃあそれで飲もう。」

「ここで?外で?」

「いやそれは流石に違うから、部屋で座って飲もう。」

彼女の手を引く。
近くのLHへ向かう。

入り口手前で彼女の足が止まる。
彼女の表情は?笑っている。

「人間らしく俺はいたいんだ。」

「ばーか笑」

部屋に入る。
グラス2つにワインを。
彼女が上手く注いでくれたグラスで乾杯。
専門家の様な飲み方を教わる。

「インタビューの続きなんだけど、どう味は?」

「とても飲みやすくて美味しい。」

「安物なのに?」

「お酒は何を飲むかより、誰と飲むかが重要なの。」

「そっか。じゃあ次の質問。今キスしたら、ワインの味すると思う?」

「ばーか笑」

ベッドへ。
彼女の理性が完全に解放された。
人間らしく、性に実直な彼女のSEX。
情熱的なやりとり。
大阪の最後の夜を、心から楽しんでいる様だった。

ならこっちも楽しもう。
遊びはまだ終わってない。

「ベッドがびしょ濡れなんだけど何で?」

「ばーか」

「なんで自分から腰振るの?」

「だって」

「何回イクつもり?」

「いじわる」

果てる。
その瞬間ニヤけてしまった。
今までのやりとりを思いだして。

「私何してるんだろ笑 こんな事初めて。」

「本当かな?」

「良い思い出が出来た。ありがとう。でももう1泊したいな。」

「ダメだよ。家族も心配するよ。」

「そっかこのまま朝までここにいたかったけど、しょうがないね。ありがとう。」

「こちらこそありがとう。もうバスの時間が近い。すぐ行かなきゃ。送るよ。」

急いで荷支度をし、バス停へ向かう。
その最中腕を組んできた彼女は、まだ大阪への未練が残っていそうだった。

でもこれは旅行中の魔法にかかっているだけだ。
今帰った方が絶対に良い思い出になるよ。

バス停へ到着。
時間ギリギリだった。

急いでキャリーバッグをバスの収納に。
運転手も態度でこちらに早くと催促する。

「ありがとね。気をつけて。」

「こちらこそありがとう。」

少し長いキスをする。
運転手が早くとクラクションを鳴らした。

「最後に教えて。君のアナザースカイは?」

「大阪です笑」

バスが行く。

窓からこちらに手を振る彼女。

299円のワインで少し酔い、頬を赤くした彼女はとびきりの笑顔だった。

さようなら、気をつけて。


彼女を見送ってから、もう一度街に戻った。

目の前に綺麗な2人組が通過する。

逆3でも今なら大丈夫。
オープナーはこれだ。

「すみません。情熱大陸の取材をさせて欲しいんですけど。」

「はっ?ほんまうざいんやけど。消えろや。」

しばらく地蔵する、、

もっと練習が必要だ。。

ありがとう

ドキドキできたよ。



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